アリエナクナイ科学ノ教科書:第23回 アリエナクナイ特殊能力 前編 スーパーセンス 超感覚の世界

漫画やゲームの世界には、超能力をたくさん身につけた超人、特殊能力者がいろいろ登場します。
中には時間を止めるや、半重力を生み出すモノ、相手に成り代わり変身するもの、体を液状ないしは霧にしてどこにでも入り込む・・・・etc、作品を選ばず挙げていくとキリがありませんが、ことにSFにおいては、「実在する動植物の能力を身につけた」という体で、特殊能力を盛るといったものがトレンドのようです。

漫画「テラフォーマーズ」では数々の昆虫や、動植物の能力を操る登場人物によって、能力=動物豆知識みたいな感じになっており、能力の説得力が増します。

たしかに犬は人間の100万倍以上の匂い感知能力があると言われていますし、猫も数百倍の音域を人間より聞き分ける能力があるなんて言われていますが、なんか単位だけ一人歩きしてどんなものなのかイマイチピンときません。カエルは手足がもげてもきちんと再生できますし、シャコは人間の数億倍の色域を見分けることが可能ですし、100℃でもダメージを受けないどころか繁殖するタンパク質の常識を越えた微生物も存在します、本講のテーマは、この実在する生物の「超能力」に話を絞って、「具体的にどんな感じ」なのかを可能な限り追求していければと思います。

●超 臭覚・聴覚

まずは、臭覚。犬は人間の100万倍だとか1億倍だとか言われていますが、何を持ってそんなすごい臭覚が感知できるのかの理由を知っておきましょう。
そもそも匂いというのは、鼻の奥の上にある嗅上皮の嗅神経細胞によって情報が集められ、約400程度の嗅覚受容体が見つかってて嗅球(きゅうきゅう)という匂い信号を束ねる神経に連結されて、それが脳につながって処理されます。センサーがいっぱいあってその根元のセンサーで一端まとめて脳に送ってるという感じです。

嗅覚受容体の数は様々な化合物と結合して「この匂い」みたいに判断していて、1つの分子も複数の受容体で処理されるので、400種類の匂いが分かるという簡単なものではなく組み合わせではありませんが、このタンパク質の種類が多いほど匂いの解像度が上がるという意味では正解です。
一方、ネズミや犬といった臭覚に長けた動物は、1000以上あることが知られています(ゾウは最多の約2000)

人間の場合は、匂いを感受するそのエリアが平面なので匂いも「ある・なし」の情報でしか処理できません。ネズミやイヌ、ゾウはこの嗅神経細胞の数が人間より遙かに多い上に、立体的に分布しており、嗅球のサイズも人間の脳対比にして数倍~数十倍という大きなサイズで、それを脳で視覚情報的な処理をしていることが分かっています。

要するに匂いが立体的に見えるわけです。故に、警察犬などは匂いをたどって、犯人を追いかけたり、麻薬犬などは大量の荷物、大量の香り溢れる荷物の中から特定の麻薬を見つけることができるわけです。ネズミの類いも犬に劣らないどころか上回る能力があるのですが、頭があまり良くないのですが、単一作業であれば学習が楽なので、最近は地雷を見つけるのに、犬よりも安価で訓練も可能なラットを使っている地域もあります。匂いの解像度が高い(匂いの区別が極めて複雑にできる)、感覚が鋭い(例えば犬は人間の感知できる濃度より遙かに少ない濃度、つまり100万分の1の数の分子でさえ検知できる)それに加えて、立体的に匂いを追うことができるというのが、「超・鼻が効く」の意味なわけです。

次に、耳、聴覚だとどんな感じなのでしょうか?

普通の人間の場合、空気を揺らしながら音という波は外耳道に入ります。その後鼓膜を振動させて、それに連なる耳小骨によって増幅されて蝸牛というカタツムリのような器官(中はリンパ液が満たされているので空洞ではない)でその中で有毛細胞を揺らし大脳の聴覚野に接続されて処理されます。
例えば人間より遙かに可聴域(聞こえる領域の波長)が広く、特に高音に関しての分解能が高いことが知られています。
人間は20Hz(ヘルツ)~20000Hz(20kHz)で、猫は下限は人間とどっこいですが64,000 Hz(64kHz)です。しかも有毛細胞自体は人間より少なく、音の分解能は人間の方が高いかもしれません。しかし増幅して聞く、高音域を聞き分けることに関しては卓越していて、神経節細胞から伸びる神経線維の数が人間の数倍あることが知られています。これを使って音の立体的な把握を行っているようで、猫や狐のような大きな三角の耳を持つ動物全般にそうした音の立体把握能力が高いことが知られているので、それぞれの獲物や天敵に応じた音域に最適化されているので、一概に「良い・悪い」というより、感受できる周波数帯が違うという感じです。

その典型としてコウモリなんかは2000Hz~400,000 Hzもはや、人類とは共有してる部分が大半ありません。この異常な高音域はなんなのかというと、昆虫の羽音がまさにそれで、例えば蚊のプーンという耳障りな音は1500Hzですから、コウモリはさらに上の蚊すら自覚してないレベルの音を聞きわけて、さらに本体からも超音波を出し、反射波を聞き取り、反響定位し位置情報を音だけで行ってます。
ちなみに虫は虫で無策にエコーロケーションで場所を知られないように、体に細かい毛を生やして吸音することでステルス化をしようとしたり、多角的な形になることで複雑な反射波を作りジャミングしていることが近年明らかになっています。そうした昆虫の形態から新しい形のステルス技術なんかも見つかるかもしれないと研究もされています。

イルカやクジラなどもエコーロケーションを行っていることが知られていますね。特に魚はまだ耳が未発達な生き物なので、耳ではなく体全体で音を聞いているようです。同様に爬虫類あたりまで全身で音を聞くというのは特徴的にあり、それ故、地震がくるのを予期できる・・・なんて話になっていたりします(実際に使い物になるかどうかはともかく)。

ちなみに蛇には耳が無いため耳の代わりに全身で地面から伝わる10Hz以下の超低周波を聞いているそうです。故にガラガラヘビは自分のガラガラが聞こえて無くて、蛇使いの蛇笛もヘビには届いてないわけです。人間の声もおそらくほぼ届いてないのでペットの蛇ちゃんに話しかけるのは無意味です。

ともあれ、フィクションにおいて聴覚というのが優れているとした場合、可聴域の広さという意味で、音の周波数がどの程度対応しているのか・・・という部分になります。また、20Hz以下の超低周波だと、もはや聴覚として処理するのは困難という感じ。
ちなみに対応周波数が広ければどんな音も聞こえて幸せかというと、そうでもなくて、人間は人間が快適な暮らしのために騒がしくならないようにしているわけですが、可聴域が広ければ、誰も気にならない音を拾ってしまうわけで、特に高音域はストレスになりやすいことが知られている(場合によっては痛みを感じる)ので必ずしも超人も幸せとは言えなそうです。

ちなみに超音波式の加湿器などは多くの動物が嫌がる他、子犬が発作を起こしたなどという事例もあるので、動物を飼う場合はそうした聞こえない音事情にも気を遣ってあげた方がよいかもしれません。

●超 視覚

人間が最も頼っている感覚・・・それが視覚です。
眼鏡をしている人も多いですが、人間という種は生物の中では比較的いろいろなものが「見える」種族です。
しかし、視力に関しては鳥類、特に猛禽類は人類のそれを遙かに凌駕した上位互換です。

目は基本的にカメラと構造が同じ・・・というか、カメラは目とほぼ同じ光学系で構成されています。レンズにあたる、角膜と水晶体、しぼりに対する毛様体、光路に硝子体、そしてフィルムかMOSに相当する網膜に投影し、電気信号に変換して脳に送っているわけです。

鳥類は、かつて爬虫類から分化した恐竜の一群竜盤類から進化したもの(恐竜は絶滅せず、鳥類になった)であり、我々哺乳類とは異父兄弟的な関係ですが、目の構造は鳥類のほうが圧倒的進化を遂げました。

眼球内の網膜上の中心窩(水晶体のレンズが絞ってピントのあった中心部の光が集まる一番鋭敏な部分)において人間は1mm^3あたり20万個もの視細胞(錐体細胞)が並んで映像を分析しています。人の錐体細胞は3種類あり、赤・緑・青(RGB) の組み合わせで色を認識しています。
犬や猫、ネズミといった動物は錐体細胞の種類は2種類なので色味は我々が見ているものより少ないことになります。
一方、鳥類は原則4種類の錐体細胞の上、錐体細胞の密度も数倍の150万以上、つまり4原色のウルトラ高解像度でモノを見ることができるというとんでもないスペックになっています。
4番目の錐体細胞は350nm(紫外線領域)にピークを持つ錐体細胞で、紫外線領域の色味も分解して見ることができるという意味です。

写真は特殊なフィルターで黄色い花を撮影したものですが、ただの黄色い花も、実は紫外線しか通さないフィルターで撮影すると赤い縁取りがあることが確認できます。またモンシロチョウなどは同じ白いチョウでもオスメスで赤外線下では色が別になることが知られています。
このように「見える」というのは生物によってかなりマチマチなのです。

話は鳥の目に戻りますが、色の分解能も凄まじく高いので、人間には見破れない昆虫の擬態なども素材の色の違いなどから見極めるものもいますし、水晶体を支える筋肉も人間より遙かに太く強靱なものが発達しており、クランプトン氏筋、ブリュック氏筋など人間にない構造をしています。これによって毛様体を望遠鏡のごとく倍率を自在に変えることができるので、人間でいうところの目をしかめてモノをよくみようとしたときの感覚で、何百メートルもの上空から巣穴からほんの少しでているネズミを見つけたり、ちょっとした変化を見逃さない目となってます。例えばダチョウの眼球は5センチ近くあり、そもそも巨大で、3.5km先の新聞が読めるであろうレベルの視力です。

カメラ眼はその精密機器すぎるハイスペックが故に眼球を動かすことができません。故に鳥は顔をめっちゃ動かすわけです。なので鳥の目を持つ男がいたら、案外顔をいつもキョロキョロさせてるかもしれませんね(笑)。

さて、目といえば、もう1つ大きなメジャージャンルがあります。複眼です。

一方、我々人類が研究してもよくわからない目があります。
それが複眼という主に昆虫が発達させている特殊な目です。
複眼は読んで字のごとく、複数の目がいっぱい集まった構造をしており、SFでも複眼は非常に優れた目であるみたいな表現がなされることがあります。
しかし、無脊椎動物のタコやイカが我々に近いカメラ眼を発達させる(収斂進化)するように、目のサイズを大きく出来るなら1枚レンズで映像を捉えた方がどうやら生物学的には得策で、節足動物の複眼は、その小さい体に合わせて焦点距離を稼ぐためになんとかでっちあげた折衷案的な構造をしていると言えます。

よく漫画などのフィクションでは、複眼からみた視界が絵のように表示されていることがありますが、実際は複眼内では合成された1枚絵になっているとされています。複眼は球状の目なので、その視覚情報は魚眼レンズ的に無焦点で像を得ているようですが、トンボのような空を飛ぶ昆虫でさえ、視覚反応距離は数十cm程度なので、ちゃんと立体視できる距離というのは非常に狭いようです。

ただこれは、あくまで複眼という単機能で見たものであり、明暗を細かく判断する単眼や、他の微量フェロモンや温度を感知する器官、微小な空気の流れさえ捉える体毛や触角、などの人類には無い感覚器官をたくさん備えたセンサーの固まりみたいなものなので、それらの情報を総合的にビジュアルで処理している可能性もあり、実際のところどのように映像処理しているのかは、あまりにも人類とかけ離れすぎているのでぶっちゃけよくわかりません。

ただ、トンボは飛んでいるハエがスローモーションで見えるレベルのとんでもない動体視力を持っていることが知られているので、複眼の視覚情報というのは悪いことは当然なく、全く特殊な視覚系であることだけははっきりしています。

複眼は水晶体と中心窩をセットにした1つの細い細い目をびっしり束ねたような構造になっており、そこに入ってくる情報を分析しているというよりは、入ってくる情報に対して反射的に対応しているだけ・・・なのが昆虫類の特徴です。

レンズを複数に分けているということは、複数の焦点距離をカメラごとにとることができるので、同時に大量の情報を得ることができる(ただし1つ1つの情報量は少ない:画素が低い)ということで、近年のスマホの普及にあやかって小型レンズの低価格化が進んだおかげで、複眼的に被写体をとらえるカメラなども研究されている。

商品として魅力的かどうかはさておき、もしSFで複眼を持った超人がいるとすればその視覚は以下の感じになるかと思います。
まず、被写体深度別の大量の情報が得られるわけで、これを人間が理解できる形にするとなると、複眼の範囲を圧縮投影した映像が見え、得意な焦点距離(視覚の間合い)の場合は圧倒的な動体視力を誇り、それ以外だと動きを追う感じだけなので飛び道具には大変弱いという可能性があります(ただし焦点距離内に入ってしまえば圧倒的な動体視力で識別できるので、処理できる身体能力があれば避けることもたたき落とすことができてもいいかもしれません)。
あとは基本的に解像度不足になりやすいため細かい像の判断は困難かもしれません。また複眼自体が露出していることから汚れによる視界不良も起こしやすいため万能な面もあるが、2眼カメラアイより圧倒的に優れているというわけでもない・・・という感じです。ただシャコのような12原色、縦波横波の区別もつけるとなってくると、とてつもない領域の色まで見分けることができるので、そうした色彩情報も見分けることができるようになると、たぶん頭の処理能力をそれだけでフルスペックで使ってしまいそうな情報を仕入れることはできるかもしれません(笑)。

結局、生物というのは、その生活に最適で必要最低限の範囲である程度フレキシブルに対応するくらいのスペック配分で十分というかそれでなければ、生物としてリソース配分ができずに絶滅してしまうので、地球上にあらゆる生命のいいとこ取りした超生命が存在しないのはそういう理由です。

とりあえず、まずは人間が想像できる範囲程度の、スーパーセンスを見てきました。
後編では、もはや我々が想像することが困難な、超再生能力、耐熱能力、対酸能力などをみていきたいとおもいます。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/