アリエナクナイ科学ノ教科書:第30回 周期表から読み解くSF

この世界は物質によって構成されている。物質世界。
化学物質が多様な反応をして、ただのガソリンの燃焼だって制御することでエンジンとなる。
化学エネルギーを電気エネルギーに変えるなどとして電動機械を動かしたりもしている。

そんな化学物質の正体・・・については以前やりました
>>アリエナクナイ科学ノ教科書:第21回 この世は物質 物質世界! 万物全てを構成する物質の世界 前編
>>アリエナクナイ科学ノ教科書:第22回 この世は物質 物質世界! 万物全てを構成する物質の世界 後編

今回は、そうした分子やそれを構成する元素のルールについてお話するのです。

●すべては周期表の導くままに

これのどこがフィクションのためのサイエンスなのでしょうか?

いやいや、化学というものを多少なりとも描くときに、化学のスタート、化学の根源たる周期表の知識、元素から化学を見る・・・と身の回りの物質によりロマンを見いだすことができるのです。

周期表というのは、元素における規則的な周期で繰り返される元素の化学的性質・・・周期律に則って、並べられた化学の基本といえるものなのですが、なんかしらんけど覚えろ! みたいな感じで周期表がどうしてすごいのか、どうして大事なのか? そこをすっ飛ばしているので化学が嫌いになっちゃうのではないかなと思うわけです。

周期表は原子番号順、縦の列、横の列の3つの方向性があり、これらを無理矢理なんかしらんけど覚えろといわれるので、「なんで!?」となるわけですが
 
元素は陽子と中性子、そして電子の3種類で構成されているということは以前お話した通り。この陽子の数に応じて廻る電子の数が変わり、電子の数で元素が元素としての性質があるていど法則性があるということが知られている。
この陽子の数の順番で並んだものが原子番号順で、実はあまり意味は無い。大事なのは縦と横の列で、同じような性質の元素が近い配置になっている。

例えば、塩素。トイレ洗剤を混ぜるな危険で発生する毒ガスで、いろいろな物質の電子を奪って無理矢理結合するという乱暴な元素でその乱暴な性質から、生命を構成するタンパク質を構成している分子にもガンガン反応してしまうのでゲショゲショのボロボロになり、生命活動ができる状態ではなくしてしまう。
なので危ないガスなのです。この塩素を中心に縦で見ると、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素・・・と並んでいます。これらはいずれも他の元素から電子を奪ってくっついてしまう性質がある連中で特に性質が際立って似ていて、「ハロゲン」なんて総称もある。

このハロゲン、例えば金属ならほぼなんとでも反応できる。例えば塩素と鉄が反応すると塩化鉄という状態になる。塩化鉄は水に溶ける、鉄は水にとけないから、塩素を浴びた鉄はグズグズの水にとける物質に変化してしまう・・・ということ。同様にタンパク質の大事な部分ともしっちゃかめっちゃかに電子を奪って強固に張り付くので分子の性質が変わって、その結果生命活動ができなくなる。
周期表でも塩素の上を行くものにフッ素というのがある。フッ素はもう塩素レベルではないくっつきやすさがあり、強固にはりつくレベルも塩素以上なのです。

この他の元素に「強く張り付く」という性質は逆に利用すると、めっちゃ安定した物質になる・・という意味にも逆転できるのです。

 

例えば、ここにポリエチレンという物質とポリテトラフルオロエチレンという2種類の物質の分子模型がある。どちらも鎖のようにびよーんと炭素が連なったもので、その横に水素がはりついているか、フッ素がはりついているかの差です。

水素は非常に小さい原子で炭素との結合パワーはそこそこ強いので、このポリエチレンという物質は、灯油タンクやペットボトルのフタとかに使われている。なんせ一回大きな工場を作ってしまえば、水素と炭素が連なった(エチレンが連なった)だけなのでやすく大量に作ることができる。なので代表的なプラスチックとしてあちこち身の回りにある。
しかしポリエチレンは熱で簡単に形が変わってしまうので耐熱性はない。またポリエチレンさえ溶かしてしまう有機溶剤も多くあるし、硫酸のような強い酸だと壊れてしまう。

でもフッ素と炭素の結合はそれ以上の強さなので、高熱にも有機溶剤にも酸にも耐えてしまう。この物質・・・・すごい物質だけど身近にある。フライパンのテフロンコートはこのフッ素を使ったプラスチックなので長期間フライパンの表面で調理しても焦げ付きにくく、食べ物もくっつかない(何とも反応しない)という風に便利に利用されているというわけです。

周期表では17行目のハロゲン。17属元素と呼びます。電子を奪いたくて仕方ないグループ。
この逆に電子をあげたくて仕方ないグループもいます。これが1属元素。通称アルカリ金属。

アルカリ金属は、電子をあげたい・・・例えば鉄は水に沈めてもなかなか水に溶けるサビ(酸化鉄)にはなっていきません。超ゆっくりです。それに対して、秒で水に電子をあげて水にまざりだす(イオン化)するのがアルカリ金属の特徴で、金属ナトリウムに水をいれると爆発する・・・というのは、化学に疎い人でもなんとなく知っている人も多いでしょう。同様にアルカリ金属は全部水にいれると爆発します。基本的に空気中の水分さえ集めてきて反応してしまうので、普段は鉱物油の中に沈めて保管されます。

この「電子のあげたさ」というのは上手く使うことで電子の流れを作ることができる、つまり電気を生み出すことにも使える・・・つまりは「電池」へとちゃんと話がつながっているのです。

ちなみに「電子あげたい」と「電子うばいたい」が直接出会ってしまうとどうなるのでしょう?

例えば、金属ナトリウムと塩素ガスを直接反応させると、凄まじい火花が出るくらいに猛烈に反応します。こんな過激な物質同士がくっつくと・・・さっきの話を思い出せば、その力が強いほど、力を出し切った後はすごく安定する・・・つまりめっちゃ安定した物質ができます。塩化ナトリウム。塩ですね(笑)

ちなみに塩・・・・塩素とナトリウムが反応したもので、どちらも単品だと凶悪な物質です。でも一端反応してしまうと舐めても大丈夫な塩・・・になってしまうわけです。
塩化ナトリウムが水にとけた状態・・・はナトリウムイオンと塩化物イオンというそれぞれが分かれた状態・・・イオンになる・・というのは知っている人も多いでしょう。
でも、どうしてあんな凶暴だった二人が水にとけてる間、また分かれているにもかかわらず凶暴ではないのでしょう? それはまだ繋がった状態だからです。あくまで間に水という物質がつなぎで入っているだけで、つながったままです。この状態を「イオン」というのですが、

「水にとけたら+とーの電気を帯びたイオンになって分かれる」

という結果論だけを教えられるのと、この順繰りにきて初めてイオンの状態を知るのでは、化学バイバイ度合いが全然違うのではないでしょうか?

周期表を縦で見た後、また横で似た性質がある・・・という風にそれぞれの物質をみていくと、この世界を構成する物質がいかに無限の組み合わせがあるかを知ることができ、それらはまだまだ人類の科学は踏破しているとはいえないので、夢の新素材が次々と出てくるわけです。

これが化学という世界。物質の性質を理解し、知り、そして制御する。今やガスからプラスチックを作ったり、フラスコの中でダイヤモンドを作ろうとしてみたり・・・これぞ古代の人が求めた本物の魔術じゃないでしょうか?
 

●化学物質の振る舞いとメカニズムを知れば未来兵器が生まれてくる

さて、周期表の話はひとまずおいといて。今度は物質が何かエネルギーをうけたときに変化する・・・という現象をみてみましょう。

例えば、ロウソクが燃えている・・・という単純な現象も、まず、ロウという炭化水素(炭素と水素が鎖のように連なったもの、ポリエチレンの短いものがいっぱいある感じ)は約70度くらいで液体になります。液体のロウは実は燃えません。これはロウソクの芯を毛細管現象という形でしみこんで上っていきます。そして先端部分で加熱されると気化して初めて発火点300度くらいで火がつきます。
一端火がつくと、下のロウをその熱でとかして、溶けたロウが芯を伝ってきて・・・と燃え尽きるまでサイクルを繰り返すので、ロウソクはゆっくりと燃えていくのです。なのでロウソクは最初着火するまでにけっこうライターとかで火をつけないとなかなか付かない・・・という理解ができるわけです。

例えば、この燃焼で動く機械・・・エンジンがあります。エンジンで動くモノ・・・車ですね。

この車が動く・・・という現象は、エンジンの中に霧状にガソリンが噴き出し、そこに外気から取り込んだ空気を入れ、ピストンが押し込まれたパワーで断熱圧縮(気体が押し込められることで燃焼するくらいの高い温度が生まれる)が起こり着火、ピストンを動かし・・・最初に戻る・・・みたいなろうそくの上位版です。

ろうそくを消すには息を吹きかければいいですが、車に強い風をあててもエンジンの中の火は消すことができません。エンジンのキーポイントはピストン運動をするシリンダーと断熱圧縮です。

まずは断熱圧縮の時にエンジンは毎回同じ動きをする必要があります。このバランスを崩すとエンジンがストップ(エンスト)してしまいます。

これをわざと起こす兵器があります。
パイロフォリック兵器という車両破壊を専門とする兵器で、車に向かって投げると、地面でガスが発生、そのガスは外気としてエンジンの中の給気に送られます。このガスの中に入っているのはアセチレンというガスで、ガソリンとは比べものにならないほどよく燃える、いや、燃えすぎるいわゆる暴れ馬です。
この制御不能な爆発性ガスがエンジンに入り込むと一撃でエンストを起こすわけです。

アセチレンガスはアセトンによく溶けるため、これらを混合したアセチレンソーダ的なものを使ったり、水と反応することでアセチレンガスを出すカルシウムカーバイドなどを粉塵にしたものを水と一緒に爆発させてその場で反応させたりと言った形で使います。
 
しかしエンストは再起動すればだいたいもとに戻るので、ガスの雲がはれてしまえば再起動可能です。

そこで今度はシリンダーの動き自体を破壊する兵器が登場します。
使われるのは、セリウムという希少金属。空気を速やかに反応して酸化セリウムを形成するが、この酸化セリウムは粉塵フィルターを簡単に通り抜ける小さなものでも強力な堅さがあり、そんなものが精密機械であるシリンダーに入り込むとピストン運動でシリンダーを摩耗させて破壊することができる。

このように、機械の構造を知ることで、その機械に対するアンチテクノロジーが出来上がる。

悪の帝国を脅かす、ヒーローの合体ロボも、案外、合体部に接着剤などの異物を貼り付けた方が勝てるかもしれません(笑)。

 

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ https://www.yumejikiriko.com//