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ミケランジェロ家の庭訓は「お風呂に入るな」だった?体がムズムズするような昔の欧州の風習

ヨーロッパの人たちは体を洗わなかった。これは真実なのであろうか。

風呂好きの日本人からすれば信じられないことに、太陽王ルイ十四世は74年に及ぶ人生の中で、「入浴」したのは27歳であった1665年、わずか1回しか記録に残っていない。

歴史学者の近年の研究によれば、より不潔といわれていた中世の時代のほうが近代よりもよほど「入浴」の習慣が残っていたことが明らかになっている。

われわれ日本人ならば、読んでいるうちにむずむずしてくるようなヨーロッパの尾籠な話である。

 

ミケランジェロの父の教え「絶対に洗ってはならない!」

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ボローニャ大学歴史学科教授のパオロ・ソルチネッリは、歴史における「水」の存在の研究で有名である。彼によると、ルネサンスの天才ミケランジェロの父ルドヴィーコ・ブオナローティは息子に、「頭部はよくよく大事にしなさい。蒸れない程度に温かく保ち、絶対に洗わないこと。掻くことは構わないが、洗ってはいけない!」と諭しているのだそうだ。

何世紀にもわたって、ヨーロッパでは「入浴する」ことは鬱病やさまざまな病気を引き起こすといわれてきた。最低限の衛生を保つためには、衣服を着たまま乾いた布などで体をふくくらいが関の山であったという。王侯貴族と言えども、ノミやダニにまみれて生活していたのである。

それを証明するもののひとつに、ルネサンス時代に大流行した女性のバッグがある。動物の毛皮で作られたこのバック、もちろんステイタスシンボルでもあったのだが、出産から命を守るお守りとして作られたともいわれている。さらに驚いたことに、体中のノミをこのバッグに集める役割も果たしていたという説があるから興ざめである。

 

「ビデ」の出現は1762年

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日本のトイレには、「ビデ」の機能がすでに便器に備えられている。しかし、南欧では相変わらず便器の隣に「ビデ」という別の物体が置かれているのが普通である。入浴の習慣がある日本人から見ると、バスルームのスペースを占領するこの「ビデ」は無用の長物でしかない。「ビデ」はヨーロッパでは(衛生上の)文明のシンボルであり、イタリアとポルトガルに圧倒的に多いといわれている。

「ビデ」が歴史上はじめて記録されたのは1762年。フランスの政治家ダルジャンソンが、宮廷の権力者プリ侯爵夫人を訪ねたときのことである。「ビデ」の普及は、当時の水への概念が影響していた。流れていない水は病気の温床であり、たとえそれが風呂桶であっても衛生的ではないと考えられていた。また、熱いお湯に体をつけることは、体中の毛穴が開きそこから病原菌が侵入するという迷信まであったという。

 

公衆浴場の概念がわずかに残っていた中世

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とはいえ、古代ローマ帝国時代の遺跡を見れば、古代ローマ人が入浴を愛していたことは一目瞭然である。この入浴の習慣は、暗黒の中世においても想像以上に各地に残っていた。

実際、イタリアやイギリス、スペインには、「バルネア」と呼ばれる公衆浴場の存在が認められている。ただし、こうした浴場には「売春」がつきものであり、これがキリスト教会が入浴に目くじらを立てる一要因であった。当時のヨーロッパの思想を牛耳っていたキリスト教会は、「入浴」と「色欲」を関連付ける聖職者が少なくなかったのである。

とはいっても、中世の医師たちの中には衛生上の理由や病気療養を理由に入浴を推進する人も多かった。中世のローマ法王たちが夏にヴィテルボに移動していたのも、この地に温泉があったという理由もあったのである。

それが、いつの間にか七つの大罪のひとつ「色欲」と結びつけられ、体をきれいに保つよりもノミにまみれているほうが模範的な信者とされる時代が近代まで続くのである。

 

水の供給量が増えた近代から復活した「入浴」

水に関する概念の転換点となったのは、1800年代に入ってからのことであった。

富裕層の自宅を中心に、プライベートな空間が重要視されるようになり、住宅の様式が変化していった時代である。

1人当たりの水の供給量が5リットルを超えたころから、学校の寄宿舎や兵舎でも体を清潔に保つことが教条に記されるようになった。

現代のヨーロッパでは、1人当たりの水の使用量は200リットルにもなる。衛生面では問題なくなったとはいえ、水の問題は常に時代に応じた問題をはらんでいるのである。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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