アリエナクナイ科学ノ教科書:第31回 魔法攻撃を受けたらどうなるのか?

映画「ハリーポッター」シリーズを始め、RPGなどのゲームでも全体攻撃にはこれしかない・・・というくらいに使われ、もはやフィクションにはつきものの「魔法攻撃」。

多くの場合、イメージしやすいように、実際の物理現象を無から起こしているわけで、その生成メカニズムは魔法なので科学では設定しようがありません。

・・・無理矢理な設定としては、何らかの形で膨大なエネルギーを持ってきてその制御下で物理現象を引き起こすと仮定します。

このエネルギー源が情報とすれば一見何も失わずエネルギーを生み出すことが可能です。
情報・・というものもエネルギーの1つであることが確認されているので、そうなると術者はなんらかの記憶を失う代償として物理現象を操っているのでしょう。魔法を使いすぎると馬鹿になりそうですが、失われた記憶はないので、何が失われたのか分からないので「実質何も失われてない」という状況は維持できます。

・・・・どんどんアホになりそうですが・・・魔法ダメ絶対!(笑)

ともあれ、そうした原理原則はおいておいて、その後に巻き起こされる魔法攻撃自体は、実際に起こる物理現象なわけですから、そうした魔法攻撃によるダメージというのはどういった形で描写されるのか・・・それは多くの労災事故などからかなり明確に導き出すことができます。

多くの魔法では、炎、氷、が基本的にあり、水や風の刃、そしてだいたい雷系魔法がそれらの上位として描かれています。本当に炎より雷魔法のほうが強いのでしょうか?
今回はそのあたりに迫ってみようと思います。

●炎の魔法 氷の魔法

特撮で使われる瞬間的な爆炎

炎と氷。
魔法の定番ですが、炎は肉の調理などでおなじみですし、氷は冷蔵庫、冷凍庫で生活感があります。

まず炎は炎自体に炙られるということで、火炎放射が実際には近い感じはあります。

ただ実際の火炎放射器は火炎を吹き付けている・・・というよりは燃えさかる燃料を吹き付ける兵器なので、炎をあてるだけとは実は趣が異なります。

炎というのは実はあまり熱をつたえる手段としては強いものではなく、実際にろうそくの炎も一瞬触る程度では火傷することが無いのです、故に、ろうそくの火を指でつまんで消すとかいう宴会芸もあるわけです(こちらはタイミングをミスると火傷するのでマネしないほうがいいです)。

そもそも人間は熱交換能力に長けており、実際にタンパク質が死滅するような温度のサウナなどでも、体中の血液を循環させ、熱変成しないように太い血管から毛細血管までフル稼動で熱を分散させることができる。おまけに皮膚は燃えにくく、体の大部分が水分なので、燃えにくい。

とはいえ、衣類になると別で、衣類は300~400度程度で発火温度になり、一度発火すれば、発火したことで周りが発火点になり、どんどん燃える・・・ということになるので、火による事故死でも多いのが着衣着火です。
なので水や難燃性の液体をかぶっておけば、一瞬の火のダメージはワンチャン防げることもあります。とはいえ、火の温度というのは、数百度程度のものから千数百度(火災などでも目にする炎の上限)ですが、環境次第で何千、何万という温度も可能なので、そんなものが来たら速やかに蒸発するしかありません(笑) ただし炎は熱を伝えるというのがダメージベースなので、発泡質のもので熱を防ぐということがあります。例えば未来素材などとよくいわれるエアロゲル。重さは1Lでも1g以下なんていうとんでもない軽さの発泡素材です。

写真は筆者の所有するシリカアエロゲル。持ってる感じがしないくらいめちゃめちゃ軽い

実際にバーナーで炙っても表面がこげるだけで熱はまず伝えません。

なので、炎魔法には水系の泡魔法だと炎を防げるという理屈は通りが良いでしょう。

次に氷系、氷を生成して物理で殴るタイプと、ひたすら温度を奪って凍らせることでダメージを取るという大きく2パターンの魔法があります。

ただ、低温というものは高温に比べ、下限が非常に近いのです。宇宙全体で言えば我々の生きている世界は極めてレアで、だいたいがウルトラ高温か、ほぼ絶対零度という極端な世界です。
この絶対零度・・・というのは摂氏でいうところの、ー273.15℃。ゼロケルビンの世界です。

以前温度というのは元素の活発さ、振動であるというのを話した通り、絶対零度では原子の動きは止まるので、仮にどんな鋭敏な爆薬があったとしても、どんな不安定な物質だろうが、絶対零度である以上、何とも反応できないので何もありえません。
熱というのは大気のある地球においてその場に蓄積するのは非常に簡単なのですが、捨てるのは非常に難しいという点があります。故にクーラーはヒートポンプという原理でかなり無理をして熱を移動して無理矢理冷えた空間を作っています。
しかし、宇宙全体として見れば極低温は無限に存在すると言ってもいいので、極低温魔法は宇宙のどこかに無限に熱を捨てることができるトンネルをあけて対象を冷やせる・・・という仕組みかもしれません。
そうであれば、かなり恐ろしい魔法です(笑) そんなことをせずに対象を宇宙に吸い出した方が強そうですが、ロマンがないので、熱しか移動できないのでしょう。

また地を這っていく冷気の表現などもありますが、実際に液体ヘリウムでは超流動という怪奇現象が起こり、冷媒が対象の体表面を上っていくということも物理的に可能です。超流動は液体ヘリウムや液体水素という極低温になった液体の気体で起こる現象で重力に関係なく壁面を液体が移動する現象です。つまり液体ヘリウムをコップにいれてもコップに溜まらず、コップの壁面を流れるように伝っていき、こぼれてしまうという感じです。ヘリウムはレア気体なのですが、水素は比較的どこにでもあるので低コストで作ることもできるので、冷温魔法は液体水素あたりを冷媒に使ってるかもしれません。

こうした炎や氷も温度コントロールの魔法なので、金属を沸騰させるとか液体化させることで、熱を伝える熱媒体を変えることでより理論上凶悪な技になります。

高い温度で溶かしたアルミ缶(金属アルミニウム)

●最強!? 雷魔法!

写真はまさに雷魔法! というもので、テスラコイルを使って人間から稲妻を放出している写真で、合成ではありません。

雷魔法は基本的に炎や氷より別格の上位魔法とされることが多いのですが、本当に強いのでしょうか?
実際にアメリカなどでは死刑の方法に電気椅子といって電気を流して処刑する装置などもありますし、感電事故で多くの人が亡くなってます。またスタンガンは触れるだけで相手が気絶しますし、コンセントに子供がピンセットをつっこんで・・・みたいな話はちょいちょい耳にしているはずです。
そして、雷というのはとんでもないエネルギーで、雷1発で100GWs(ギガワット)とも言われており、一般家庭が数年使う電気の量に匹敵します。しかし電圧が1億Vなどの規格外の電圧のため、それをとっておける素材が地球上に今のところ存在しないという理由でエネルギーとして回収はできません。消防車の放水銃で小さなコップに水を汲もうとするようなもので、コップが割れるか数滴回収できるか・・・というくらいの次元ということです。

ともあれそれだけ膨大なエネルギーだから、人間なんかに直撃したら木っ端微塵どころか蒸発してしまいそうです。

しかし、実際は落雷での死亡率は約7割程度と言われており、なんと3割は生存しています。

電気というのは実は流れやすいところに流れるという特徴があり、多くの雷にうたれた生存者はすでに雨でずぶ濡れになっており、その体表面を流れて雷が地面に吸収されていっているということです。
そうでないと、先ほどのテスラコイルでの写真も撮影日が命日になってしまっているはずです。

電気魔法は確かに膨大なエネルギーがありますが、流れやすい媒体をみつけるとそちらに流れてしまうという弱点があります。しかも実は炎は電気をめっちゃ流すという特徴があります。よく考えれば炎はなんらかの物体がプラズマ化してるわけですから電子の流れはかなり良いはずです。


写真では、テスラコイルの放電先をホウ酸の入ったアルコールを燃やしたものにしました。するとその炎が稲妻となり、炎と稲妻の混ざった(しかも緑の)という非常に不思議な光景を再現した実験に成功しました。

雷魔法は確かに脅威ですが、実は炎魔法で流れを変えて受け流せるかもしれません。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

https://www.cl20.jp/portal/

タイトルイラスト:夢路キリコ https://www.yumejikiriko.com//