アリエナクナイ科学ノ教科書:第20回 こうかはばつぐんだ! 弱点ための科学

現実と違って、フィクション世界では特に重要視されることが多い「属性」という概念。以前、属性の化学という話をしましたが、今回はその追伸という感じで、属性に対する「弱点属性」というテーマで話をしていこうと思います。

火は水に負け、水は風に負け、風は火に負ける・・・そんな三すくみの構造は、格闘ゲームでも、立ち攻撃はしゃがみ攻撃に負け、しゃがみ攻撃は空中攻撃に負け、空中攻撃は立ち攻撃に弱い・・・(ゲームやキャラによってかなり異なるが)のように、ゲーム性をはっきりと感じさせることができる上にじゃんけん的でわかりやすいことから非常に好まれています。

実際の現実世界は、どんな生き物も銃で撃てば死ぬので、白兵戦では銃最強、That’s all!となってしまうので、属性などというものは存在しないのですが、仮に、宇宙からスライムのような液状生命体がやってきて、弾丸をダイラタンシー現象のように止めてしまう・・・みたいな生き物がやってきて・・・みたいな状況になれば銃の優位性は下がりますし、あくまで人類の兵器は対地球の生き物なので、現在の知見を超越したモノが現れるとしばらくの間は銃の優位性は消えるでしょう。

意外な弱点・・・という設定は逆転劇にも好都合です。例えば、映画「マーズアタック」(1996年)では、火星人が地球へ攻めてくるのですが、まさかのアルプス地方など伝統歌唱法「ヨーデル」が弱点という意外すぎる弱点により一発逆転劇となっています。

逆に弱点設定がアレすぎたものとしては、「サイン」(2002年)という映画では、地球侵略にやってきた宇宙人の弱点が最後の最後までわからず人類は窮地に追い込まれるみたいな話なのですが、その弱点がまさかの「水」。コップの水だけで勝てるというギャグ映画ばりの雑な設定で逆の意味で話題になりました。
水が弱点の宇宙人が耐水対策もなにもせずむき身で7割が水で覆われた水の惑星を侵略しにくるとかだいぶ謎です(笑)。

このように弱点設計は物語のカタルシスとなる反面、設定が甘すぎると総ツッコミを受けてしまいがちなものであり、相応の「科学的裏付け」を必要とする設定の1つと言えるでしょう。

●クラシック作品での弱点 現代作品での弱点

弱点設定は、フィクションでは王道ともいえるもので、何物へも変化し、時にコウモリへ、時に霧へ・・・そして圧倒的な怪力と不死身さを誇る吸血鬼。白兵戦では最強なだけに様々な弱点が考案されています。最近は不人気な「ニンニク」はもともとフィクションとして描かれた時、その香りの強さから主に薬や魔除けのシンボルとして使われていたところから来ているようです、十字架も同様でしょう。日本なら盛り塩のようなイメージですね。

太陽光も圧倒的なエネルギーを持っているものであり、コウモリ=夜の動物 というドラキュラの設定上から生まれたのでしょう。

また物理的に打倒する方法として心臓という人間でも急所である部分を魔法的な意味合いで「弱点化」している場合が多く見られます。また作品によっては首を切り落とす、頭を破壊する、などもおそらく魔法的なエネルギーの中心部として心臓が使われているという解釈なのでしょう。
同様に、銀や塩に弱いといった弱点が多くの伝説のモンスターには付与されており、非力な主人公サイドが「逆転」というきっかけ、もしくは反撃の「ワンチャン」という意味合いを持たせる意味でも、そうした弱点設定は早めに読者に対して提示しておかないと「ご都合設定」ともなりかねません。

さて、魔法的なエネルギーで動いているモンスターに関しては魔法的な解釈で弱点が付与されているのですが、人気ゲームシリーズ「バイオハザード」などで登場する、ゾンビやその他クリーチャーも基本的に頭か心臓が弱点ということになっています。どうしてなんでしょうか?

バイオハザードシリーズでのゾンビは何種類もありますが、基本は人間に感染したウイルスによる形態変化に過ぎないらしく、強制的に遺伝子に変化をもたらし、内側から別の生き物へと変化している最中・・・というのがゾンビという生物学的な解釈です。故に、彼らは呼吸もしており、中枢から末梢にかけて組織が再編成中なので、手足などへのダメージは比較的軽傷のようです。もしくはすでに中心部に銃弾ごときはダメージとカウントしないくらいの強靱な組織が構築されはじめているのかもしれません。
故に、心臓や中枢神経へのダメージは大ダメージとなるようです。ということは、普通に毒ガスも効く可能性が高く、対ゾンビは混ぜるな危険の塩素ガス(生理機能が人類と違っても生命である以上絶対に毒性が発揮される物理毒)でも撒いておけばみんな死ぬ・・・ということになってしまうのですが、主人公が完全に悪役のソレなので、考えない方がよさそうです(笑)

●現代らしい弱点設定

弱点というのはフィクションでは作者が自由に設定できるものですが、現代科学をベースにしたものにすると、非常に受けいれやすいものになりますが、あまりに複雑すぎるもの、理解しがたいものに関しては「ご都合」と解釈されてしまいやすいという難しさがあります。

本連載でもたびたび話題になる「魔法原理」なのか「科学原理」なのかで、弱点自体は全く異なります。狼男が銀に弱いというのはよくある設定ですが、別にモデルとなった狼自体は銀が弱点でも、金属アレルギーでもありません。おそらくその世界線では銀というものが特別な聖属性(光属性)を持っており、魔物は闇属性であり、物理的な打倒に対しては抵抗力を持つも、聖属性(光属性)にはめっぽう弱いというのは、非常に説得力があります。

またそうした作品では「太陽光の克服」というものが悪サイドの目標になっていることも多く、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」や漫画「鬼滅の刃」でも悪サイドの命題となっています。そして克服してしまった超敵をどうするのか・・・といった二重の熱い展開にもつながっています。

「弱点設定」。科学原理の世界では非常に難しいため、銃最高 銃はすべてを解決する みたいな乱暴な世界線になりがちで、銃が効かないなら、もっと強い銃を使えばいいじゃない理論によりバイオハザードでも、ロケットランチャーは神をも制すという感じになっています(笑)

ただこれでは暴力に勝てるのはより強う暴力という現代の映し鏡でしかないので、その世界観にあった弱点を用意するのもアリかと思います。
近年「Alita」として映画化されて話題にもなっている漫画「銃夢」では、機械や生命体をも取り込んで暴走するバーサーカー細胞という機械有機生命体があり、不死身の怪物を生み出すが、その対抗策としてバーサーカー専用の崩壊プログラムがあり、それを弾丸で撃ち込みさえすれば勝てる・・・という部分が熱い展開となっています。同作品では、硬度対決でも実際の科学に基づいた優劣をバトルの決着の要因としてあるなど「科学的裏付けをした弱点」を非常にうまく作っているSF最高峰と言われるだけの設定群となっています。

科学的な弱点設定は「敵」=「特定の技術」とした上で、その技術において大敵とされるもの、またはその技術において上位にくるもの・・・という現代科学の置き換えを行うことで可能です。
例えば、もの凄い電磁ノイズや無線の乗っ取りなどを武器として使う敵が居た場合、電波というものがテーマ技術となります。電波自体がどの帯域を使うかなどの細かい原理より、電波=遮蔽ないしはジャミングという技術がカウンターになるわけです。
例えば、火山灰のような大量の粉塵が大気中にまかれると電波障害を起こすことが知られています。実際に雲仙普賢岳の火砕流災害時には一切の無線が通じなかったなどの過去の例からも、電波は空中に干渉するものが多いと勝てる理論が生まれます。また、電波を使ってアクセスをしてくるのであれば、逆アクセスも可能ということで、電子戦をしかけて相手をハッキングして勝つということも不可能ではないといえます。さらに電波自体を発生する部分を金属粉や金属製の網などで覆ってしまえば電波封鎖が可能です。
その方法を模索したり、戦いの中で考察していくと「ドラマ」となります。

敵が機械的なものでなくとも、生物相手で凄まじい聴力でどこにいても音に反応して襲ってくる・・・というものでも同じです。
映画「トレマーズ」では地中の中をジョーズのごとく、巨大生物が音を頼りにどこからでも襲ってきます。しかし相手の能力を知ればそれが弱点ともなり、大きな音で追い払われたり、別の音で目くらましをされたりといったカウンター手法として使われます。
B級映画の増殖系のタイプは最後弱点をつかれてまとめられて爆破されるというのがテンプレになっていますね(笑)。「驚異」に対しての「弱点設定」はドラマを非常に熱いモノにしてくれるのです。

●新しい弱点の概念

さて、現代の科学で意外な弱点を追加するとしたらどんなものがあるでしょうか?

例えば、炎に対して音が勝つという設定はありかもしれません。近年、音で燃焼の持続を断つ音による消火技術が登場しています。

同様に、水属性はマイクロ波で勝てるかもしれません。原理は簡単、ただの電子レンジです。冒頭で紹介した銃の効かないスライム状の宇宙生物には、電子レンジのようなマイクロ波、もしくはマイクロ波自体をコヒーレント(方向や波の大きさなど位相の揃った)にしたメーザービーム兵器などがてきめんに効くのはありかもしれません。

また以前紹介した「光学迷彩」が存在する世界であれば光は自在に曲げることができるわけです。本来、防御にしか使えなかった光学迷彩のメタマテリアルをうまく駆使して、強力なレーザービームをそのままお返しすることだって可能なはずです。

このように、戦いというドラマにおいても「冷静に相手を分析する」した結果「~であることが分かった」それ故XXが有効に機能する! といった文法は、戦いの中に「知性」を足すことができるエッセンスとして機能するといえるのです。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/