「青い歯」を持った尼僧の謎が解ける!中世に存在した女性の写字生たち

「青い歯は、芸術家としての小さな証拠であった」。

謎かけのようなタイトルが、ヨーロッパの新聞紙面を飾った。

その意味するところは、中世に写本の制作に従事していたのが男性だけではなかったというものである。いったい、青い歯と写本のあいだにはどんな関連があったのだろうか。

 

ドイツの中世修道院から発見された女性の遺体、分析によって発見された謎

ドイツのマックス・プランク研究所では、ダルハイム修道院の敷地内で発見された「B78」と呼ばれる女性の遺体の分析を行った。放射線年代測定によれば、彼女が生きていたのは997年から1162年、45歳から60歳のあいだに死去したと推定された。彼女の骨格については、特別なことは何もなかったという。唯一、歯に残された青色の痕跡以外は。

そう、彼女の歯のあいだには歯石の層とラピスラズリの顔料が残っていたのである。

 

仕事中にペン先を舐める癖があった修道女

Credit : Wikimedia Commons

すべての書籍は写字生と呼ばれるプロの手によって書き写されていた中世、書籍は大変に高価なものであった。

そして、こうした書籍には美しい装飾が施されるのが通常である。顔料としてさまざまな鉱物が用いられたが、その中でも特に高価であったのが高貴な「青」を生み出すラピスラズリである。そのため、この色を使えるのは熟練の写字生に限られていたといわれている。もう少し時代は下るが、かのミケランジェロでさえも、ラピスラズリを入手が簡単ではないといわれていたほどだ。

そのラピスラズリがなぜ、中世の一修道女の歯に残っていたのであろうか。

マックス・プランク研究所のクリスティーナ・ワーリナー博士は、この一修道女が写本に従事しており、仕事中にペンの先を舐める癖があったのではないかと推測している。そしてこの事実は、タイムカプセルのようにさまざまなことを我々に教示しているのである。

 

中世には珍しかった女性の写字生の存在

Credit : WIkimedia Commons

当時、書籍の中で最も権威が高かったのが聖書をはじめとする宗教書である。高価なラピスラズリは、この聖書の制作のために用いられることが多かった。つまり、修道女の口の中から発見されたラピスラズリは、この女性が熟練の写字生として高価な顔料を託されたいたことを示している。

研究によると、当時の女性修道院の数は男性のそれと比べて決して少なくなかったにもかかわらず、写本制作の世界ともなると女性の写字生は全体のわずか1パーセントであったといわれている。謙虚であった彼女たちが、制作した写本にサインを残していないという事実もそのパーセンテージの低さを助長している。

しかし、今後も続けられる過去に生きた女性たちの研究では、口腔内の鉱物により注目すると研究者たちは語っている。

研究結果の如何によっては、このパーセンテージが上昇する可能性はゼロではないのだ。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007