Credit : Free-Photos / Pixabay

世界初、分子レベルで明らかにされた眠気の実体

どんなに健康な大人でも、1日7時間ほどは意識を失って全身不随となってしまう。ありふれた行動でありながら、睡眠とはよくよく考えてみると不思議なものだ。

睡眠がなぜ必要かはまだ完全に解明されていないが、脳のメンテナンスが行われるというのが有力説だ。BBCによれば、起きているうちに体験したことは脳内の神経細胞間に新しいつながり(シナプス)をもたらす。脳は睡眠中にこのつながりを強化し、また必要ないと判断したつながりを取り除く作業を行っていると考えられている。

また、眠気がどのように起こるのかもわかっていない。筑波大学によれば、その実体を明らかにしようとこれまで断眠させた(眠らせない状態に置いた)マウスと通常のマウスの脳を比較する研究が行われてきた。

ところがマウスは「眠い」と自己申告できないので、いつ眠気を感じているかは実際わからない。断眠させたマウスの「起きていた」脳を自由に眠ることができたマウスの「眠った」脳の差を比べても、それが本当に「眠い」脳と「眠くない」脳の比較にはならないというジレンマがあったのだ。

 

眠気の実体に迫る

このジレンマを解消するために使われたのが、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)が開発した「Sleepy変異マウス」だ。筑波大学のプレスリリースによれば、このマウスはSIK3と呼ばれる遺伝子変異を持っていて、慢性過眠症を患っている。いくら眠っても眠たいSleepyマウスの脳内を調べることで、眠気を感じている脳に特有のサインを見つけ出そうという実験が行われた。

Credit: University of Tsukuba

Sleepyマウスの実験と並行して、自由に眠ることができたマウス、6時間断眠させたマウス、そして6時間断眠させた後に3時間好きなだけ眠らせたマウスの脳内の変化も比較した。

するとSleepyマウスと断眠マウス、ふたつの眠気モデルマウスの脳内では特定のリン酸化酵素群によるタンパク質のリン酸化が強まることを突き止めた。両方の眠気モデルマウスの脳内に共通してリン酸化が進んだタンパク質を分析した結果、80種類を特定できたそうだ。

さらに、このタンパク質がどのように変化するか、1時間、3時間、6時間と段階的に断眠させたマウスの脳内を調べたところ、断眠時間に応じてリン酸化状態が進行していた。リン酸化の進行が眠気の量を反映しているともいえるだろう。そこで、これらのタンパク質はSNIPPs(Sleep-Need-Index-Phosphoproteins)、すなわち睡眠要求指標リン酸化タンパク質と名づけられた。眠気のメカニズムが分子レベルで特定されたのは世界で初めてだ。

 

眠気と睡眠の関連性

興味深いのは、今回特定された80種類のSNIPPsのうち69がシナプスの機能や構造に重要な役割を果たしていることだ。

つまり、SNIPPsは眠気の実体、すなわち眠りの調節と、眠りの機能の両者において重要な役割を担っている可能性が高いと考えられます。

眠気を規定する脳内リン酸化蛋白質群…(中略)…の多くがシナプス蛋白質であることから、SNIPPsが睡眠要求の分子的実体であるだけでなく、睡眠の機能としての学習や記憶においても重要な役割を担っていると考えられます。

(筑波大学プレスリリースより抜粋)

 

研究者たちは今後SNIPPsの研究が「眠気とはなにか」、「眠りの機能はなにか」という根本的な問いの解明を進めるとともに、睡眠の質の向上や睡眠障害の治療法の開発にも役立てるのではないかと結んでいる。

 

RELATED POST