Credit : OpenAI

「イメトレ」で人間並みの指さばきを可能にした腕型ロボットに未来を垣間見る

イーロン・マスクが創設した非営利のAI研究組織「OpenAI」の腕型ロボット「Dactyl」は、何度もシミュレーションをこなすことで現実世界に対応し、器用な指さばきでキューブを巧みに扱う。その裏を支える技術は人間の「イメージトレーニング」にも似たものだ。

 

腕ロボットDactyl

こちらの動画では、腕ロボットDactylが各面に文字の記されたキューブを手に、カメラに向けて指定された文字を見せるというタスクを連続成功させる様子を見ることが出来る。

実際に現実世界でキューブを使ってこのタスクをこなす前には、そのためのシミュレーションが行われている。だが、シミュレーション環境のモデリングが物理的に正確でないにもかかわらず、Dactylはシミュレーション内でのトレーニングだけで現実世界での実験に見事適応している。しかもキューブを2本の指で支えて回転させたり、手の中でスライドさせたりといった人間さながらの器用な指さばきもDactylが自律学習により身につけた動きだ。これを実現させたシミュレーションや学習アルゴリズムはどのようなものだろう。

 

「イメージトレーニング」で現実世界に挑むDactyl

Credit: OpenAI

シミュレーションでは「ドメインのランダム化」(domain randomization)という技術が用いられた。これは、シミュレーション環境を現実に近いリアルさにするのではなく、ルールが毎回微妙に異なる環境でシミュレーションを何度も行うことにより、シミュレーション環境と異なったり、様々に異なる環境があり得る現実世界での実験に適応するために用いられるものだ。ここではキューブの色や、腕や指の色をランダム化した他にも、指の動きの速度や、キューブの重さ、更には手とキューブの摩擦の値までランダム化してシミュレーションを行っている。

だがこれが実際に現実のテストで上手くいくのも学習アルゴリズムのおかげだ。ここでは「ロールアウト・ワーカー」が様々にランダム化された環境で多数のシミュレーションを行い経験を集め、それを「オプティマイザー」に送り、これがロボット制御モデルのパラメーターを改善、そして今度は改善されたパラメーターを用いてロールアウト・ワーカーがシミュレーション…これが繰り返されるアルゴリズムになっている。

このような、ある意味では人間が「イメージトレーニング」を行うのにも似た学習アルゴリズムとシミュレーションにより、Dactylの指さばきが可能になったのだ。またそのおかげで、ロボット自身の摩損や経年劣化にも対応することができるほか、Dactylはこれまで経験したことがない形状の物体を扱うことまでできる。

 

未来のロボットを垣間見る

これに少し似ているのは、先日ご紹介したカリフォルニア大学バークレー校による「動画を一度見るだけでその動作を再現するロボット」だろう。そちらではシミュレーションではなく、動画として人が行う動作(例えば赤いボールを青いボウルに入れるなど)を見て、それと同じことを再現するというものとなっていた。これにはドメイン適応メタ学習手法である、「MAML」(モデル非依存メタ学習)を用いたもの。まずは人間によるデモとロボットによるデモによるデータを受けて、人間の行うデモからどう行動すれば良いのか推論を立てるというやり方で、人間の行動をロボットが再現している。

Dactylが「頭の中で状況を変えながらイメージトレーニングをして実践に挑むアスリート」であれば、そちらは「親の姿を見てそれをまねる子供」のようでもある。もちろん学習手法も別であれば、その目指すところも異なるので単純な比較はできない。それでもどちらにも共通しているのは、条件が変わってもロボットがこれに対応できるという点だ。従来であれば細かい動作をその都度「こういった場合には、この腕をこういう具合に動かして、こっちの指はこれくらい収縮させて…」、とプログラミングする必要があったのが、これらにはその必要がないというわけだ。もちろんこれを実用的なものに用いるにはまだ時間が掛かるだろうし、このような機能を持てば役立つことが間違いないであろう所謂「汎用ロボット」が出てくるのはそれよりも暫く後になるだろう。

もしかしたら、このようにシミュレーションだけで実際の状況に上手く対応したり、人の動きを観察して同じことをこなすようなロボットが登場する日を、我々もイメトレしておくべきなのかもしれない。

 

Yu Ando

*Discovery認定コントリビューター

フィンランド在住のライター。執筆分野は、エンタメ、ガジェット、サイエンスから、社会福祉やアートに文化、更にはオカルト系まで幅広い。ライター業の傍らアート活動も行っているほか、フィンランドや日本で両国の文化を紹介する講演を行うことも。
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