アリエナクナイ科学ノ教科書:第17回  異世界モンスターの生物学

SF作品からファンタジーまで、作品を彩る1つにモンスターがあります。あるときは主人公に立ちはだかる障壁として、世界観を感じさせるオブジェとして、または夢広がる乗り物として・・・いろいろな生き物が出てきます。
近年、設定の複雑化するこのご時世、架空の生き物を描く際に説得力が求められることがあります。例えば、砂漠の真ん中のオアシスにマグロが泳いで居たら違和感がありますね、海にピラニアが居ても違和感を感じるかもしれません。雪山にセミがいてもおかしいですね。
生き物は、それぞれの地域に適した生き物が住んでおり、例えば、泥状の怪物が砂漠のような乾燥したエリアにいたら、ファンタジーでも違和感を感じるかもしれませんね。

映画「アバター」ではその生態系丸ごとの生物、進化の系譜などにも触れられています。またゲーム「ピクミン」でも、地味に人類が滅んだ後の地球を彷彿させる世界観、生態系が地味に描かれています。

今回は、そうした異世界の生物を描く際、見る際に、もっと面白くなるようなトピックを集めてみました。

●収斂進化の異生物学

異世界の生き物を描く際に最も重視される要素がこの「収斂進化」と呼ばれる、動物が進化する過程で、環境に合わせて、似たような姿になる現象です。

例えば、サメとイルカは魚類と哺乳類ですから全く遠い生き物ですね。しかしこの2つの種はほぼほぼ同じ形をしています。尾ひれの向きが違うくらいです(サメは横向き、イルカは縦向き)
生物史を振り返ると、イクチオサウルスというイルカとサメを足して割ったような恐竜(魚竜)がジュラ紀あたりに存在していました。

また、オーストラリアに存在する有袋類というのは私たちを含む有胎盤類の哺乳類とはかなり昔に分岐した種で、それにも関わらず、フクロモモンガとモモンガ、フクロオオカミとオオカミ・・・といったように、有胎盤類と有胎盤類に対応する種がいますが、当然まったくの別種です。

有胎盤類の居なかったオーストラリア大陸では有袋類の1つの進化の結果が、有胎盤類とほとんど同じになったという点でもかなり説得力のある生物の進化の特性です。また哺乳類モグラの手と昆虫のオケラの手(前脚)など枚挙にいとまがありません。

このように環境が一定であると、生き物は似たような形になる収斂進化、これは私たちの世界ではない異星であったり異世界であっても踏襲するのではないかとされているのが今のフィクション生物でもトレンドとなっており、映画「アバター」などはそれを全力疾走した形になってます。

このように、異星を描くに当たっても、見たこと無い形の生き物が無茶苦茶な体制で生きているというよりは、地球の生物に生活の形態は近くあるというのがSF作品にもよく採用されています。

映画「アバター」では「翼のあるドラゴン型」の生物がキービジュアルとなっているため、その説得力を増すために、大型動物は6本足で進化したことになっており、一部が翼へと進化した・・・と読み取れるような設定になっています。(さらに細かい点では、大気密度が非常に高いため、非常に空を飛びやすいという環境でもある・・・という設定まで用意されていて、異星の空飛ぶドラゴンを成立させるために設定を軸にしていた節がくみ取れます)

●魔法準拠と科学準拠

収斂進化を思わせる生物というのは当然科学をベースにしている話の場合で、魔法という「何でも許される」設定の上であれば気にする必要はありません。
これは前著「アリエナクナイ科学ノ教科書」でゾンビについて言及したときに、そのゾンビがウイルスなどの病原体などが原因で「ゾンビ化」したものなのか、それとも魔術的なもので「ゾンビ化」しているのか起源をハッキリさせておくことはフィクションにおいて重要であるという話とつながりがあります。

魔法世界であれば、人間の体に牛の頭がついてようが、狼の顔が付いたタコが海にいようが、無脊椎動物の蜘蛛の下半身に脊椎動物の人間がつながっていようが、そもそも科学ではないため、科学的なツッコミはまったく無用です。ゲーム「ドラゴンクエスト」のスライムのようなどう考えても生命たり得ない感じも「魔法世界だから」でOKと言えるのです。

●奇抜な生き物のヒント

いきなりなんの脈絡もなしに異形の怪物、異形のモンスターを描くというのもなかなか難しいものがあります。
例えば、映画「エイリアン」に出てくるエイリアンもまさに異形そのものですが、そのパーツパーツはよくみると、人体のパーツの組み替えであり、それ故に見たことのあるパーツが違和感のある形で使われているのでより一層の異形感を出しているのでしょう。
最近の続編である「プロメテウス」や「エイリアン・コヴェナント」では、エイリアンに人間の遺伝子を感じさせるモノがどうして含まれているのか・・・といった部分が後付けですが微妙に言及されていました。

収斂進化とは別に、空想の生き物を描く際に役に立つのが幼形成熟、幼態成熟とも言われる「ネオテニー」という生物の進化の方法があります。
有名なものがウーパールーパー(アホロートル)で、サンショウウオの仲間ですが、成体になってもエラが生涯あることで知られています。サンショウウオは生まれたときからカエルと違って大人のチビ版といった形なのですが肺呼吸ではなくエラ呼吸です。このエラは成熟とともに無くなっていくのですが、アホロートルはそれが無い・・・ということから、アホロートルはサンショウウオの幼形成熟個体、ネオテニーであると言えます。

例えば、人はサルのネオテニーと言われています。これはどういうことかというと、サルがまだ子宮に居る頃の形態は人間のそれと非常に似ており、そこからヒトとサルに分岐してる感があるということです。

また、近年知られたことでは、小さくて実感がないかもしれませんが、ダニはミジンコ類のネオテニーであり、実際に、特定の種類のミジンコの幼生期はダニと共通した形を多く持っています。

この進化の特徴を踏まえて、現存する生物の未来像を描いたSFもあり、Discoveryチャンネルでも公開されていた「フューチャーイズワイルド」では、海に見たことも無い魚のような甲殻類が出てきます。それらは現在はプランクトンとして顕微鏡で観察しなくてはいけないような小さいものが、何万年という時を経るとネオテニーしてそのまま大きくしたような生物へと進化していると言えるわけです。
同様に同作品では、最終的に頭足類(イカ、タコ)が地上へと進出している・・・となっており、像のように森林を歩き回る巨大なイカなどが描かれています。
ゲーム「Splatoon」も人類絶滅後の世界でイカやタコが人類のように収斂進化しているという設定ですので、もしかしたら影響を受けたのかもしれませんね(笑)。

ともあれ異形の生き物を描く際にヒントになるのは、既存の生き物ではないシルエットで生物学的な説得力を手っ取り早く見せるには役立ちます。資料としてはプランクトン図鑑や、地中の小さな小さな生き物などを写真で紹介している本も多くあるため、そうした生き物を巨大化したりデザインの元とすることで、おもしろい生き物をデザインするのに役立つかもしれません。

●異世界での生物相

最後に「生物」と我々が考えているものをフィクション向けというザックリとしたカテゴリーで分類しておこうかと思います。

まず大別すると「生物」と呼べるモノは「微生物」「植物」「動物」の3つです。
「微生物」なんてカテゴリーは生物学的にはとてつもない適当なカテゴリーで、単細胞か多細胞か、細菌なのか真菌なの? いやいや放線菌は??? と言い出すとキリがないので「微生物」です。

ビジュアル的に大事なのが「植物」と「動物」です。

地球では「植物」は自ら能動的にあまりガツガツ動かない存在で、フィクションにおいては、どちらかというと「景観」の一部です。スターウォーズで主人公が未知の惑星でコケを採集して分類を始めてもあまり喜ぶ視聴者はいないわけで(自分はめっちゃ喜びますがw)景観として、乾燥地、湿地、草原、森林といった感じで地球の植物相をアレンジしておくのが良いかと思います。

地球上では「動物」は「脊椎動物」と「無脊椎動物」に二分されています。実際の生物比率的には無脊椎動物がめちゃめちゃ繁栄しているところに脊椎動物が間借りするように存在してる程度ですが、大きな進化の2本柱です。とはいえ、異星だと1系統かもしれませんし、3、4系統存在するかもしれません。
その辺はむしろ重要ではなく、それらが、地球に当たる「人」に該当するのか猫なのか犬なのか、フクロウなのかペンギンなのか・・・といったその環境に合わせた生き物であるという感じが重要でしょう。
また大気の密度が高ければ地球の海を漂う生き物なども空中に存在するかもしれません。

昔のSFでは、地球の有機生命体を構成する炭素の代わりに周期表で同じ14属のケイ素で構成される生物がいるかもという話があり、アイザックアシモフの「物言う石」にはシリコニーというウランを食べてケイ素で体を構成している生物が出てきます。
ただ現在の科学の観点では、ケイ素は二重結合を作りにくいため分子的な柔軟性がめちゃめちゃ厳しいのではないかということで、存在するとしても分子の活動が緩慢であるということは、本当に石のような生命、もしくは生命活動自体がものすごい遠大で人間が生物と認識できるような規模ではない(一呼吸が数十年で億年規模の生命活動)というものである可能性などという感じでは・・・? などと言われています。
ケイ素自体は地球にもありふれた元素で、植物のゴワゴワした短い毛とかトゲとかに二酸化ケイ素が使われていますし、硅藻も名前の通りケイ素でできたカラを持っている微生物です。ただその利用はすべて固い物質であり、柔軟性の必要な生体内でメインの物質として使われてはいないことからも活発なケイ素生命と
いうのは無理筋というのが「現代の科学」の憶測の範囲です。

ともあれ、生物の専門書は多くあるので、そうした世界を描く際には実際に読んでみて、そして博物館や動物園、植物園などで実際に見てみることこそ一番の創作のヒントとなるかと思います。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/