アーバンモンスターズ・街中の巨大魚 第17回 好物はカニと…フライドチキン!? 那覇の巨大鰻『オオウナギ』

今年もまもなく土用の丑の日がやってくる。
土用の丑といえばウナギ!と言いたいところであるが近年では環境省やIUCNのレッドリストに絶滅危惧種として掲載されまでに個体数を減らしており、気安く食べられる魚ではなくなってしまった。
日本人にとってもっとも馴染みの深い淡水魚が遠い存在になってしまうのは悲しいことである。

…と、ここまで記したのはウナギはウナギでもニホンウナギの話。実は日本にはあの黒々としたおいしいウナギ以外にももう一種、また別のウナギが生息しているのをご存知だろうか。

長さ1メートルを超えるオオウナギ。沖縄でも最大級の淡水魚だ。

全長1.5メートル以上、体重20キログラム以上にも達する超大型ウナギそ、その名も『オオウナギ』である。

ニホンウナギが黒っぽいのに足してオオウナギの背面は黄土色〜暗褐色。体型もより太短い。

オオウナギは南方系の魚であり、国内における主な生息地は沖縄本島をはじめとする南西諸島である。
本土であっても暖流のぶつかる地域(鹿児島県の池田湖、長崎県の樺島、和歌山県など)には局地的な分布が見られるが、その多くが各自治体の天然記念物に指定されている。
一方で南西諸島では渓流から都市河川、果ては側溝までありとあらゆる水域に出現し、地域の人々に親しまれる存在となっているのである。

南西諸島最大の都市である那覇の河川にもオオウナギは生息している

ただし、親しまれているといっても食用としてではない。防火水槽や用水路に住み着いた個体にエサを与えて愛でたり、あるいは子どもたちが川遊びや釣りの相手にするといった具合である。本土におけるコイやナマズに近い扱いだろうか。

オオウナギは肉食性で、魚やカエル、水生昆虫や甲殻類などあらゆる水生生物を捕食する。特に甲殻類が好物で他の魚では歯が立たないできないモクズガニや大型のテナガエビをも襲う。このことから『カニクイ』という名で呼ばれることもある。
ほかに在来の大型淡水魚が分布しない南西諸島の陸水域において、オオウナギは生態系の頂点に君臨する存在なのである。

モクズガニやテナガエビをはじめとする甲殻類が好物。時には大きなアメリカザリガニを丸呑みにすることも。
琉球大学が所蔵する大型個体の標本。まさに川のぬしといった風貌。

さて、となると島の人々が彼らとたわむれる際に用いるエサは一体何か。
生魚の切り身?川で捕まえたカニやエビ?
もちろんそういったものでもかまわないが、実はそれら以上に食いつき抜群なとある『特効エサ』が存在している。
それはなんとコンビニエンスストアのフライドチキン!レジ横のホットスナックコーナーに並んでいるアレである。
コンビニジャンクフードが好物とはオオウナギめ、なかなかどうして都会的な魚である。本種が都市部にも多く見られるのは人々が排出する残飯に起因しているのかもしれない。

オオウナギの意外な大好物!コンビニのフライドチキン。

「ごはんよー。」とフライドチキンをちぎっては水面に投げ込む様はちょっと異様であるが、当のオオウナギもたしかに躊躇いなくスパスパと掃除機のように吸い込んで食べていく。池のコイに麩を与えるようなものか。
餌付けを楽しむ人の中には「魚のアラより喜んで食う」という方もあった。
オオウナギを釣る場合も同様で、マグロを釣るような太いテグスと大きな釣り針にフライドチキンを掛ける。なんとも間抜けな仕掛けだが、これで釣れてしまうのだ。
特に那覇などの都市部では入手が極めて容易であるため、とても理にかなったエサと言える。

オオウナギの顔。巨体に対して眼は小さく視力の弱さがうかがえる。反面、嗅覚には優れている。

オオウナギは基本的に夜行性であり、視覚よりも嗅覚に頼ってエサを探す傾向が強い。そのため、あのクドいほどの油脂と肉汁が水中にあれば即座に気づき一目散に駆け寄るのだろう。

また、フライドチキンを用いるのはごく最近にできた文化かと思いきやそうでもないらしい。沖縄本島出身のとある60代半ばの釣り人は「昔は安い鶏肉を素揚げにしたものでオオウナギやスッポン(国内外来種)を釣って遊んでいた」と述懐している。フライドチキンを使うのは一見イマドキっぽいようで、実は昔ながらの遊びの発展だったということか。
関西にも鶏の唐揚げでコイを狙う釣りが存在しているし、さほど驚くことでもないのかもしれない。

昔ながらのオオウナギ釣りは竿も小細工も使わずロープ一本で挑む豪快な手釣り。たかがウナギと侮るなかれ、大人も顔を歪めるすごい力だ!

これほどありふれた存在となっているオオウナギであるが、不思議と食用魚として扱われることは少ない。
奄美大島では煮つけに、沖縄本島でも稀に揚げ物にして食されることがあるが、あくまで個人が採捕したものを調理する程度であり、市場や鮮魚店に並ぶことはほぼない。
決して不味い魚というわけではないのだが、食味や食感がニホンウナギとは大きく異なるために敬遠されているのだろう。
具体的にはまず肉厚すぎること、加熱すると肉が鶏肉のように固く引き締まってしまうこと、骨が硬く除去が難しいこと、ウナギほど旨味が豊かでなくやや淡白であることなどが挙げられる。
とにかく、ことごとく蒲焼きという料理にに合わないのだ。『ウナギ=蒲焼き』という考えが根強い日本人にとってこれは致命的である。
沖縄の伝統食にもあまり登場しないところを見ると、琉球の民も豊かな海産魚を尻目にわざわざオオウナギを食べる理由を見出せなかったのかもしれない。

今後も食材としてではなく街中で出会えるかわいい川のぬしとして親しまれ続けてくれるといいのだが。

だが、これがオオウナギにとっては僥倖だったと言えるだろう。
オオウナギはニホンウナギ以上に大型で成熟に時間を要する。さらに国内生息地も限られるのだから、もし商業的な漁獲の対象にされていたとしたらニホンウナギよりもはるかに早い段階で絶滅の危機に追い込まれていたやもしれない。
実際、オオウナギを好んで食べる文化が根強い台湾などでは近年になってすっかり数を減らしているという。

どうか沖縄ではその辺の川で、ドブで、水路で、子どもたちの遊び相手となってくれる身近な魚であり続けてほしいものだ。

平坂寛

*Discovery認定コントリビューター

生物ライター。五感で生物を知り、広く人々へ伝えることがポリシー。「情熱大陸」などテレビ番組への出演や水族館の展示監修などもつとめる。著書に「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)
「外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた」「深海魚のレシピ: 釣って、拾って、食ってみた」(ともに地人書館)がある。
ブログ:平坂寛のフィールドノート