アリエナクナイ科学ノ教科書:第15回 ハイテク忍術! 光学迷彩の仕組み

目の前に居るのに、視界から消える。SFの世界では定番の光学迷彩。この光学迷彩、現在フィクションからリアルに昇華しつつある技術の1つであることは意外と知られていない。
一時期、プロジェクタで背景画像を投影することで、擬似的に光学迷彩をデモする映像が、ネット上で話題にもなったりしたが、時代はより先に進みつつある。今回はそんな光学迷彩の仕組みと、フィクション上で描く上でどのように描くのが「っぽい」感じが出るのかを合わせて紹介しておこうと思う。

●見える見えないという意味

そもそも「見える」という意味は非常に曖昧です。

「見える」という意味を広く解釈すると「特定の電磁波を捉えることが出来る」という意味になります。これはどういう意味かというと、光というのはそもそも電磁波であり、電磁波というのはその名前の通り、波なので、波の大きさの意味です。波の大きさが小さいと青紫系で、大きいと赤系になります。

空に虹が出ているのを見たことがある人は多いでしょう。
あれは水の分子によってプリズムによって分光(光をスペクトル別に分けることを指す言葉)されることで、太陽光が分散して色が分けられた状態になっている状態です。
そして七色に見えるのは、あくまで「人間にだけ」であるということです。人間の目が350~830nmあたりの光、つまり電磁波の一部の領域を「見る」ことができるような仕組みをもっているので、人間には、七色の帯にみえるのですが、これが紫外線領域が「よく見える」チョウやハチなどの昆虫からすると、虹の見える部分は青よりにズレているはずです。これは人間でも色覚異常(色盲)といわれる人は、その領域がズレており、男は20人に一人、女性は500人に一人くらいの割合で存在しているので、もはや異常と呼ぶのはおかしくて、個性でしかありません(ちなみに細かく分けると、赤緑色覚異常、青黄色色覚異常、一色型色覚など錐体細胞のタイプによる細かい差があります)。

ようするに「見える」というのはそこにある物体がその波長の電磁波を反射して見えているだけのものであるということを知っておけばOKです。
白は全反射、黒は全吸収。とはいえ、完全に全部吸収するという黒はそうそうないので、僅かに反射された色を認識しているわけです。
イギリスの航空素材の開発企業であるSurrey NanoSystems社が、99.965%の光を吸収する黒素材を製造しており、その塗料で塗装された物体は人間の目視では凹凸が認識できなくなっています。闇夜でも星明かりさえ吸収してしまうので逆に黒すぎて目立つレベルです。

Vantablack S-VIS

以上が「見える」という意味で、光を吸収する「黒」は見えるというより、周りとの差によって黒と認識されているわけです。ちなみに一部のヘビは赤外線を見ることで暗闇でも体温の高いエサを見つけることができるようになっていますし、空を飛ぶ鳥類の多くは人間よりさらに錐体細胞の種類が多いので、色の分解能が段違いです。そういうわけでSFでの光学迷彩というのは「人間による目視」と「レーダーによる監視逃れ」という部分に入るでしょう。

そして「レーダー逃れ」は主にマイクロ波を吸収、ないしは反射で帰ってこないように散らすなどの技術として採用されており、「ステルス戦闘機」などが、あの特殊な形状をしているのがその理由です。そういう意味では「レーダー」からの光学迷彩はすでに完成の領域ではあるわけです。

例えばこちらは、赤外線光学迷彩を搭載した戦車の実験例。液晶ディスプレイのように温度を変えれる装甲板を並べて赤外線撮影に移らないどころか、別の像を映し出すことも可能。小型車両のフリをして洗車が登場ということも可能ということです。

●そんなんじゃない カメレオンのごとき光学迷彩が知りたいんだよ!

と、思ってると思いますので、話を進めましょう。とはいえ大前提の「見える」とは? が分かっていないと理解が悪くなるので、先のめんどくさい話をしたわけです。

人間の目視で見えない(見えにくい)状態とはなんでしょうか? 1つが鏡です。例えば、部屋の中にかがみ1枚置いてあると明らかに目立ちますが、これが砂漠や森の中、そしてそれなりに距離が離れたところにあればどうでしょうか?

まわりの風景を反射して非常に見えにくい状態になるのがなんとなく想像できるでしょう。球体のミラーコートとかだとほぼ見えない感じになってしまいます。
ただ鏡はあくまでまわりの風景を反射しているだけであり、近くでみると明らかに鏡なのがバレてしまいます。ましてや人工物の多い市街地などでは逆に目立つばっかりです。

これを後ろの風景を前に投影できれば場所を選ばぬ光学迷彩となるわけですが、鏡とはわけがちがう難易度となります。自分の後ろの風景を自分の前面に投影する。

この素材こそ、メタマテリアル(メタ物質)と呼ばれる新素材の開発分野であり、光学迷彩では電磁波を負の屈折で見え方をおかしくする電磁メタマテリアルで、これが現在ゆっくりと完成しつつある。
2007年には米防衛高等研究計画局のDARPAで市街戦で使える一方的に相手に見えずシールド内からは見えるメタマテリアルの開発計画が話題になっている。2015年にはハリーポッターもびっくりな透明マンとの開発に成功などの話もネットを賑わした。

・・・とはいえDARPAなどの技術祭典で出てくる技術の多くは、途中で暗礁に乗り上げて空中分解することも多いので、その後実現したのかどうかは不明です(笑)。

熱で形状変化するカーボンナノチューブを用いた鏡面効果の実験。液体中では一見見えないようにふるまうことが可能な様です。

ちなみに屈折率が近いモノの中では透明に見えるのはよくある現象で、それをうまく利用したのが透明骨格標本で、筋肉の中の水分をグリセリンに置換することで擬似的に透明にみせている(骨はカルシウムを呈色させる色素で染める)。また鉱物油の屈折率が1.45~1.48でガラスの屈折率が1.4くらい(モノによってまちまち)なので、屈折率が近いモノであればガラスを油のなかに入れると屈折率の関係で見えなくなる。

サラダ油とガラスがあれば完全に消えないもののそれなりに見えなくなるのを体感できるので、実験してみてもいいかもしれません。

●光学迷彩の描かれ方

ともあれ、現在のテクノロジーが進歩していくことでいくつかの光学迷彩の種類を想像することができます。またその弱点もついでに出てくるので、一緒にみていきましょう。

まず、仮に全身を包んでいるスーツに細かい有機ELのような微小な素子が埋まっており、ディスプレイさながらに、相手に対して後ろに見えるように映像を投影できるとします。
いわゆるカメレオン光学迷彩です。

しかしこの方式は同じ方向から見ている人には光学迷彩になったとしても、それを横からみている人に対しても同時に行うのはかなり難しいといえます。つまり人に人に囲まれるとバレまくりということです。
これはフルボッコ不可避です。

次に、空気の屈折を利用した光学迷彩も考えられます。空気の屈折率の変化で虚像が出現するのは、有名なものでは蜃気楼です。
蜃気楼は温度差の空気の屈折率の違いから虚像が投影される現象で、実際に海岸線や湖、山や砂漠などの温度差が極端に発生しやすいところで観測されており、あるはずの地形が消えて見えたりすることが知られています(逆にないものが出現することもある)。

温度変化を得意とする異能力バトルなどで姿を隠す能力として使えそうです。実際は、移動物体にあわせて空気の温度変化を作ることが難しく、もし科学的に実装したとすると、移動した部分の像がゆがむので、移動先では分からないものの、移動の軌跡が残ってしまうことになります。
これまたフルボッコ不可避です。

やはりSF的には光学メタマテリアルが存在するとして、まわりの光をそのまままるごと迂回させる素材とすると理論上は影も落ちないことになり最強ということになりそうです。

よくYoutubeなどに上がっている透明化マントを試してみた動画みたいなチャチな動画がいくつかありますが、もしメタマテリアルが存在して光を回り込ませているはずなので、本来影は無いはずです。ですが、地面にはしっかりと影が映ってしまっています。つまりクロマキー合成によるフェイクだと言えるわけです(笑)

話は戻って、メタマテリアルが可視光だけを対象としている場合は、赤外線モードに切り替えられるとはっきりと見えてしまう可能性があります。また強い熱を与えると熱の伝わり方が空気とはまったく異なるので、赤外線カメラで見えてしまう確率がたかいと言えるでしょう。

このように、光学迷彩1つもSF的に掘り下げると、強みも弱点も出てきて「圧倒的強い技術」ではなく「弱点」も生じるようにすると、「攻略」というストラテジー的楽しさも出てくるかと思います。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/