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【ボーダーを超えていけ】第1回:ボルトより速く! 義足アスリートが「世界最速」になる瞬間を自分たちの手で

日本製の義足が世界から注目される理由

全米チャンピオンと共に義足開発

足がないこと=デメリットだと思っていた。ところが「足がないこと=余白」であり、テクノロジーを駆使した義足で新しい価値を付けることで「デメリットがメリットになりうる」という遠藤謙さんの言葉に、驚いた。

遠藤さんは、義足のスタートアップ「Xiborg」社長であり、一エンジニアとしてアスリート用義足等の開発に取り組んでいる。2014年に元プロ陸上選手・為末大氏らと起業した社員5名弱の小さな会社Xiborgは今、アスリート界に大旋風を巻き起こしている。

Xiborg代表取締役の遠藤謙さん。慶應大学修士過程終了後、渡米。MIT(マサチューセッツ工科大学)在学中からインドで途上国用の義足開発プロジェクトも進める。2012年MITで博士号取得。現在、ソニーコンピュータサイエンス研究所の研究員でもある。2014年ダボス会議ヤンググローバルリーダーズに選出される。

その実績を紹介しよう。2016年、Xiborgの義足をつけた佐藤圭太選手がリオパラリンピックに出場。「それまで競技用義足はオズール社(アイスランド)ともう一社が圧倒的シェアを占めていました。リオで2社以外の義足が登場し、しかも日本製ということで注目を集め、問い合わせが殺到しました」(遠藤さん)

さらに、Xiborgは2017年5月、全米選手権チャンピオンであるジャリッド・ウォレス選手と契約。契約直後の2017年7月、ウォレス選手はロンドンで行われた世界パラ陸上選手権で見事に200mで金メダル、100mで銅メダルを獲得したのである!

Xiborgの義足で走るジャレット・ウォレス選手(提供:Xiborg)

なぜ起業から数年で輝かしい結果を出せたのか? Xiborgの義足は何が違うのか?「我々の物づくりの特徴は『アスリートファースト』。この選手を早くするにはどうしたらいいか、選手本人、為末さんらコーチ、我々エンジニアが知識を出し合って研究開発している。他社は量産を意識するため、我々のように一人一人の選手にカスタマイズした義足は作れない」

現在、Xiborgが契約している選手は4人。少数精鋭で目指すのは、パラ陸上の金メダルだけではない。

100mの世界王者、ウサイン・ボルト選手を抜く「世界最速の義足アスリート」の誕生を本気で目指している。そのアスリートがはく義足を自分たちの手で開発したいと。「もし義足ランナーが健足者より速く走れば、どちらかと言えば劣る存在と思われていた障碍者と健常者の境目がなくなるトリガーになる」という想いがその根底にある。

渋谷のど真ん中で賞金レース

遠藤さんを突き動かすのは、「テクノロジーは社会の価値観を変えうる」というエンジニア魂だ。その活動は義足開発に留まらない。たとえば、2017年11月に行われた「Shibuya City Games」。渋谷のど真ん中で60mの賞金レースを実施。世界の義足アスリートトップ3が大観衆の目前で、世界記録目指して疾走した。

「アスリートが一番かっこいいのは本気で競技しているとき。でもパラ陸上の競技場はいつもガラガラです。だったら人が集まる場所で、彼らの真剣な走りを見せようと。『義足が速くなる未来が来る』というメッセージを多くの人に伝えたかったのです」(遠藤さん)

初めて義足アスリートの走りを目にした聴衆からは「はやい!」「かっこいい!」と驚嘆の声があがったという。

「Shibuya City Games」で100m走世界記録保持者のリチャード・ブラウン選手(中央)を含む世界トップが本気の走りを見せた(提供:ソニー株式会社 Shibuya City Games)

障碍者と健常者というボーダーを、テクノロジーで超えようと挑む遠藤さん。義足開発の道に入るきっかけは、一人の後輩の闘病だった。

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