桜の木の下に人間の死体が埋まっていると花の色は変わるのか、マジメに検証してみた

桜がピンク色に染まるのは、その木の下に埋まった人の死体から血を吸い上げているから……。

春の暖かい陽気、満開の桜並木の下でお花見をしているとき、ふとそんな言葉を思い出すことはないだろうか。もともと小説の一節から来ているものではあるが、現在では都市伝説的に語られることもある。

アジサイなど一部の花は、根を生やす土壌の性質によって花の色が変わることが知られている。もし、桜でも同じことが起きたら……。

実際に桜の木の下に人の死体が埋まっていたら、本当に桜の花の色に変化は起こるのだろうか。

 

目次

  • 桜の木の下には人の死体が埋まっている?
  • 花の色を作る化学変化
  • 土の特性で花の色が変わるアジサイ(紫陽花)
  • 実際に桜の木の下に死体を埋めたらどうなる

 

桜の木の下には人の死体が埋まっている?

「桜の花が美しく咲くのは、その木の下に死体が埋まっていて養分を吸っているから」というのは、大正から昭和にかけて活躍した梶井基次郎の短編小説『櫻の樹の下には』から来ている。1928年発表されたこの短編小説の書き出しは「桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!」とインパクトがあるもので、多くの読者の心にこの言葉を焼きつけている。

また、坂口安吾によって書かれた、桜と生首を愛でる女性というモチーフの1947年の短編小説『桜の森の満開の下』も、人の死や狂気と桜との関連性をうかがわせていた。

日本人にとっては春の風物詩である桜だが、同時に死をイメージするものでもあるのかもしれない。

 

花の色を作る化学変化

Credit: パブリックドメイン

桜の花の色には、アントシアニンという色素が強く関係している。

アントシアニンは、アントシアニジンという色素本体と糖が結合した化合物で、植物の中の赤から青の花の色に関係している場合が多い。秋に紅葉する植物も、赤いサクランボも、桜と同じアントシアニンの影響によるものである。

桜の花はアントシアニンの一つ、シアニジン 3-グルコシドという色素が主になっている。種類によって白からピンク色の花をつけるものに分かれているが、その花の色は遺伝情報によってそれぞれ維持されているようだ。

 

土の特性で花の色が変わるアジサイ(紫陽花)

Credit: Gaetano Cessati on Unsplash

桜と同じアントシアニンによって花が色づく植物に、アジサイがある。アジサイは土の性質によって花の色が変化することが知られており、推理小説の謎解きの仕掛けとしてもよく登場する。

アジサイの花の色は土の酸度によって変化する。土壌が酸性であれば、そこに含まれるアルミニウムが溶け込みやすくなる。そういった土壌ではアジサイはアルミニウムを取り込むため、アントシアニン系の色素と結合され、青色系の花の色が現れるのだ。土壌がアルカリ性だとアルミニウムが溶け込みづらいため、アジサイはアルミニウムを取り込むことが少なくなる。アントシアニンがアルミニウムと結合しない場合、赤色の花びらとなるのだ。中性の土壌だと、中間色の紫色になる確率が高いとされる。

アジサイの色の変化を物語の仕掛けとして取り入れた作品は、米国の作家ヘンリー・スレッサーによる1966年の短編サスペンス小説『花を愛でる警官(The Cop Who Loved Flowers)』などから始まったとされる。この短編では、アジサイの花の色が変わっていることから、殺人の凶器である拳銃がその下に埋められているがわかるという風に描かれている。

余談だが、アントシアニンなどの色素を持たない植物は、葉は緑だが、花は白色となる。

 

実際に桜の木の下に死体を埋めたらどうなる

Credit: Javardh on Unsplash

実際に桜の木の根本に人間の死体を埋めた場合、どうなるだろうか。

人間の生きている体は、血液などが弱アルカリ性なのだが、死亡すると細胞が化学変化を起こしはじめ、酸性へと変わっていく。死体の腐敗が進むと、「腐敗ガス」と呼ばれる腐った卵の匂いがする硫化水素系のガスが発生するが、これも弱酸性のものとなる。

酸性に傾いている腐敗した死体を土の下に埋めた場合、土壌の一部が酸性になる可能性があるが、そもそも日本の土壌のほとんどは雨水などの影響で酸性寄りとされているため、そこに生えている桜の木に大きな変化を起こすとは考えにくい。

また、桜の木の場合は、遺伝情報で一定の花の色を保とうとするとされ、一過性の土壌の酸化だけでは花の色にまで変化が現れる可能性も低そうだ。もし現れたとしても、花のピンクの色味が増すのではなく、アルミニウムとアントシアニン系色素の結合が起こるために、青色へと変色していくはずだ。

実際、桜の花の色に強く影響するものは、土壌よりも気温であり、低温であるほどアンドシアンが分解せずに花の中にとどまるために、遅く咲くものの、色は強いピンク色となるのである。

Credit: Jose Maria Garcia on Unsplash

では、梶井基次郎の小説にあるように、爛漫に咲くのは人間や動物の死体が埋まっていてその養分を吸っているからだ、ということについてはどうだろう。

植物の成長に良いとさせる成分は、チッ素・リン酸・カリという3つだといわれており、人体にもその3つの成分はそろっている。もし人体が土の中にある場合、それらの成分が植物の栄養となることは違いないようで、梶井の物語の中での主張は理にかなっている。

だが、現在では、人体や動物の死体を埋めるよりも、それらの成分が含まれる肥料を適切に用いた方が効率的に植物の成長を促し、より爛漫に咲きそうだ。