Credit : The Ocean Cleanup

ボイヤン・スラット、巨大バリアで海のプラスチックゴミ収集目指す24歳の天才発明家

今年の7月27日に24歳の誕生日を迎えたオランダの若き発明家にして起業家、ボイヤン・スラット(Boyan Slat)。

彼が弱冠18歳のときに発足させ、現在に至って最高運営責任者を務める非営利団体、The Ocean Cleanupが、ついに今まで誰も手をつけられなかった海洋プラスチックゴミの回収に乗り出した。9月8日に5年がかりで開発を重ねてきたプロジェクトを始動させたばかりで、世界中の期待を一手に浴びている。

Credit: Pierre Augier for The Ocean Cleanup

 

スラット氏が発明した海洋プラスチックゴミ収集機が実地でも計画どおりに稼働できれば、今後同じようなプロジェクトを60機ローンチし、5年間で世界中の海洋プラスチックゴミを半減できるという。

野心的な目標に向かって力強いスタートを切ったスラット氏の、これまでの軌跡を辿ってみた。

Credit: Pierre Augier for The Ocean Cleanup

 

天才の生い立ち

オランダの古都、デルフトで生まれ育ったスラット氏は、クロアチア系移民の両親を持つ。Up/Closedによれば、2歳頃からモノを組み立てたり作ったりすることが好きだったそうで、14歳でその生まれながらのモノづくり精神とリーダーシップを発揮して、「世界で同時多発的に最多のペットボトルロケットを発射」した記録を打ち出し(ちなみに213個)、ギネス世界記録に名を馳せている。

 

複数のソースによれば、人生の転機は16歳の時に訪れたギリシャだった。ダイビングを体験したが、「魚よりもプラスチックゴミの数のほうが多くて」愕然としたという。

世界の海に何が起こっているのかを詳しく知るために、高校最後の年に海洋プラスチックゴミについての研究に没頭した。そして、「ゴミベルト」と呼ばれるプラスチックゴミの吹き溜まりが世界中の海に五か所も存在し、思っていたよりもはるかに汚染の状況がひどいことを知った。当時は、これらの「ゴミベルト」からプラスチックゴミを完全に除去することは不可能だと考えられていて、誰一人対策に乗り出していなかった。

その後スラット氏は名門・デルフト工科大学の宇宙工学科に進学するも、プラスチックゴミの脅威が彼の脳裏から離れることはなかった。17歳の時、「Ocean Cleanup Array」と呼ぶ、独自の海洋プラスチックゴミ収集機を発案し、TEDトーク会議にて発表。大きな反響を呼び、世界的に注目されるようになった。

彼は悩んだ末、このチャンスを起業につなげたいと考えて大学を中退し、学生らしいソーシャルライフを犠牲にしてまで「Ocean Cleanup Array」の実用化に向けての起業の道を選んだ。

 

時間との戦い

スラット氏は、この選択について悔いはないとMother Nature Networkに語っている。

「五か月ぐらい会っていなかった親友と、最近やっと話す機会があったんだ。今はそういうことに時間を割けないけど、あまり苦には思っていない。だって、自分のアイディアを実現できるチャンスなんてなかなかないし、こんなに楽しいことはないから。」

スラット氏が私生活を犠牲にしてまでプラスチックゴミと向き合うのには、わけがある。プラスチックゴミが波と太陽によって砕かれ、より環境に有害な5㎜以下のマイクロプラスチックに分解されてしまう前に回収するのは、時間との戦いだからだ。

プラスチックが大量生産され始めた1940年代以降、海に投棄され続けたゴミの総量を正確に把握することはむずかしいが、国連などの推計によれば年間800万トンにも及ぶという。これは、一分毎にゴミ収集車一台分のプラスチックゴミが海に投げ捨てられるに価するそうだ。

 

海上に嵐が吹き荒れた後、波打ち際まで押し寄せられるゴミは言葉を失くすほどひどい光景だが、映像のドミニカ共和国などではもはや日常茶飯事だという。

その上、さらに巨大なゴミの吹き溜まりが世界中の海に点在している。このままだれも回収しなければ、海上を浮遊するゴミはどんどん小さく砕かれていき、やがては生物の体内、場合によっては細胞内に入りこんで未曾有の被害を引き起こしかねない。

Credit: The Ocean Cleanup

 

「System 001」が竣工、果たしてその効果は

スラット氏が発案し、The Ocean Cleanupに所属する100人以上の科学者やエンジニアと共に開発してきたプラスチックゴミ収集機の第一号である「System 001」は、海面に浮かぶ600m長のバリアだ。U字型に設計されており、外部からのコントロールなしに波と風の力で自走する。秒速10㎝のスピードは、海面に浮かぶゴミより速いものの、海洋生物よりも遅く、うまくいけば効果的にゴミだけを収集するよう設計されたものだ。

Credit: The Ocean Cleanup

 

バリアの下には3mのカーテン状のシートが取り付けられており、ゴミを逃さず収集する仕組みになっている。囲いこまれたゴミは船でまとめて陸へと運ばれ、リサイクルを経て恒久的に使えるような丈夫なプラスチック製品に加工する予定だという。

「System 001」はサンフランシスコ湾から出発し、まずは沖にある実験エリアでその効能を試した後、望ましい結果が得られた暁にはいざ太平洋ゴミベルトへ誘導され、本格的な活動に入る予定だ。

Credit: The Ocean Cleanup

 

前代未聞のこの試みを批判する科学者も多いが、スラット氏はあくまで冷静だ。

「The Ocean Cleanupでやっていることは、今までだれも成し遂げていなかったことだ。可能かどうか、それを確かめるには、まず実際試してみるしかない。」

今後の数週間で「System 001」の真価が問われることになる。もはやプラスチックゴミを出さずには生きていけなくなった全人類が、関心を持つべき歴史的な試みだ。

 

山田ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/

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