アーバンモンスターズ・街中の巨大魚 第13回 那覇・都市河川の不沈艦 鉄壁の外来魚『マダラロリカリア』

沖縄本島各地を流れる河川には往々にしてグッピーやティラピアをはじめとする海外原産の外来魚類が多く見られる。
観賞用あるいは食用として海を越えて持ち込まれた熱帯性の魚たちが密放流された、あるいは脱走した先で繁殖、定着しているのだ。一年を通して温暖な沖縄ならではの異常事態と言えよう。

食用目的で持ち込まれ、野生化したアフリカ原産のナイルティラピア。現在では沖縄全域でごく普通に見られる。

中米原産のソードテールも那覇や沖縄市の街中で広く見られるようになってきている。こちらは鑑賞目的で持ち込まれたものが放流されて定着したもの。

残念ながらもはやこういった外様の魚たちがまったく生息していない、本来の生態系を保った河川を沖縄で見つけるのは至難の業である。
あるいは、もはやそうした純粋なネイティヴリバーは現存していないのかもしれない。

ただ、外来魚の分布と生息密度には同じ沖縄本島内でも地域によって差がある。
ざっくり言うと国頭など沖縄本島北部の自然が豊富な地域では種数も個体数も少なくなり、那覇をはじめとする大きな街が集中する中〜南部エリアではケタ違いに多くなる。
外来魚とは人の手によってはるばる連行されてきた存在、人の手によって逃がされた存在。
人の生活ありきな魚なのだから、こうなるのも必然と言えよう。

さて、そんな悪い意味で国際色豊かな都市河川をコンクリート護岸の上から見下ろしてみよう。
そこが純淡水域であれば、高確率で川底に沈む奇怪なシルエットに遭遇するはずだ。

川底には飛行機を思わせる奇妙なシルエットが。

やたら寸胴で丸みを帯びたオタマジャクシのような黒い魚体。そこからはまるで飛行機の翼を思わせる大きなヒレが伸びている。サイズは30センチ程度のものから大きなものでは60センチほどとなかなか存在感がある。
一見して『日本の川魚ではないな…』と確信できる異様な風体。
捕獲して水から引き上げるととさらに壮観、ファンタジー映画から飛び出してきた怪獣かといった姿である。
モンスターめいた魚体。なるほど、観賞魚になるのも納得だ。
大型の個体では60センチ以上にまで成長する。結構な迫力だ。

これが沖縄の都市河川で「最強」の名をほしいままにしている南米原産の外来魚『マダラロリカリア』である。
マダラロリカリアもまた観賞用に持ち込まれたものが安価で大量流通し、持て余した飼い主が遺棄した結果、温暖な沖縄で大繁殖してしまっている。

しかし沖縄の河川にはオオウナギという在来の大型肉食魚が生息しており、那覇とその周辺の河川では水域によってはロウニンアジなど海からの刺客もマダラロリカリアの生息圏内に侵入することもあり得る。
私は実際に那覇市を流れる河川の下流域で本種の周りを悠然と泳ぐ小型のオオメジロザメを見たこともある。

…これらの大型捕食者を差し置いてなにが最強か。
体格から考えるに所詮は大型魚やサギ類の餌に甘んじることになるのでは…。
だがマダラロリカリアが彼らの餌食となることは実際にはほとんどない。

マダラロリカリアはこう見えてナマズ科に分類される魚である。しかし、その体表は日本産のナマズ類のようにヌルヌルと滑らかではない。むしろ、甲冑を着込んだようにゴツゴツと硬いのだ。その硬度はとても包丁の刃が通らないほど。これでは大型魚でも文字通り歯が立たない。頭骨も分厚く、文字通りの石頭である。

すみずみまで甲冑のような鱗と骨格で身を固めている。掴んだ感触は魚というよりもむしろ甲殻類に近い。

しかも、彼らの持つ大きなヒレには硬く鋭いトゲ状の骨が通っている。
捕食者が噛み砕くのを諦めて丸飲みにしようとしても、この骨が邪魔をして嚥下できないという寸法だ。
これには水鳥たちだって難儀するに違いない。ことごとく喉か腹を痛めるだろう。
捕獲されると硬く太い骨の通った各ヒレを突っ張る。これでは丸呑みにもできない。

また、驚くと流木の隙間や岩の割れ目に潜り込み、このヒレを突っ張って体を固定する習性がある。こうなってしまうともうテコでも動かない。
全身を覆う先端がスパイク状に尖った鱗もまた、それら全てが『返し』として機能するため、どんなに力を込めて引っ張ってもなかなか引きずり出せないのだ。

こうした鉄壁の防衛能力により、よほど小さな稚魚や幼魚でもない限りは魚であれ水鳥であれ、どんな捕食者もこの南米からの不沈艦にはお手上げなのである。

この過剰とも思われるガードの固さは原産地である南米アマゾン水系の過酷な生態系を生き抜くための進化の過程で獲得されたものである。
実際、現地ではマダラロリカリアとて決して無敵ではない。本種をはじめとするロリカリア科のナマズたちの天敵としてカイマン(ワニ)やオオカワウソといった鱗の鎧をものともしない非常に強靭な咬合力を持つ捕食者が存在しているのだ。

本来の天敵はワニ!…だがそれも日本にはいない。

……ワニに照準を合わせて進化してきた彼らにしてみれば、アオサギとオオウナギが実質の頂点である沖縄の都市河川など楽園同然なのだろう。

本来の生息地から遠く離れた場所へ連れてこられた生物は新天地の気候や生態系に適応できず死滅してしまうことも多いが、上手い具合に都合の良い条件が揃ってしまうと驚くほど繁栄することがある。
沖縄各地の都市河川を覗き込むたびに視界に飛び込んでくるマダラロリカリアの異様なシルエットを見るたびに外来生物問題とはいかにあっけなく生じ、それでいて根強く残るものかということを痛感する。

なお、マダラロリカリアはいかつい外見に似合わず石に生えた藻類や水底に堆積した有機物などを主に食している。

岩や流木に吸い付く吸盤状の口には苔をそぎ取るブラシ状の歯が生えている。

そのため、同じく藻類を食す在来魚との競合を懸念する声もある。また、産卵に際して浅瀬の川底に深い穴を掘る習性があるため、岸辺の地盤脆弱化につながる可能性も考えられる。
そういった観点からもこれ以上の拡散を防ぐため、今後も注意深い観察が必要だろう。

ちなみになにかと能力の高い本種だが挙動はやたらと鈍く、捕獲は非常に容易である。
どれほど容易かというと、なんと素手で掴めるほど。数匹捕獲する分には網すら必要ない。

素手で捕れる!どんだけ鈍いんだよ!

次々捕れる!どんだけたくさんいるんだよ!

もし投網など打とうものなら、重みで網が引きちぎれるほどの大漁が起きることも珍しくない。
防御力への慢心からか、はたまた外敵の存在しない沖縄での暮らしに警戒心が錆びついているのか。
見た目から生態まで、つくづく摩訶不思議な魚である。

平坂寛

*Discovery認定コントリビューター

生物ライター。五感で生物を知り、広く人々へ伝えることがポリシー。「情熱大陸」などテレビ番組への出演や水族館の展示監修などもつとめる。著書に「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)
「外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた」「深海魚のレシピ: 釣って、拾って、食ってみた」(ともに地人書館)がある。
ブログ:平坂寛のフィールドノート