アーバンモンスターズ・街中の巨大魚 第12回 東京湾に潜むアナコンダ『ダイナンアナゴ』を釣れ!!

東京湾の海底には人知れず巨大な『アナコンダ』が大量に生息している…。
そんなトンデモナイ噂を耳にしたことはないだろうか。

もちろん、言うまでもなく、本来のアナコンダとは南米のジャングルに広がる水辺に棲む大蛇である。海水への順応性は持たないし冬に冷え込む東京湾で暮らせるはずもない。
ではこの噂は根も葉もないデマなのか?いや、これがあながち真っ赤な嘘というわけでもない。実際に東京湾奥の漁師や釣り人から『アナコンダ』というあだ名で呼ばれている生物が実在するのだ。

アナコンダたちが潜む京浜工業地帯。アナコンダは夜行性なので夜に狙うのがオススメ。

東京湾のアナコンダはどういうわけか横浜の工業地帯に多く出没する。よりによって市街地からやたらアクセスのいい場所に潜んでいるのだ。彼らはアナコンダの名に恥じず肉食である。河川から流れ込む栄養が育む貝類や甲殻類、煌々と灯る工場の夜間照明に集まる小魚やイカを捕食するためであろうか。

そして面白いことに、横浜の一部遊漁船ではこの『アナコンダ釣り』をメニューに取り入れており、大物釣りファンにマニアックな人気を博しているのだ。ここはひとつ、その正体を探るべくアナコンダ釣りにチャレンジしてみよう。
京浜工業地帯の明かりに照らされながら、「サメでも釣るの?」と聞きたくなるような大きな釣り針にスルメイカのぶつ切りを刺して海底へ沈める。するとまもなく、グイグイと釣竿を海中へ引き込む手応えを感じる。
「えっ、もう釣れたの!?」
と驚きながら海上綱引き開始。やがて水面に浮上した青白い影は全長1メートルをゆうに超えている。これがアナコンダか!!

アナコンダの正体は……巨大アナゴ!?

…その正体は全長150センチ以上、体重10キロにも達する巨大なアナゴの一種『ダイナンアナゴ』である。

東京湾のアナゴといえばなんといっても江戸前寿司で重用されるマアナゴが思い起こされるところだが、このダイナンアナゴもサイズが数十倍か下手をすると百倍ほど大きい点にさえ目をつぶれば体の構造やシルエットなどはそれとそっくりである。だからこそその佇まいの異様さが際立つのだが…。

ところが、残念ながら味についてはマアナゴにはあまり似ていない。風味は近いのだが、マアナゴ特有の濃い味わいとやわらかな身を期待していると裏切られることになるだろう。また、硬い骨が多く食べづらい。
もし食すのであれば蒲焼や煮穴子のようなマアナゴ向けの調理法は避け、骨切りをして天ぷらなどにするかすり身にして調理するのがよい。

蒲焼は見た目のインパクトこそ抜群なのだが……。他の料理をオススメします。

なお本種に限らずこうした大型アナゴの水産物としての利用は偶発的に漁獲されたものが練り物の材料となる程度で、商業漁業の対象とはなっていない。遊漁としての『アナコンダ釣り』でも物好きな釣り人が稀に持ち帰る程度で、ほとんどはリリースするのだという。いわゆるスポーツフィッシングである。

体重10キロ近い特大サイズ。この姿を見ればアナコンダという異名も決して大げさではないと思える。

それにしても驚くべきは彼らの生息密度である。
ダイナンアナゴはある程度の規模の群れを作って生活しているようで、彼らを狙って釣りをしていると、いわゆる“入れ食い”状態を体験することがよくある。その気になれば数十匹ものダイナンアナゴが次から次にひっきりなしに釣れてしまうのだ(そんなに釣っても疲れるばかりなのでオススメはしないが)。
ある漁師などは笑いながらこう言っていた。

「この辺の海底はアナコンダの絨毯だからな!」

これほど大きな肉食魚がこれほど多く暮らしているという事実は東京湾の豊かさの証明だと言えよう。

平坂寛

*Discovery認定コントリビューター

生物ライター。五感で生物を知り、広く人々へ伝えることがポリシー。「情熱大陸」などテレビ番組への出演や水族館の展示監修などもつとめる。著書に「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)
「外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた」「深海魚のレシピ: 釣って、拾って、食ってみた」(ともに地人書館)がある。
ブログ:平坂寛のフィールドノート