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グローバル化が進む時代に問う、社会に貢献できる人材育成とは

龍谷大学文学部長 安藤徹氏に伺う

  • 2018.07.27 16:00
  • ライフスタイル

 

記憶に新しいサッカーのロシア・ワールドカップ。16強に進出した日本代表チームの組織力は海外メディアにも高く評価され、日本のサッカーを世界に知らしめることとなった。そして同時に、日本代表の応援に駆けつけたサポーターたちのマナーの素晴らしさも世界に注目されることとなった。

今回のワールドカップに限ったことではないが、日本人サポーターたちはゴミ袋をわざわざ持参してまで試合終了後にゴミを回収し、スタジアムの美化に努めた。試合に勝っても負けても同様に、その場の感情に押し流されることなく粛々とやるべきことをやり遂げた日本人の姿は、誰の目から見ても称賛に値した。

このような日本人に独特な社会貢献の習慣は、どのように体得されるのだろうか。日本人の精神論を語るうえで、例えば哲学者の和辻哲郎は風土に着眼点を置き、また日本文学者のドナルド・キーンは文芸作品に答えを求めている。

そしていまひとつ注目されるべきは仏教の教えに由来する精神だ。

仏教、とりわけ浄土真宗の精神を建学の精神とする龍谷大学の入澤崇学長によれば、「利他」は「排他」とは真逆の精神作用であり、すべてのいのちを大切にして、他者と共に生きていく姿勢を指すという。

自分とは違う他者を受け入れ、共存していく利他の精神は、裏を返せば一人ひとりの個性を重んじるということではないだろうか。自分の個性を大事にし、また他者の個性も大事にする社会。仏教が説く利他の精神は、ポピュリズムが台頭して世界に排他的感情が渦巻いている今だからこそ、その必要性が高まっている。

個人の尊厳を重視した環境で学ぶことの意義について、そしてグローバル化が進む時代に社会貢献するためにはどのようなことを身に着けるべきか、龍谷大学の文学部長、安藤徹氏にお話を伺った。

◆日本一長い伝統を持つ教育機関

――龍谷大学にとっての文学部とは?

龍谷大学は江戸時代の初めに起源を持ち、来年380周年を迎えます。そうした歴史と伝統ある本学の中でも一番古いのが文学部です。元々は僧侶の学問所でしたが、現在は仏教系の学科のみならず、哲学や教育、臨床心理学、歴史学、文学といった人文学の様々な専門領域を幅広く学べる学部となっています。

――どのような学生が集まりますか?

学ぶ意欲が高く、「これを学びたい」という目標をしっかり持った学生が多いと思います。その一方で、文学部のカリキュラムは自由度が比較的高いので、大学に入ってから学びたいことが広がったり、変わったりした場合でも柔軟に対応できるようになっています。最初に学びたかったことを追究しつつも、在学中に更に視野を広げたりずらしたりしながら成果を得られるような学びの環境を整えており、学生はそれに基づいて一生懸命頑張っています。

◆社会を読み解く力

――現代の実社会に沿う・合う、といった学びの場を提供されているとの事ですが、どのような工夫があるのでしょうか?

文学部というと、最近のいわゆる「実学」志向の中で、社会と直接関係しないというイメージが先行し過ぎていると思います。実際には文学部での学びも社会と繋がっていて、社会に役立つ事柄を日々学んでいます。

鍵となるのは「言葉」。言葉は人間社会の根幹にあり、言葉なくして社会は成り立ちません。人間にとって当たり前のようにある空気や水がもし自由に使えなくなったら、そのありがたみと価値に改めて気づかされると思うのですが、おそらく言葉もそういうものではないかと思います。

文学部は文学を学ぶ学部ではなくて、文を学ぶ学部、「文」学部なんですね。「文」とはまさに言葉のことであって、各学科専攻の専門はそれぞれ違うかもしれませんが、いずれもすべて言葉に関わる学問です。

ではその言葉とはどういう仕組みで成り立っているのか、言葉によって社会がどう成り立っているのか、また言葉の力でどうやってよりよい社会を作っていけるのか、未来を切り開いていけるのか。

何よりもまず、資料や文献に向き合いながらしっかりと読み解く力をつける。それが言葉によって成り立つ社会そのものを読み解く際の基盤になります。社会を深く読み解ければ、より良い社会を築くことも可能になるでしょう。例えばこのような形で社会に貢献できる力を身につけられるのが、文学部の学びではないかと思います。

昨年度から新たに始めた授業では、大学の周辺地域に出かけて行ってその地域の魅力を「言葉」の専門家である文学部生みずからの視点で発見し、フリーペーパー(4万部発行)として表現・発信することで、地域の活性化に繋げることを試みています。地元の皆さんと力を合わせながら、龍谷大学文学部があるこの地域そのものと連携し、社会に貢献しつつ、そこから学びの成果を得て、卒業後もその経験を活かしていくことができるようにする、そんなカリキュラムです。

――そうしたカリキュラムやプログラムを実施することで、学生たちに目に見える変化はありましたか?

文学部の学生は全般的にややおとなしい傾向があり、一人でコツコツと資料を読み解いたり、本をじっくりと読んだりすることの得意な学生が多いことは事実です。そうした学生も、授業の一環としてフリーペーパーの作成のために社会に出て行って、様々な人とコミュニケーションを図り、取材などを重ねる中で、よりアクティブな側面に自ら気づいたように見受けられます。

積極的にいろんな人と接して、相手の魅力を引き出し、あるいはそれを自分達の言葉で伝えようと取り組む学生たちは、生き生きとした表情をしていて、手応えがあるのだと思います。すごくいい経験をしているんだなと感じます。

――龍谷大学というと歴史的な書物や貴重な文献が多く所蔵されていますが、その龍谷大学の文学部だからこそ学べるものとは何でしょうか?

文学部のある大宮キャンパスには、ほぼ文学部の専門図書館とも言える大宮図書館があります。ここには70万冊を超える資料や文献が所蔵されています。国宝や重要文化財も含め、大変貴重な資料も含まれています。そうした資料と身近に接しながら学べる経験は他ではなかなかできません。

その中には例えば明治時代にシルクロードを探検した大谷探検隊が持ち帰った資料などもあります。それらに触れることは世界に視野を広げていくきっかけにもなります。現代の諸言語にとどまらず、古代のサンスクリット語やパーリ語などを学ぶこともできます。貴重な文献資料を使いながらじっくりと歴史や文化・思想に触れつつ、現在、そして未来を見据える学び方ができます。

また、通時的だけでなく、共時的な面でも、世界に向けて国際的な視野を得るきっかけとして、様々な言葉やその言葉に基づく資料と接し、学ぶという貴重な経験ができるのが魅力だと考えています。

◆根元から成長する

――これから龍谷大学文学部に入ろうと思っている学生さんたちの未来に関して、先生方はどんなお気持ちでいますか?

植物には成長点というものがあるそうです。多くの植物の成長点は葉や茎の先端にあって、そこからどんどん上へ上へと伸びていくらしいんですね。要は最先端のところで勝負するという形になると思うのですが、文学部の成長点は先端ではなく、根元のあたりにあるというイメージが適していると思います。

植物の中でもイネ科では根元、株元のところに成長点があって、そこから株を分けながらぐんぐん押し上げる形で成長していく。過去からすべてが始まっていて、現在があり、そして未来もある。その一番根元の所からぐっと押し上げる力を身に着ける事が出来れば、最先端で活躍する人達とはまた違った形で社会に貢献することができるはずです。葉先はすぐに刈られたり食べられたりするかもしれません。しかし、根元、株元はしぶとく生き延びます。

イネ科の植物にたとえてみると、文学部というもの、文学部での学びといったものが、未来とどのように関わっていくかが少しイメージしやすくなるかなと思います。

一方で、これからはAI(人口知能)が人間を超える「シンギュラリティ」とかSDGs(持続可能な開発目標)といった最先端の世界的課題に対して、人文学の知見を活かした教育・研究を展開すべきという議論も教員たちの間で起きつつあります。文学部なりに現代そして未来の社会の課題といかに向き合い、解決していくかが問われています。

直接、間接に関わらず、学生たちには文学部での学びを今後積極的に活かし、社会に貢献できる有為の人間として、根元から未来を切り開いていくことを期待しています。

◆キーワードは「学びほぐす」

――最後に、龍谷大学文学部を目指す学生さんにメッセージをお願いします。

文学部というと、学ぶ内容や学び方があらかじめしっかりと固まっているように思われるかもしれません。哲学は哲学固有の領域があり、学び方がある。古典文学もこういう風に読むものだと決まっている。そんな先入観が強いのではないでしょうか。むろん、物事を正確に読み解くことは学びの基本です。しかし、それが、それだけが、文学部の学びではない。私はむしろ「学びほぐす」ことが大事だと思っています。

これまで学んできたことを一回ほぐしてみて、ほぐした上で自分自身にあった形でもう一度身に着けて、社会で役立つ形へと変革していくことが必要だと思います。先入観だったり思い込みだったり、あるいは一つの方向から学び過ぎてしまったり、凝り固まったりということがどうしてもあると思うのですが、龍谷大学文学部では、そういったものを一回ほぐして、新しい形で学びを深めたり広げたりする機会を用意しています。是非これから龍谷大学文学部で学ぶ皆さんには、そうした経験をたっぷりとして欲しいと願っています。

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