アリエナクナイ科学ノ教科書:第29回 現代はどれくらいSFに近づいたのか?〜機械と生命の融合〜

21世紀。きっと車は空を飛び、みんな3D投影された映像で通話しているはず・・・と思っていたはずなのに、車は特に相変わらず渋滞を起こしているし、それどころかパソコンのCPUの性能も頭打ちになっていた・・・そう2010年あたりまでは確かに目新しく「未来」を感じることは無かった。

しかしここ数年、突如世界で沸き起こったスマートフォンの躍進によって、パソコン用に使われていた技術が軒並み小型化、さらにジャイロセンサーや磁気センサーの超小型化に加えて、そうした部品の低価格化のおかげで、ドローンや3Dプリンター、さらにVRやARの発展、小型ディスプレイ、さらには網膜投影まで出現し、スマホという1つの産業から派生した産業がさらに産業を生む、まさに現代の産業革命ともいえる大躍進が現在世界で巻き起こっている。

もちろん2000年代初頭は何も躍進がなかったわけでもないが、積み重ねの時代と跳躍の時代をちょうど目撃しているのが今の時代ではないでしょうか?

そんなわけで、いっきにSF技術は現実味を帯びてきました。
では、これから実現可能なSF技術、ブレイクスルーがあれば実現可能なSF技術を今回は追いかけてみたいと思います。それなりにいろいろ調べているつもりですが、この手の技術は日進月歩、もしかしたら自分の紹介とは裏腹にもう実現しているものなども出ているかもしれませんがご容赦の程を。

まずは機械と生命の融合の話を今回はまとめましょう。

●アンドロイドとサイボーグ

アンドロイド
一般的に人間に見えるロボットのことをアンドロイドと呼びSF作品ではよく登場します。ギリシャ語のアントロップ(男)に「〜見える 接尾辞-oid」を足して「アンドロイド」とするので女性型をgynoid(ガイノイド)と呼ぶこともある。非常に古い言葉で、ギリシャ神話にもすでにヘパイストスという神が黄金で作られた自立機械などを作っていたという話がでてくるくらいだが、アンドロイドという言葉は1728年の「Cyclopædia, or an Universal Dictionary of Arts and Sciences」という書籍が人型ロボットとして紹介して初出であると言われている。

サイボーグ
ベースは人間であり、人間の体の一部を機械に置き換えたもの、または脳や心肺機能以外を機械化した人類、もしくは機械化臓器などを導入した人間など、機械と生命が混在した状態、Cybernetic Organism(サイバネティック オーガニズム)を略した言葉である。サイバネティクスという言葉はMITの数学者であるノーベルト・ウィーナーによって提唱された言葉で様々な情報技術に生理学や哲学、工学などが複雑に絡み合ってできた総合的な概念として提唱したものです。ちなみにサイバーポリスとかに使われるサイバー(電脳とも訳される)もこのサイバネティクスからの派生語です。

ーーーサイボーグとアンドロイドというサイエンスフィクション要素は、年々サイエンスノンフィクションへと近づいてるといっても過言でもないかもしれません。

サイボーグとアンドロイドの違い。ぶっちゃけて再度まとめると、ベースが人間で機能拡張に機械を使っているのがサイボーグ。全部人工の機械生命体がアンドロイド(ないしはガイノイド)といったところですが、サイボーグ技術もアンドロイド技術ももはやもう少しのブレイクスルーがあればしれっと実現してきそうなところに到達しつつあります。

まず、サイボーグ技術についてまとめておきましょう。

サイボーグ技術の運用方法です。これはSF作品の中でも曖昧になっていると作品としてのサイバネ技術がブレるので大事にしたい部分です。

・医療目的
・機能強化

基本的にサイバネ技術というのは現在の科学技術において強化目的で人間を機械化しようという研究は行われていません。基本的には失われた手足を戻したり、失われた臓器を代替する・・・といった形で、松葉杖の延長線上、義手や義足といったものがベースとなっています。
しかし、3Dプリンターなどのトポロジー最適化されたオーダーメイド工業製品が作りやすくなってきた上に、スマホなどから派生した極小部品の低価格によりいっきに高性能なものが出現しはじめている。

またパラリンピックでの義足ランナーの躍進がめざましく、2020年の東京オリンピックでは義足ランナーの記録が普通オリンピックの記録を抜くのではないかと言われています。そのうちオリンピックはパラリンピックが先にもてはやされ、オリンピックは「普通オリンピック」などと評されるようになるかもしれません。(どちらが偉いというのは不毛で、あくまで愚衆的な見方です)

ようするに、普段の生活はともかく、走るという点においては膝より下の重量を生身の人間のものより軽くて強靱なスプリングがあれば人類の地平を超えることができるということです。
これはまだ「走る」という単機能でしかなしえていないですが、義手が生身の手を上回る器用性を獲得したり、そうした義手、義足をエクスアーム、エクスフットとして余剰の手足として脳インターフェイスで操作することが普通になる時代も近づいています。
エクスアームはすでにある程度の完成に近づきつつあり、脳波と視線でコントロールが可能で、簡単なモノをつかんだり、押さえたりといった用途でそれなりに使えるレベルにはなりつつあります。

エクスアームに傘を持たせて、うちわで扇いでもらいながら、両手でゲームしながら歩くなんてことも可能になるわけです。
脳波インターフェイスは(Brain-computer Interface : BCI)と呼ばれ、昔は頭に山ほどの電極をとりつけなければいけなかったのが、現在は数個のセンサーで読み取るレベルにまで来ている。
当然現在はまだ情報の分解能が甘く、精密制御は難しく、生身の器用さを上回るなんて夢のまた夢だと思われるが、そうした部分はもはや積み重ねでコンピューターが部屋1つ分のエニアックから、今やポケットに入るスマホになったように次第に研鑽されていく部分でしょう。

人工の人体パーツは歯は今や当たり前、義足や義手もどんどん技術が向上している。手足にとどまらず、今や関節、内耳、血管なども、そして目も人工のものがすでに登場してきています。
人工心肺も現在はあくまで手術中に生かす程度のもので、とても大きくてとても体内に入るようなものではありませんが、ブレイクスルーによっていっきに小型化するかもしれません。

眼に関してもバイオニックアイの技術は進んでおり、これは視神経に小さなチップを網膜につなげて、直接視覚信号を伝えるというもの。えられる視力はモノクロで、まだ1000ピクセル程度の画像認識で、サポートのための機材を腰につけて出歩かないといけないのですが、それでも全盲状態から「見える」まで復帰することが可能となってます。アメリカではSecond Sight社がFDAの認可も取得して販売を開始しています。

つまりチップや手術の精度が上がっていくことで、将来的には完全にデジタル眼の可能性も考えられますし。デジタル化することで、ISO感度を自在にかえて暗闇を見たり、生身の人間には見えない波長を見たり、赤外線モードで温度を見ることも可能になるかもしれません。

例えばwifiなどの周波数帯を可視化すれば、壁の向こうを透視することも可能です(技術自体は2015年にMITの発表などで話題になったのでご存じの方も多いかもしれません)。

視力アップに関してはすでにGoogleがカメラ内蔵のコンタクトレンズなどの開発に成功しています。またリング状に設置された電極でレンズの分厚さを調整することで望遠機能を付与して、超視力を獲得することも可能になってきそうな実験も行われています。
赤外線を見るくらいであればすでにコンタクトで実現しており、2013年にはフランスのカジノで、赤外線コンタクトレンズと専用の赤外線反射インクでマーキングされたトランプを使い、大規模なイカサマが行われて摘発もされています。
しかもコンタクトなしで赤外線を見ることは光感受性分子を眼に投与することで簡単にできるようになるかもしれないという実験もあります。
野戦の前に目薬一発でナイトビジョンが不要になるという時代も来るかもしれません。

一方アンドロイド技術もノンフィクションに近づきつつあります。ボストンダイナミクスのロボット・ATLASは、姿勢制御技術のデモを行い、バク転を成功させています。

また外装も日本や中国でラブドールの完成度はもはや生身をしのぐ、別次元の美しさに到達しており、単機能であれば、家事などをこなすハウスロイドやセクサロイドといったものが登場してくるのは、もはや未来の話・・というより近い将来の話になりつつあります。

当然こうした技術は軍事利用も同時に研究されており、エクスアームなどは強化外骨格や、パワードスーツとして、実用化の段階に入りつつあります。

ただし何度も本連載でも話題になるように、もはや空を飛ぶことも、脅威の馬鹿力を出す機械も、ソレを制御する技術もかなりの領域に達していますが、それを長時間動かすための電力問題が未だに解決していません。

ようやく全固体電池が出てきましたが、それもリチウムポリマー電池より少し密度が高い+爆発の危険が減ったくらいでブレイクスルー・・・とはまだいかない技術です。

また機械には自己修復性という生命には当たり前のように備わっている機能がありません。

それが体内に深く入り込む機械であればあるほど機械的故障が「死」と繋がります。

さらに機械化するということは、機械的脆弱性を体内にとりこむということです。コンピュータ制御された眼はハッキングして乗っ取ることだって可能になるかもしれません。

しかし、技術というのは、そうしたカウンターテクノロジーも取り込んでそのフィードバックによって成長していくものなのです。

 

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ https://www.yumejikiriko.com//