絵画の中に隠された秘密のコード…ミケランジェロは脳、ボッティチェッリは肺

作家ダン・ブラウンが『ダ・ヴィンチ・コード』を発表し大ブームなって以降、「〇〇コード」というものがよくニュースになる。「ミケランジェロ・コード」「ボッティチェッリ・コード」「ジョット・コード」「ティントレット・コード」、エトセトラエトセトラ。

いずれも、天才たちが残した作品の中から、秘かに込められたメッセージを読み取るという根気を要する研究である。本人はもういないのなから、それは推測の域を出ない。しかし、解剖学や神経医学の専門家が実にまじめに取り組んでいるテーマなのである。

 

ミケランジェロが描いた『天地創造』の中の脳

Credit : Wikimedia Commons

こうした「秘密のコード」のテーマで最もよく知られているのが、ミケランジェロの「脳」であろう。彫刻や画家としてではなく、あらゆる分野で抜きんでた才を発揮した彼ならばさもありなんと思わせるのが、バチカンのシスティーナ礼拝堂の天井に描かれた『天地創造』にある「脳」なのである。

おあつらえ向きに、その「脳」は神が最初の人間アダムを創造するシーンに登場する。映画『E.T』でも有名になった、神とアダムの指が今にも触れそうな瞬間を描いたこの場面。神を囲む天使たちと赤い布の形状が、「脳」という説である。

記録によれば、ミケランジェロ自身も解剖学に興味を持っていたという。そして、現代の医師の目から見ても、その形状は脳の断面図そのものだと主張したのが、アメリカのセント・ヴィンセント・アンダーソン・リージョナル病院の神経学者フランク・リン・メッシュバーガー博士であった。この説は、1990年10月に『米国医師会雑誌(JAMA)』に掲載されて、賛否両論を巻き起こした。

また、2010年にはジョンズ・ホプキンズ大学の教授2人が、『天地創造』の「光と闇の分離」のシーンに描かれる神の中に「脳」が描かれていると、医学雑誌『ニューロサージェリー』に発表。

神は人間に、肉体だけではなく知能をも与えたことを示すものだ、というのがこれらの説に賛同する人たちの一致した意見らしい。

 

ボッティチェッリの中に描かれる「肺」

Credit : Wikimedia Commons

医学の分野から芸術や文学を分析する試みは、ここ数年しじゅうニュースになる。ミケランジェロの「脳」の後にも珍説奇説が登場したが、特に話題になったのがイタリアの外科医ダヴィデ・ラッザリが提唱したボッティチェッリの秘密のコードである。

ラッザリ博士によれば、ボッティチェッリが描いた代表作『春(プリマヴェーラ)』には、神の息吹によって誕生した女神ヴィーナスを寿ぐかのように「肺」が描かれているのだという。それは、神々が集う森の木々によって形成される空洞であり、いわれてみれば二つの肺に見えなくもない。

さらにラッザリ博士は、ボッティチェッリのもう一つの代表作『ヴィーナスの誕生』では、向かって右側にいるフローラが持つ赤い布が、やはり「肺」の形状だと主張。

ラッザリ博士は、「ボッティチェッリが、解剖を行ったという記録はない。しかし、解剖に興味があったボッティチェッリの師匠アントニオ・デル・ポッライオーロや親友のレオナルド・ダ・ヴィンチの影響を受けた可能性もある」と語っている。

 

今度はザクロの形が心臓!

Credit : Wikimedia Commons

そして、今度は心臓である。

つい数日前、ラッザリ博士がローマ・トルヴェルガータ大学や英国のニューカッスル・ホスピタルの同僚とともに、ボッティチェッリの作品に「心臓」が描かれていると医学雑誌に発表したのである。

くだんの作品は、『ザクロの聖母』という名で知られている。繊細な美しさを誇る聖母と、それを囲む優美な天使たちといういかにもボッティチェッリらしい作品である。問題の「心臓」は、聖母が膝に抱く幼児イエスの手に握られた「ザクロ」である。

ラッザリ博士は、熟して割れたザクロの内部は心臓の心房、心室の位置と一致すると主張している。さらに、当時の解剖学者モンディアーノ・デ・ルッツィやジローラモ・マンフレディの著作に刺激を受け、ボッティチェッリがボローニャ大学で行われた解剖に立ち会ったという記録も見つかったのだという。これが本当なら、ボッティチェッリは胸部の臓器によほど興味があったのだろう。

ちなみにザクロは、イエスキリストが流した血の象徴として、当時の宗教画にはよく描かれていて珍しいものではない。

Credit : Wikimedia Commons

このほかにも、ピエロ・デッラ・フランチェスカが描く祭壇画の中のイエスは「気管支」の形をしたサンゴの首飾りをしている説などなど、芸術の中から「臓器」を探す研究は枚挙にいとまがない。

 

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007