アリエナクナイ科学ノ教科書:第34回 秘密兵器

SFはもちろんフィクションにおいて、秘密兵器の存在というものは、まさにパンドラの箱です。主人公や悪が窮地に立たされた際に、その場をひっくり返すとんでもないモノ・・・という形でいろいろな兵器が登場します。
本連載でも、光学迷彩や生物化学兵器、サイボーグ技術などなど、いろいろな秘密兵器をいろいろ紹介してきましたが、今回はそうした実在する秘密兵器をダイジェストにみていくことで、SF上に出てくる新兵器、秘密兵器の参考にしてもらえれば・・・という感じです。

●実在する秘密兵器
知られている時点で秘密でもなんでもないのですが、それでも実際の製造方法や、そのメカニズムは完全にオープンになってないものも多く、
・ステルス
実際に存在する戦術兵器の中でもやはり光学迷彩がウケるのと同様に、レーダーに捕捉されないステルスという技術は現在のテクノロジーの中でも際だって「秘密兵器」感がありますが、普通の人間はそもそもレーダーというものを見ませんし、目に見えてレーダーに映らないだけ・・・というのはフィクションという娯楽の上ではぱっとしません。

レーダーというのは電波を送り、その反射波をパラボラで捉えることでそれを映像化して、航空機などの存在を知るという装置で、電波は金属で反射されやすくとくに、金属に反射されやすい波長の電波をレーダー波として使ってます。飛んでくるものが巨大な紙飛行機や木工飛行機なら電波を吸収してしまうのでレーダーには映りません・・・が、そんな脆い素材で戦地に赴くアホはこの世界に存在しないので、ステルス戦闘機の形をみると分かるように謎の多面体な形になっていることがよくあります。あれは周りから来た電波をレーダーのパラボラの方角に返さなければよい・・・という理屈からあんな形になってます。もちろんレーダー側もレーダーのレーダー波を発射する場所と観測する場所を変えてしまえば安易なステルスはバレる(バイスタティックレーダーシステムという)・・・といった
感じでステルス一つでも技術の攻防があるのです。

・FAE
Fuel-Air Explosive。燃料気化爆弾。Thermobaric(サーモバリック)現在、核物質を使わない爆弾では最強の爆発系兵器のシステムです。

これは前著である「アリエナクナイ科学ノ教科書」でも少し紹介したように火薬で可燃性の物質を空間にバラ巻き、そのあとそれに着火することで、空間丸ごと爆破するという凄まじい発想の兵器です。要するに複雑な建物や洞窟の中に潜む相手さえ、中の空間を全部起爆してしまえばいいという吉良義景もびっくりな爆発の仕組み。

粉塵爆発と仕組みは似ており、燃えやすい細かい粉塵の入った袋をもったオッサンがウェエエエエエエエエイと暴れて部屋中にまき散らし、そのあと懐からライターを取り出してカチカチして自爆する・・・という感じが1秒以内に起こる・・・そういう兵器です。

爆風自体はTNTやRDXと同程度かそれ以下なのですが、それがエリア単位で起こることで、着弾点から離れていても均等にエリアごと殺し尽くせるというのがこのFAEシステムの恐ろしいところです。

・ミリ波兵器
Active Denial Systemとして、アメリカ軍が現在運用している、非殺傷(という設定)の超兵器がこれで、パラボラアンテナのようなものでミリ波をビーム状に発射するというもので、数十cm程度のスポットライトくらいのホットスポットを生み出す兵器。
これに水分が多いものが触れると急激に加熱されるため猛烈な痛みを相手に与えることが可能です。ようするに電子レンジの遠距離版という感じの兵器です。電子レンジはマイクロ波なのですが、マイクロ波もミリ波もようするに光と同じ電磁波ですからレーザーと同じように集めて束にして送ることが可能というわけです。

Active Denial Systemはさらに発展して、アレイ化したギミックで100mくらいの空間に照射するなどをして、水分を含んだ生物が立ち入ることができないようなエリアを生み出す・・・なんてエリア占領兵器としても運用が開始されています。ちなみにミリ波で水が速やかに沸騰するわけなので、目にはいると速やかに失明するため、失明しにくいようにパルスにしたり距離を調節していますが、近距離だとかなりの確率で失明するようです。

・電磁装甲

図説は極めてザツなものなのですが、表面と裏面に強力な電気負荷をかけておいて、そこに敵の弾が命中したら通電させてそのまま蒸発させて無効化するという、「できたらいいよね」を無理矢理エネルギーごり押しで実現した兵装の1つが電磁装甲と呼ばれるこのシステムです。

またコイルなどを複数設置しておき、被弾時に通電、爆発することで被弾パネルごと外に捨ててしまって非弾ダメージをゼロにするというものなどいろいろありますが、基本的なコンセプトは同じです。

これで全てを覆った兵器は銃もなにもきかない無敵の兵器やん・・・と重いそうですが、電荷をかけているコンデンサがめちゃくちゃ重たい上に漏電リスクなども当然伴い、なんとか運用されている・・・というのが現状です。

とはいえ、真ん中の絶縁体部分が自己修復性の謎素材だったり、表面がカーボンナノチューブのような導電性かつ超強度素材みたいな設定を足すことで、SF的な無敵装甲ができてしまいそうです。

・スッテン兵器
カートゥーンといえばズッコケ、ズッコケといえばバナナの皮・・・という感じでアイコン化されていますが、じつはバナナの皮は兵器としては強力です。相手が転けて転けて立てなければ十分無能力化できるからです。

とはいえバナナの皮をまき散らすわけではありません(笑)
こちらもアメリカ陸軍の採用兵器で、mobility denial system(MDS)として知られています。要するにローションのようなヌルヌルを地面にまき散らして誰も歩けないどころか車両もスッテンコロリンさせようというスーパーぬるぬる兵器です。

成分は細かい粉体(詳細不明)に洗剤と水、そして油が混ぜられた液体で、タンクからまきちらすと、平らな地面だとその摩擦係数は氷の数分の一になるため、まともに立つことは不可能になります。また草地などに巻けば車も無限にスタックして進まなく出来る・・・というかんじで非殺傷かつ効率的にエリア制圧ができるというので使われているようです。

●実現しそうな秘密兵器
・ビーム兵器
ビーム兵器としては現在はレーザーがミサイルの迎撃や、または対兵器用兵器といったニッチな感じで実用化されています。特に有名なものがヨウ素レーザーというもので、正式には化学酸素ヨウ素レーザーというもので、過酸化水素と水酸化カリウムの水溶液に塩素ガスを直接反応させると、極めて励起した酸素が作られます。この励起酸素とヨウ素を直接反応させると1300nmの赤外線が強烈に発生し、この赤外線は光ファイバーを通すことができるので、運用も楽というもの。
薬品同士の反応なので、レーザーのコア部品はバイナリー薬品のカートリッジ式になっていて、実弾のようです。
近年、半導体レーザーのめざましい発展により、先の液体や化学物質の反応で高出力レーザーを作るのではなく、純粋に電力をレーザーなどのビームとして発射可能になってきています。
そうしたものは携帯型のガンタイプで、敵車両の燃料タンクを破壊したり、タイヤをパンクさせたり・・・とちょっと地味なのですがすでに運用されています。もちろん人間にあたると凄まじい痛みとダメージがあります。

こうしたビーム兵器の最大の弱点は空気を通るだけでエネルギー損失がおこることです。またブルーミングといって、レーザーなどで空気を通るとその大気が過熱されてそれで命中率の低下や散乱によってエネルギーの大量損失が起こりやすくなるというデメリットがあり、基本的に粉塵などに対して弱いという感じといえる。宇宙などの真空中では理想的な兵器かもしれませんが、片方が粉のようなゴミ(レーザージャミング砂)をまき散らしてからビームを無力化して実弾で攻撃するというのが一番強いかもしれませんw

またSF的な発展だと、衛生上からレーザーでそのまま攻撃するのはありがちですが、レーザーによる誘雷を目的地に落とすことで兵器化するとかもおもしろいかもしれません。レーザーで加熱された大気はイオン化して、雷が通りやすくなるために上から雷を誘導するというのは意外と現実的かもしれません。

・電子励起爆薬
最後に未来の爆薬・・・電子例起爆薬について触れておきましょう。

例えば、水素と酸素が反応、このときに爆発的なエネルギーが発生するのは知っているかと思います。水素と酸素を混ぜたガスに火をつけるとすごいパワーで燃える・・・わけです。これは水と酸素が凄いエネルギーでくっついているということです。つまり水を酸素と水素にするにはこれだけのエネルギーがいる・・・と等価であるということです。
そして普段は安定しているけど、きっかけ(起爆)を与えると、連鎖的にエネルギーを放出する物質というのが爆薬や火薬の基本的なメカニズムです。
しかしこれは化学物質の密度限界や化合物としての限界ということで、実際にTNTから最新の軍用爆薬HNIWにおいても2倍にさえなっていません。ようするに化学的にエネルギーを詰めて安定させるのは限界があるということです。

故にこの限界を超えた密度でエネルギーを取り出すのは、核分裂や核融合というものがあるのですが、核廃棄物が生まれますし、最近はSFの世界も環境に配慮しろと言われがちな世知辛い世の中なので使いにくくなっています。

そこで、原子のエネルギー自体を高い状態にキープして低い状態に落とすときに放出されるエネルギーがレーザー発信です。先の要素レーザーもこれです。
さらに上の高いエネルギー状態では物質はそもそも安定しない・・・と思われるのですが、シュミレーション上では電子励起状態のヘリウムはまさかのそれぞれが結合した安定した形をとる・・・のではないかと言われています。理論上は数百℃、もしかすると常温でこの電子励起ヘリウムが固体化できて、それが起爆可能・・・となれば、その威力はTNTの数百倍~千倍というとんでもないエネルギー密度が可能になり、あらゆる兵器の概念がひっくりかえる(銃弾1発でビルが吹き飛ぶ)兵器が次々と登場することになります。

もちろん現在はこの具体的な安定した電子励起ヘリウムを作る方法が見つかっていないため、空想上の兵器ですが、これが開発されるとまた、世界はいろいろ変わるかもしれません。

さて、本連載も残すところあと1回です。次回最終回となります!
前作「アリエナクナイ科学ノ教科書」の続編として書籍化にむけて作業に入ります。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ https://www.yumejikiriko.com//