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今はインスタ映えを気にしている場合じゃない?賞味期限ギリギリ食材のレストランと食料廃棄ゼロへの試み

1年間に世界中で廃棄される食糧の量は、実に13億トン。一般家庭から、スーパーのカウンターから、そしてレストランからも食の廃棄が止まらない状況となっている。

食のブームは秒速で変化し、インスタ映えなどの「見た目」重視に傾きつつある昨今、その食の流行を先導するシェフたちによって食料廃棄への警鐘が鳴らされはじめた。EUは、2030年までに食料廃棄量を現在の半分にまで減らしたいという切なる目的を表明している。

 

スウェーデンに開店した「賞味期限ぎりぎり」食材を使用したレストラン

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こうした風潮の中、スウェーデンのマルメにオープンしたレストランが話題となっている。

星付きレストランで総料理長を務めていたエリック・アンダーソンは、日々廃棄される食糧対策の必要性を実感し、スウェーデンのマルメにひとつの試みとしてレストランをオープンした。それは、賞味期限が切れる寸前の食材のみを使用したレストランなのである。

エリック・アンダーソンはある日、食材の卸業者と雑談をし、販路にも乗ることなく廃棄される食材の量に仰天する。人間は家畜を飼育し、屠殺し、加工する。そうした工程を経た肉が販売もされずに捨てられる、これは断じて正しいことではないと彼は立ち上がるのだ。

彼がオープンしたレストランには、メニューが存在しない。業者から届く賞味期限が切れる直前の食材は、あらかじめ知ることなどできない。野菜、果物、肉、その日によって届く食材は異なるから、すべて「今日のメニュー」として提供されるのだ。

エリック・アンダーソンが目指すのは、「食料廃棄ゼロ」である。だから、ランチメニューで残った料理は、お弁当のように箱詰めされて販売される。調理されなかった食材は、乾燥したり塩漬けにしたりして保存する。

そしてエリック・アンダーソンは、彼のこのレストランが5,6年後には閉店できることを祈っている。つまり、5年以内に人類が「食料廃棄ゼロ」に向けて確実な方策を見出せることを切望しているのだ。

 

「料理人としての成功は、農村のスピリット、技術、そして食材廃棄ゼロに由来する」

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イタリアで最も著名なシェフとして知られるマッシモ・ボットゥーラ。

ミシュランの三ツ星を獲得した料理人である彼は近年、「食料廃棄ゼロ」へのプロモーションを強力に推し進めている。5人兄弟にもまれて育ったマッシモ・ボットゥーラにとって、「前日のコーヒーやパン」もゴミ箱に行くものなどひとつもなかったという。その彼が、廃棄される運命にある食材を使用して恵まれない人々に食事を供する「食堂(Refettorio)」をオープンしたのは、食がテーマであったミラノ万博が行われた2015年のことだ。ヨーロッパでは、生産される野菜や果物の3分の1が、見た目が悪いことや熟しすぎたことなどを理由に廃棄されることを知ったボットゥーラが起こしたアクションである。

マッシモ・ボットゥーラは、インタビューでこう答えている。

「私の料理人としての成功は、農村のスピリットを失わないこと、調理技術の向上、食材の一切を廃棄せずに使用すること。これらを遵守することによってなされたものです」。

イタリアでは、「アヴァンツィ(残り物)」というカテゴリーのレシピがあり、料理本も数多く出版されている。固くなってしまったパン、しなびたトマトも想像力で「美味」に変えろ、というのがボットゥーラのポリシーだが、貧しかった時代の農村の食文化が現代の健康志向とマッチしたという事実も否めない。

食材や料理を廃棄しないようにしようという試みは、世界各地に広がりつつある。

「KARMA」と名付けられたアプリは、ロンドンのレストランで売れ残った商品をサイトに掲載、破格の安さでそれを欲する客に販売する機能でニュースになった。

 

「新たなトレンド」からプレッシャーを受ける小規模農家

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しかし、こうした世界中のシェフたちの「善意」は、小規模の農家には大きなプレッシャーとなっているという。熟して形が崩れてしまう前に、「妥当な」価格で農作物が販売されてしまうことは、競争力が高くない農家には大きな痛手となる。競争力を持つ大手の農業者のみが生産量を落とさないまま、弱者が社会から零れ落ちていくという現象を生みかねないのである。

 

実際、アメリカの小規模農家では収入が前年度よりも20パーセント減少したという報告もある。「食料廃棄ゼロ」という大義の陰で、思いもよらない損害を被る農家にも今後は配慮が必要になるだろう。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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