アーバンモンスターズ・街中の巨大魚 第7回 『泳げるカナヅチ』 シュモクザメが集うアーバンベイ・大阪湾

沿岸に大阪・神戸の二大都市と阪神工業地帯を配する大阪湾は、国内でも有数の都市的海域である。海路では大阪港に堺泉北港、神戸港などを、空路ならば関西空港に神戸空港を備え、まさに関西地方の玄関口となっている。こんな絵に描いたようなアーバンベイではあるが、ここにも「まさか!」の怪物めいた巨大魚が出没する。

かの有名な“ハンマーヘッドシャーク”ことシュモクザメである。

これほどモンスター感に溢れる魚もなかなかいない

シュモクザメの仲間の特徴はなんといってもそのT字型に発達した異形の頭部にある。

通常のサメには見られない、一見すると余計なこのパーツには『ロレンチーニ器官』なる生物が発する微弱な電気を感知する感覚器が詰まっている。

シロシュモクザメの頭部。左右に張り出した突起部には電気を感じ取るロレンチーニ器官が詰まっている。

サメ特有の優れた嗅覚に加えてこの秘密兵器により、シュモクザメは極めて高精度な索餌能力を誇る。

それゆえか、水温が上がり大阪湾にイワシやイカ、タチウオなどの美味しい小〜中型魚が集結する夏季に限ってそれを追って彼らも回遊してくるのだ。

漁師いわく「夏になると毎日、潮目やナブラ(小魚の群れで水面が沸く現象)からカナヅチみたいな頭がニョキっと出てるのが見える」とのことで、かなりの個体数が回ってきていることが窺える。

さらに漁や遊漁で釣りをしていると、針にかかった魚を強奪していく事件も頻繁に起こるという。だがそれはまだマシな方で、一番厄介なのは誤ってシュモクザメが針にかかってしまうパターンらしい。なぜならシュモクザメはただでさえ巨体である(それでも大阪湾に集まるシュモクザメは若い個体が多いのだが)のに加え、サメ類の中でもかなり遊泳力が高いためだ。引き上げるにしても重労働だし、かといって諦めれば鋭い歯と剛力で高い仕掛けを食いちぎられる。

カナヅチのくせに泳ぎが得意とは!面白いが漁師からすれば笑えないのかもしれない。

大阪湾で捕獲されたシロシュモクザメ。夏季に大阪湾に現れるシュモクザメはこのように比較的小型の(と言っても130cm以上あるが)シロシュモクザメが多いようだ。

しかしなぜ、大阪湾という都会の海にシュモクザメが?

実はこれ、字面で見るほど驚くようなことでもなかったりする。

なぜなら大阪や神戸から見て目と鼻の先に淡路島が浮かんでいるではないか。淡路島の南北にはそれぞれ一級の漁場として知られる播磨灘と紀伊水道が広がり、明石海峡と紀淡海峡で大阪湾に連絡しているのだ。潮流の面から見ても魚影が濃くなって当然と言える、かなりの好条件である。

そもそも、大阪の異名である『難波(なにわ)』とは『魚(な)の庭』から転じたものであるとする説もあるほど、水産資源な豊富な海として知られてきた。そりゃあそんな豊かな海を『天然魚探レーダー』持ちのシュモクザメが見逃すはずもない。

江戸前こと東京湾しかり、都市圏の海は意外と好漁場としての条件を備えているものなのだ。むしろ豊かな海だからこそ人が集まり海運が発達、都市が発展したのだとも言える。

平坂寛

*Discovery認定コントリビューター

生物ライター。五感で生物を知り、広く人々へ伝えることがポリシー。「情熱大陸」などテレビ番組への出演や水族館の展示監修などもつとめる。著書に「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)
「外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた」「深海魚のレシピ: 釣って、拾って、食ってみた」(ともに地人書館)がある。
ブログ:平坂寛のフィールドノート