魚すら逃れられない「乗り物酔い」を人類は克服できるか?地球の重力も関係する意外な「酔い」の事実

車や電車、船などの乗り物で旅行に出かける際、楽しい気分をどん底まで突き落とすもの。それが乗り物酔いだ。

この乗り物に「酔う」という状態は、車や船だけでなく、3D映画の鑑賞やVRゲームを体験しているときにも起こる。だが、全ての人が確実になるわけではないものだ。

この「酔い」はどのようにして起こるのだろうか。そして、克服することは可能なのだろうか。

 

目次

  • 乗り物酔いのメカニズム
  • 「酔い」は人間だけじゃない
  • 乗り物だけじゃない、さまざまな「酔い」
  • 「酔い」を超低周波音が引き起こす可能性
  • 人類は酔いを克服できるのか
  • 酔いと付き合うために

 

乗り物酔いのメカニズム

乗り物酔いは、病気であったり人の命を脅かすものではないが、吐き気からはじまり、わずかな眠気や興奮状態などの症状が続いていく。その状態に陥ってしまうと、どんなに楽しみだった外出でも、まったく楽しめないものになってしまうだろう。

嘔吐感が伴うこの「酔い」状態は、体が静止している状態なのに脳が動いていると感じたときに起こるといわれる。人間の耳の奥には、体の姿勢を保つのに役立っている「前庭器官」や「半規管」がある。前庭器官は、頭部の傾きや重力を感知し、体の平衡感覚を保つのに役立つ信号を脳に伝えている。「乗り物酔い」はそれら器官から脳に送られるのデータに矛盾が生じたときに起こるのだ。

Credit: Kylie Paz on Unsplash

例えば、走行中の車の中にいる場合、視覚から得る「動いている景色」という情報から、脳に体が動いているという信号がいく。だが、実際には車の中にいる人は自分で動いてはいない。そうすると、脳に送られた信号に矛盾が発生してしまうのだ。

では、なぜ乗り物酔いしやすい人でも運転すれば酔いづらいのだろうか。これは、運転手が車の動きを制御しているため、情報の矛盾が最小限に抑えられ、脳が混乱しないためだ。

こういった脳の混乱が起こったとき、体が吐き気などを発生させるのかは未だわかっていない。神経毒に対して体を保護するための反応ではないかという説もある。だが、これらの反応は前庭系の感受性が高いことによるものなので、体の異常ということではなく、ごく自然の反応となる。

 

「酔い」は人間だけじゃない

Credit: Tim Mossholder on Unsplash

人間だけでなく、ほとんどの動物も乗り物酔いになる。

1900年代初頭に行われた研究では、犬、猫、鳥、羊、馬、そして魚までも乗り物酔いの症状になることが判明している。研究対象の動物の中では、オナガザル科のマカクだけは、乗り物酔いへの耐性が強いこともわかっている。

 

乗り物だけじゃない、さまざまな「酔い」

両目をディスプレイで覆い、頭の動きをトラッキングして立体的な映像を見せるVR(仮想現実)技術。ゲームや製品開発用シミュレーターとして活用されているこのVRでも、視覚情報と感覚情報が一致しないために乗り物酔いと同じ症状「VR酔い」が発生する。乗り物酔いと同じく、体質によって酔いやすい人と酔いづらい人がいる。

重力がない宇宙でも「酔う」ことは有名だ。宇宙飛行士の約70~80パーセントは、宇宙で乗り物酔いと同じ状態になる「宇宙酔い」を経験している。その原因は完全に解明されてはいないが、重力を感知している前庭器官などが、無重力状態の情報を脳に適切に伝達することができずに起こるのではないか、というのが最も有力な説だ。他にも、宇宙で血液が脳の方へ集まることで脳内の圧力が高くなるために、宇宙酔いの症状を引き起こす場合があるという。

 

「酔い」を超低周波音が引き起こす可能性

※画像はイメージです Credit: Nico on Unsplash

2015年にシドニー大学医学部の研究者らは、風車型の風力発電機が発する超低周波音を人間が受けることで、乗り物酔いと同じ症状に陥る可能性を指摘している。これは米カリフォルニア州のモハーヴェにある、風力発電地域近郊で生活する住民への調査で示唆された。

 

人類は酔いを克服できるのか

乗り物にまったく酔わないという人がいる。これは前庭系の感受性のレベルが異なっているためであるとも言われ、高齢者になると乗り物酔いになりづらくなるというデータもある。また、繰り返し「酔い」を体験することで、脳がこの状態が危険なものではないと認識し、酔わなくなることもあるのだという。

Credit: NASA

NASAでは、宇宙酔いに対する研究が行われている。宇宙ステーションなどには酔い止め薬が常備されているが、緻密かつ確実な作業が求められる宇宙飛行士にとって眠気や視力の低下が発生しやすい酔い止め薬の副作用は致命的なミスに繋がりかねない。

そこで研究者らは、酔い止め薬以外の方法を模索した。宇宙飛行士自身が、心拍数や呼吸をはじめ、体の自律神経の反応について学び、自身で調整することができれば酔いを制御、または緩和できるのではないかと考えた。そこから「抗動揺病トレーニング」と呼ばれる訓練法を開発された。

試験的に行ったトレーニングでは、参加者の80%が乗り物酔いの許容度を高めることができたという。この状態はトレーニング後6時間ほど続いたという。この効果は、運動の刺激による生理的変化を自身で認識し、自発的に安静状態を「模倣」することによって得られる効果ではないかとしている。

 

酔いと付き合うために

※画像はイメージです Credit: Creative Commons

手軽に乗り物酔いを避けるためには、酔い止め薬を服用するのが一般的だろう。

市販の酔い止め薬には、吐き気の原因となる嘔吐中枢への脳からのヒスタミン放出を抑える効果がある「抗ヒスタミン剤」、脳の混乱による吐き気やめまいを旺盛する「副交感神経遮断薬」、中枢神経に働いて脳の混乱が原因の頭痛や眠気を抑える「中枢神経興奮成分」が主に含まれている。子供用の酔い止め薬は、これらの成分の量を抑えたものだ。服用のタイミングは、酔い状態になる前が良い。

また、体調を整えておくことも効果があるという。乗り物に乗る前日は、適切な睡眠時間をとるなどし、乗り物の中では厚着をせず、ベルトを緩めるなどして体に負担をかけない方が良いとされる。

脳の情報の混乱を最小限に抑えることが酔わないための秘訣であるため、なるべく視界がひらけた窓側などに座り、視線を遠くに固定することを意識しよう。

上記の方法は全ての人に確実に効果があるわけではないが、楽しい旅行を楽しい思い出だけにするために試してみてはいかがだろうか。