怪魚ハンター小塚拓矢 連載 第1回(全3回)

世界の大河には、“怪魚”が潜んでいるーーー。高校卒業後、アルバイト代を片手に釣り旅 をはじめた僕は、以後15年間で54か国を放浪した。自身らが“怪魚”と呼ぶ巨大淡水魚を求める海外釣行は、これまでに59回、総日数は1273日を数える。釣りのためだけに都合3年半もの年月を海外を放浪してきた計算だが、中でも川や湖に棲む淡水魚に特別な思い入れをもっている。

南米大陸を代表する怪魚「ピラルクー」。2008年ブラジル

なぜ、川(淡水域)なのか。海ではダメなのか。たしかに、海にも巨大魚は多く生息する。世界最大の魚類であるジンベイザメは海水魚だし、釣りをしない人にとって、マグロやカジキこそ、大物釣りの象徴だろう。しかし、僕が求めるロマンや冒険性は、そこにはない。極論、海に囲まれた日本という国で、それらは自宅から日帰りで釣れてしまうからだ。また、広大な海原では、自分自身の能力以上に、船の装備等で明暗が分かれることも多い。カネ次第な部分が、海の大物釣りには少なからずある。

北米大陸を代表する怪魚「アリゲーターガー」。2013年アメリカ

だから僕は、辺境の淡水域を目指した。小型のリュック1つで、アマゾンの密林へ、アフリカの荒野へ、ヒマラヤの源流へ、しまいには中東の紛争地帯にまで分け入った。そこには、海を越えて移動できない、独自進化したユニークな魚たちが待っていた。大きな船でないと行けなかったり、最新式ソナーがないと魚影を見つけられなかったり…なんてことは、なかった。むしろ小さな船こそ使い勝手がよく、自分が水に浸かって細流や湿原を押し進んだり、水面のヨレやウネリから川底の地形を読み解き、自らの経験に照らして魚の居場所を絞り込んでいった。そこには文字通りの泥臭い旅があり、その末に出会う1 匹は、より一層輝いて見えた。大それた装備も、資金も必要なかった。学生のアルバイト代でもできた。なにをやってもいいが、何もかも自分でやらなければならない…自由だった。

オセアニアを代表する怪魚「ディンディ」。2012年パプアニューギニア

ちなみに、世界には3万種以上の魚が記載されていて、うち1万種以上が淡水魚だ。地球上の水の97%以上が塩水で、残る数パーセントの淡水もほとんどが氷や地下水であり、川や湖の地表水は地球上すべての水のわずか0.01%にすぎない…そこに、地球上の魚種の3分の1が生息するのだ。淡水域の魚類の多様性は、海の比ではない。淡水魚を釣り歩 くこと、それはつまり、多様性を釣り愛でることでもある。

ユーラシア大陸を代表する怪魚「グーンシュ」。2011年インド

“多様性を釣る”、そんな旅路に出会う人々や文化、そしてトラブルも、多種多様だった。 乗っていたバスが銃撃されたり、マラリヤに倒れたり、ワニやクマにニアミスしたり、乗っ ていた船が沈んだり…

アフリカ大陸を代表する怪魚「ムベンガ」。2009年コンゴ民主共和国

最近の旅では、乗っていたバイクタクシーが転倒し、手首と肘を 骨折した。成り行きで食べた生の豚肉や、よくわからない発酵食品らは、今後、僕の体をどう蝕むかわからない。しかし、それが楽しいのだ。日本での家族との安らぎ、それとは逆ベクトルの充足感が、辺境の水辺にはある。

(つづく)

小塚拓矢

人よんで“怪魚ハンター”。(株)モンスターキス代表。学生時代から世界の辺境への釣り 旅を続け「情熱大陸」「アナザースカイ」等のドキュメンタリー番組に出演。近著に「怪 魚ハンター」(山と渓谷社)、「怪魚を釣る」(集英社インターナショナル)、「怪魚大 全」(扶桑社)がある。

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