アリエナクナイ科学ノ教科書:第14回 サバイバルフィクションのお作法

Disoveryチャンネルといえば、サバイバル番組が有名で、ベア・グリルス氏や、「水場を見つける」ことに定評のあるエド・スタフォード氏の番組では、様々なサバイバル知識が披露されている。
実際に、フィクションにおいても極限環境に置かれた登場人物達が、その場にあるものをいかにうまく利用して、機転を利かせて乗り切るかというのが「見せ場」になることも多いわけです。
そしてその状況について聞かれることが多いのが、自分の「科学監修」の仕事でもあるわけです。

今回はそうしたサバイバルの状況とお作法について科学設定のがんばりどころを紹介します。

●マズローの5段階欲求で考える

サバイバルにおいてキャラクターの行動を決めさせるとき、このマズローの5段階要求をまずはベースに考えてブレないように動かさないとサバイバルの焦点がずれます。

災害時においては平時前提のマズローの5段階欲求は4番目5番目が混在した感じになります。
とにもかくにもまずは「危険からの待避」であり、倒れそうな建物から遠ざかる、水がきていれば高台に移動する、ゾンビの群れがきたら立てこもる場所を探す・・・など、とりあえず、「死なない」「ダメージを受けない」ことが最優先事項となります。

その後、ある程度、脅威から遠ざかったところで人間模様が描かれるか、その脅威を打破するために、身の回りにあるものを利用する・・・というのがサバイバルモノの見所ではないでしょうか。

この連載は、その人間模様を描く話に関しては管轄外なので、後者の「脅威を打破する」という点にフォーカスをあてて話を進めていきます。

まず、現実においてもフィクションにおいても「災害」というものの舞台が、都市型サバイバルなのか野外サバイバルなのかに大きく分けられます。

野外サバイバルは、無人島に不時着、漂流した・・・といったもので、何も無い荒野で、まずは火をおこして・・・といった感じの物語となります。

●2つのタイプのサバイバルの違い

野外サバイバル、都市型サバイバル、この2つは似て非なるモノで、大きな枠がそれぞれ設定されています。

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野外サバイバルの流れ

1)身の安全の確保 :危険から遠ざかる(野外サバイバルではあまり描かれない)
2)水の確保 : 人間は栄養がなくても備蓄でなんとかなるが水はどうにもならないため
3)火+シェルターの確保:サバイバルのための探索のベースキャンプとなる場所の設営
4)食料の調達 : 食べれるもの食べられないもの、調理法などの知恵が問われる
5)脱出経路を探す+移動 : もとの世界に戻るための計画をたてる

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実際にDiscoveryチャンネルのサバイバル番組でも、ほぼこの流れでサバイバルが行われています。実際に遭難した人も、ほぼ同じ順番をたどります。

逆にこの順番を間違えると、即座に詰み、ゲームオーバー、死が待っているとも言えます。
例えば、複数人での遭難例だと、水も食料も安全も確保せず、計画もたてずに、騒ぎ、いがみ合い、とにかく救出されるワンチャンに欠けて彷徨うとかデッドエンド感しかありません。

都市型サバイバルの場合は基本的に、都市災害に巻き込まれた設定なので、資源自体は豊富です。ただその資源自体を使いこなす方法、手腕が「サバイバルらしさ」が出るわけです。

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都市型サバイバルの流れ

1)身の安全の確保 :危険から遠ざかる(倒れる建物、燃える構造物、爆発しそうな何かから遠ざかる)
2)水の確保 : 汚水を避け綺麗な水を得ることが難しい
3)シェルターの確保+ 暖や食料:ひとまずの危険から身を守る場所を探す
4)仲間の確保:都市型サバイバルの場合 重要視されやすい
5)脱出計画を作る+実行 :

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2つの対照的なサバイバルも基本は同じなのですが、資源とゴールが全く異なります。

野外サバイバルは人里にたどり着くことが目的とされており、都市型サバイバルでは、完全なる脅威からの待避が目的とされています。ゾンビ映画だと、都市型サバイバルになるのですが、ほとんどのゾンビ作品は、世界がゾンビ汚染(笑)されており、いいとこ最後のシェルターに逃げ込むか、「明日はどっちだ」的な投げっぱなしで終了することが多いですね(笑)。

ともあれ、フィクションでこうしたサバイバルを描く際に、核となる「人間ドラマ」を描く場合は、特にガッツリ描かなくても1~3あたりはなんとなく誰かがうまくやってくれて、その上である程度、<脆いが安定した環境>の上でないと、特に愛憎劇などは危機的状況では解決すべき他の問題が多すぎるので、それを優先的に前に出すと「ご都合」感が拭えない感じになっていしまいますので、まずは、最低限の環境設定を「なんとかした」という流れで通しておいたほうがリアリティが出ます。

そしてサバイバルモノとしての要所要所に、火をおこす、水を確保、食料調達・・・といったものに「機転を利かすか」という部分が作品の面白さに花を添えたり、ドラマの中の目的となったりするわけです。
特に火と水の描写には最低限の知識がないと流石に描写に怪しさが出てしまうので、そのあたりのお作法に触れておきましょう。

●火をおこそう

野外サバイバルと都市型サバイバルでは火起こしは根本的に異なります。

まず、野外サバイバルにおいての火起こし。
装備ゼロでの火起こしは原始時代、人類が苦労に苦労を重ねていたのと同様にかなり難しく、ベアグリルスの番組でさえ、大半の回で「メタルマッチ」と呼ばれるマグネシウム合金の棒とナイフで火花を作っており、その火花を火口となる燃えやすい素材に着火し、さらに燃えにくいが長く燃える燃料へ着火するという流れです(毎度 面倒な火起こしだけで尺を稼ぐのも無意味という番組的な意図もあると思いますが)。自然環境だと、摩擦で火をつけるのは乾燥地帯でのみ可能で、それ以外の多湿な世界では非常に難しい問題です。

メタルマッチがサバイバルに優れている理由は、ライターやマッチは水濡れや砂噛みなどの自然の中での不慮の事態に対して極めて弱い点にあります。火をつけるくらい文明の利器たるライターやマッチくらいメタルマッチより携帯してるだろ・・・と思う人も多いと思いますが、ライターやマッチは不慮の災害に弱いのと燃費が悪いということから万能ではありません。

メタルマッチは本体が小さい棒状のマグネシウム合金でナイフやとがった石などでやするだけで非常に温度の高い火花を簡単に作ることができます。これを燃えやすい火口に引火させて火を育てていくのがサバイバルにおいての火起こしの基本となります。仮にメタルマッチがなくても、最悪炭素鋼のヤスリや釘でも1本あれば、固い石に打ち付ければ火花を作ることができます。いわゆるフリントストーン(火打ち石)と言われているものは、石から火が出ているわけではなく、石はチャートのような固い密度の高い石であればなんでもよく、火花自体は鉄から出るからです。

この火口となる素材というのが、野外サバイバルでは、乾燥したコケ、ガマの穂(池などに生えるソーセージのような種でほぐすとフカフカの表面積の高い綿がとれる)もので、引火しやすいものにまずは火をつけ、その後、流木や枝などの燃えにくいけど長く燃える燃料へ着火して管理を楽にする・・・というのがたき火の流れです。

これが都市型サバイバルであれば、着火できるものは山のようにあります。代表的なものが電池。9V電池を細くしたガムの包み紙やアルミホイルにでも接触させて通電させれば即座に発火します。
コンセントがきていて電線があれば短絡させれば即座に発火できるだけの強力な火花放電が起きますし、混合危険などで混ぜるだけで発火する薬品の組み合わせもいくつも存在します。

またピストン構造物(空気入れやシリンダーの部品など)があれば、断熱圧縮といって空気を圧縮した際に火口の発火点近い温度にして発火させる着火方法などもいくらでも考えることができます。
実際に断熱圧縮を使った発火装置としてはファイアピストンとしていろいろなアウトドア商品として売られています。

テスラコイルで針金から火花放電をさせている様子。紙くらいならすぐに着火できる。

またたき火の置き方や燃料の工夫など、いくらでも作品のサバイバル性にディティールを持たせるネタはサバイバル教本に載っていますので、調べてみると良いでしょう。

●水の確保

次に水の確保。サバイバルにおいて、野外サバイバルだと水場を探すことが目的となり、都市型サバイバルであっても、水は見つけてもそれを安全に飲むことができるかどうかなど、火と同様に難しい問題です。

またメタルマッチのような簡単な正解がないのも難しいところです。浄水ストローというサバイバル用品もありますが万能ではありません。

まず、野外では水のある場所を見つける・・・という流れになりますね。見つけた水が飲めるかどうかも難しいですね。また長期的には寄生虫や水に毒物が混入している可能性もあります。

それこそ設備さえあれば、よどんだ川や池の水(そのまま飲むと100%おなかを壊すか病気になる)レベルの水でも、物理濾過を繰り返し、凝集沈降剤でさらにコロイドを除去、活性炭や逆浸透膜で水以外の物質を除去・・・などできれば最高ですが、そんな設備があればそもそも飲める水くらいありそうですね(笑)。

例えば自然界では池の水でも、ある程度煮沸して揮発成分をまずは共沸(水の沸騰といっしょに沸騰させてしまうこと)させて飛ばし、匂いがしなくなった水蒸気を集めてそれを管や大きな葉っぱなどに凝縮(水蒸気が水に戻る)したものを集めて作るのが最も安全な水の確保となります。
では実際に、都市型サバイバルでありそうな、池のような水たまりや、貯水槽があったものの、中で藻が発生している、プールの放置された水・・・を飲用可能にしてみる方法を探ってみます。
もちろんこの方法でも100%飲めるわけではありませんが、かなり「大丈夫な確率」は上げれるかと思います。

・薬品処理+煮沸+簡易浄水が必要

まずアオコ(藍藻類)が作り出したミクロシスチンなどの毒素、ジェオスミンなどの汚臭源、幾多の寄生虫、病原性細菌が含まれていると考えます。

また市販の携帯浄水器でも濁った池の水をそのまま使うと100Lタイプのものであっても30Lも濾過できずに濾材が死んでしまいます。そこでできるだけ除染してから使うようにと自作の浄水器を作ってしまいます。

1)まず、生物の痕跡を消しましょう。一番手軽なのが塩素です。いわゆるカビ取り剤や漂白剤など都市型サバイバルなら手に入る確率は高いでしょう。水に対して次亜塩素酸ナトリウム消毒を行います。その水をさらに一度煮込んでおけばより確実です。次亜塩素酸ナトリウムの濃度は数百~数十ppmレベルで強い塩素臭を感じますが飲んでも影響があるレベルではありません、脱水や病原体を取り込む方が問題です。
分量は可能な限り透明にした水、1.5Lのペットボトルに次亜塩素酸ナトリウムの水溶液(漂白剤など)が数滴程度で飲用ギリギリのバランスとなります。

簡易浄水装置の中身。

2)材料はペットボトルに、スポンジ、細かく切った布(綿が望ましい)、メラミンスポンジ、冷蔵庫用防臭剤を使います。材料はなんでもよく、大きな濾過(荒いスポンジ)の代わりに綺麗な砂利でもいいですし、細かいスポンジの代わりに衣類を細かく切って濾材にしてもアリです。
そして可能な限り濾過した水が最後に活性炭にくぐらせます。実際に池から組んできた水に塩素消毒をしたものを使います。

3)写真のように水をいれる上から荒いスポンジや布、細かいスポンジ、そして最後はコーヒーフィルターに2重に包んだ活性炭(冷蔵庫用活性炭の場合そのまま袋で使えることもある)を入れ、あとは重力の力で濾過してしまいます。水をいれるところにヒモなどを付け吊し、キャップを少しだけ緩めればゆっくりと浄水されてきて、フタのスキマから滴下していきます。

いかがだったでしょうか? サバイバルも立派な科学なのです!

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/