アリエナクナイ科学ノ教科書:第21回 この世は物質 物質世界! 万物全てを構成する物質の世界 前編

今回のテーマは「物質」。
なんとも地味で、なんとも曖昧で、なんとも唆らない。
なんかそんな感じですでにブラウザの戻るボタンを押そうかと思ってる人もいるかもしれませんが、ちょっと待ってくださいな。

「物質」を「物質」として見る。

なんとも当たり前な話をするのですが、貴方が今のんだ水は、社会の教科書で習った偉人の尿由来、目の前のスマホに使われている貴金属は数千万年前、恐竜を滅ぼした隕石由来かもしれません。台所に置いてある砥石が2億年モノの物質だとしたら?

今回のテーマは「物質」されど、「地球全体」という物質の話なのです。

●循環する物質世界

138億年前。ビッグバンというなんかしらんがすごい大爆発が宇宙で発生し、その後我々の知る宇宙が出来て、我々のいる地球が46億年前に生まれ、10億年くらいかけて原始生命が発生、その後、なんやかんやあって、ぼくらはここにいるわけなのです。

例えば、地球で最も目につく物質「水」で考えると、水というのは水素2つの酸素1つ。H2Oというのは流石に誰しも知っている話です。
この水を構成する元素自体は、地球が出来上がったときから循環しているわけです。そう考えると、人間は毎日約2Lの水を入れて2Lの水を出しています。約13億5000万立方トンと言われる全ての地球の水はなんらかの形を変えて、時に水面から空中に飛び出し、マグマに触れて蒸発したり、上空100kmから水深海10kmものあらゆる場所であらゆる刺激を受けますが、基本的に水素原子は水素原子で酸素原子は酸素原子のままなのです、元素自体が壊れることはまずありません。
こうやって水の中の構成元素は別の分子の一部になったり、石になったり、はたまた水晶なんかに閉じ込められて水のまま億年コースで保管されたり様々な形で循環しています。

水や大気は循環している。コレはなんとなく分かります。炭素も、有機物としてウンチが肥料になってそれが植物の一部になって、再度戻ってくると考えると炭素は循環している感じがあります。
しかし、鉄や金といった金属まで循環していると言われるとピンと来ませんね。

しかしこれもまた途方も無い時間をかけて循環しているわけです。
その1つが火山活動。そして火山活動の元となる大陸自体の移動・・・つまり大陸と我々が認識している陸さえも循環サイクルの一部でしかないわけです。よく考えれば大陸は常に移動しており、移動しているというのは岩盤そのものが地球のマントルや太陽の重力といった影響で対流するように動いているからで、山で何千万年前の海の生き物の化石が出てくるのは、その土地がかつては海底として使われていて、それが今の時代では山の中にある・・・という当たり前のことなのですが、改めてそれが循環している最中であると考えると途方も無い感じが伝わってくるかと思います。

あまりに途方も無いので、ちょっと現実的なモノ、特に金=GOLDについて追いかけてみましょう。

1850年代のアメリカの地質学者フランク・クラークが提唱した、地殻を構成する元素比というものがあり、通称「クラーク数」と呼ばれるもので、現在はもう少し変わっているのですが、大筋は酸素が49%,ケイ素が27%、アルミニウムが8%、鉄が5%、カルシウムが3.6%・・・・という感じで
問題の金は地殻中に 0.004 ppm(くらい)含まれていると言われています。

流石に金は激レア金属だけあってやっぱり少ないな・・・・と思いますが、銅は60 ppm 銀は0.075 ppm、ビスマスにいたっては0.0085 ppmと金より多少多いものの、そんなに言うほど金はウルトラレアなものではなく、ロジウム0.001 ppm、オスミウム 0.0015 ppmに比べるとまだ多い方です(ロジウムもオスミウムも金より高価)。これはあくまで地殻の話。地球内部まで話を広げると金などの貴金属は別に珍しくないようです。

地球の核の密度を計算で出すと鉄だけで構成されているには軽すぎるらしく、どうやら大量の金や白金、その他の重い金属が信じられない量あるとされてます。
金だと地球を4mの分厚さで覆うくらいの分量(約350億t)の金が地球全部で考えると存在するとされていて、金は深くさえ掘れば人類が使う程度であればほぼほぼ無尽蔵と言っていいくらいの物質です。

では、どうして我々がなかなか手に入れられないんでしょうか?
理由は簡単。重いからです。重いと、循環しにくいのです。
さらに化合物を作りにくい金属はより一層核まっしぐらとなります。白金や金はほとんどの酸に溶けず、ほぼ全ての物質と反応しないことで知られています。これも核へ潜りやすい理由の1つです。

地殻から核へ巻き込まれて地球の奥深くの中へ入ってしまう。一端、核に巻き込まれたら、それが地表に出てくるのはもう途方も無い何十億年コースになります。中に巻き込まれる量と出て行く量が釣り合わないので地球の表面にはりついてる我々からすると「超貴重」なのです。

現状、地球上の大半の貴金属は山から掘られていますが、実は海底の泥に大量のレアアースが含まれていることが知られており、ついでに金もめちゃめちゃ含まれていることが知られています。どうして含まれているかというと重いので深いところに集まる・・・ただそれだけなのです。
そして地殻の移動に伴い巻き込まれ岩盤となり、またそれが陸になって露出するも、そのときまでにまた一部は核へと進んでいって吸収コースにいくものが多い・・・と言えるわけです。

話が逸れてしまいましたが、金でさえ地球の途方も無い循環系の一部であるのですが、地球もまた宇宙の循環系の一部なので、そう考えると我々が今ここで生きているということは本当にすごい確率の上で成り立っている刹那なのだと分かるわけです。

かつて恐竜だった炭素を今、鉛筆として使っていたり、何年かすると、貴方の構成原子がどこかのアイドルのパンツになっているかもしれません。このように物質というものは地球全体を途方も無い時間をかけて循環しているものなのです。

●物質とはなにか?

ようやくここにきて地球を構成する物質こそが物質であり、それは循環していることを説明しました。

その上で、酸素原子は酸化鉄(サビ)として鉄と同居することもありますし、酸化ケイ素(ガラスの成分)、または空気中の酸素、大気圏ではオゾンというように、いろいろなエネルギーで形は変わるのですが元素というもの自体は不変であることに気がついたかと思います。

元素は不変。基本はそうなのですが、そうでもないものもあります。

放射性元素や放射性同位体と呼ばれる放射線をだしているような、不安定な状態の元素も多くあり、これらが別の物体に変わるということです。

2011年、大地震に伴い津波やらなんやらで福島の原子力発電所が爆発、その結果、放射性セシウムや放射性ヨウ素なんてものが空から降り注ぎ、未だにあちこちの土壌を汚染しているのはご存じの通り。
どうして核燃料はウランやプルトニウムといったモノなのに、放射能汚染で話題になるのが、セシウムやヨウ素なんでしょうか???

これは核分裂という現象で、最も連想しにくい現象の1つがキーとなります。

例えば、目の前に板チョコが1枚あります。これを左右から力をかけるとだいたい真ん中でバキっと割れるのは想像がつくと思います。

この板チョコをウランだとしましょう。そして割れる時に凄まじいエネルギーが放出されます。このときはなんと質量の一部が熱エネルギーとして放出されるのでとんでもない効率のエネルギーが獲得できるので、原子力というのはなんやかんや問題がありつつも、入れるエネルギーに対して出てくるエネルギーが膨大なので、無茶をしても扱おうとするわけです。

ともあれ、原子レベルで考えると2つに割れたウランは2つのウランにはなりません。
板チョコを割ると、片方が金属になり、もう片方は紫の結晶になり、瞬時に熱で蒸発してしまう・・・そんなイメージです。これが原子力発電の一番のネックでもある「核廃棄物」にあたります。
放射性セシウムや放射性ヨウ素は、物質としてはセシウムやヨウ素という物質で、放射線を出さないものも多く存在する元素です。これらの元素は放射線として不安定なエネルギーを長い年月をかけて捨ててやがて安定同位体という別の物質に落ち着いていく「途中」なのです。

例えば放射性セシウムの1つ、セシウム137は半減期30年の放射性物質として知られています。
この半減期というのは30年かけて約50%のセシウム137が別の物質に変化していくということを意味しています。つまり長い長い年月をかけて、セシウム137はバリウム137になりますバリウム137は放射能を持たないバリウム。普通のバリウムの中にも含まれている普通のバリウムです。

逆に考えれば、この原子をも変えるとんでもないエネルギーを人類は手にしているのですが、これを錬金術に使えないかと考えた科学者がいます。
化学の元祖たるアルケミー。無価値なものから金を作るという文字通りの錬金術を人類は理論的には手に入れて、しかも成功しています。

この理屈で言えば、周期表の順番、元素番号順で金の前か後ろあたりの連中をどうにかしたら金にできるような気がしてきませんか。

実際にそれは可能で実験でも確認されています。必要なのは水銀196。

こいつに中性子をぶつけてやればうまく核の中におさまったら重さが1増えて、不安定な水銀197ができあがります。この水銀197は数日かけて原子としてのバランスを保とうと放射線を発射しつつ安定化していきます。そして最終的に金197として名実ともに完璧な金にできあがるのです。

しかしここで問題が。水銀197は地球で採取される水銀の中にわずか0.15%しか存在しません。当然同じ物質のなかから重さのほんの少し違う同じ物質を分けるのでとんでもない労力が必要で、さらにたった10gの金を作るだけでも1年近い中性子の照射が必要で、トータルコストは金を掘るより遙かに高いため錬金術は失金術であることが判明しています。

我々をとりまく世界は元素で出来ていることが分かりました。では元素がある程度集まってできる分子・・・例えば、水であれば、氷という固体にも水蒸気という気体にもなります。これらの物質の変化や重さは一体どこからきているのか?
後編ではその分子の振るまいについで知ることで、世の中の物質を見る目がいっきに変わるかと思いますので乞うご期待。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/