蟲ソムリエの自由時間(オフタイム):第1回「声のいい歌い手」のシトラス炒め

「昆虫食は未来を救う?!」といったキャッチーな見出しの記事が増えてきた。

とくにコオロギは今世代の昆虫食の担い手となっている。フタホシコオロギやヨーロッパイエコオロギは、体重増加あたりで牛や豚と比較すると、その温室効果ガスの少なさ、効率の高さが注目された。そして何より飼いやすい。

これらのコオロギは食用で注目されるずっと前から、ペットの爬虫類や両生類の餌として盛んに養殖されてきた。そのため多くの生き餌用昆虫業者が食用へと転業し、先進国でサステナビリティ(持続可能性)をうたい、精力的にビジネスを始めている。

Credit: 佐伯真二郎

ラオスで私が参加している栄養支援プロジェクトにおいても、私が来る前にコオロギの可能性について検討されたそうだ。しかしその餌はニワトリの配合飼料が必要で、内陸国であるラオスは港のある隣国に比べ輸送費が割高になってしまう。そして農村地域は現金収入がほとんどない。

このままコオロギ養殖を村に導入すると配合飼料が買えない村人が食べるべき栄養素すらもコオロギが奪ってしまうリスクが考えられた。コオロギに必要な栄養は、穀物を中心に20%程度のタンパク質というバランスで、ラオス人がこの先食べるべき栄養と近すぎてしまうのだ。

そこで、私たちはコオロギよりも、人の栄養と競合しない栄養バランスのエサを食べる昆虫に着目することにしたのだが、それは本業の話。

今は自由時間(オフタイム)なのだ。私はおいしいコオロギがとにかく食べたい。

フタホシコオロギよりも大きく、ヨーロッパイエコオロギより柔らかで甘みの強い、そして食べ応えのあるおいしいコオロギはいないものか。

いるのである。

現地でヂローと呼ばれるオオコオロギ(Brachytrupes sp.)は、ラオス人の誰もが愛する郷土食で、私が昆虫食の研究をしている、というと必ず養殖できないか、と聞かれる。身近で少しお高い食材である。単に大きいだけでなく、小ぶりなコオロギたち(現地ではヂナーイと呼ばれる)とは、生態もかなり違うようで、養殖は難しそうだ。

2017年のある夜、初めてのラオス短期派遣に来ていた私は、ラオス第二の都市サワナケートに行き、現地で活動する老舗NGO職員の方とちょっとおしゃれなラオス料理レストランに食べに行った。そこでやはり昆虫を食べたい、とオオコオロギの炒め物を注文した。コブミカンの葉とパプリカ、玉ねぎと炒め合わされたそれはコク深く、そして何のクセもないため、ナッツとエビの中間のような上品な味がした。

Credit: 佐伯真二郎

後にこのコブミカンの葉は昆虫料理に欠かせない脇役であることがわかる。習ったレシピによると、ちょうどいいカリカリ具合になるようコブミカンの葉だけ先に低温でじっくりと揚げているとのことだ。他の柑橘類とは異なり、この葉は揚げても強いシトラスの香を残すため、クリスピーな香り高いチップス状になる。ジューシーに炒められたコオロギの外皮は少し弾力があり、シトラスの葉が先にパリパリと崩れ、口の中が柑橘の風味で満たされる。後から噛みしめたコオロギがほぐされ、優しい甘みと香ばしさ、そして歯ごたえが調和していく。

そしてお会計。レシートが出てくる高級なレストランだったのだが、そのレシートに「コオロギ」の文字がない。

Credit: 佐伯真二郎

食べたものを順番に訳してみると、この料理はリストの一番上、「声のいい歌い手」と書かれていた。なんとも風流だ。

「歌い手を油で炒めるのは、はたして風流なのか」という気もするが、いたく感動したものだ。

つまり虫の名前をそのまま呼ばない、センスのいい名付けが、昆虫料理には必要なのだと気付かされた。そういえば豚の肉はポーク、牛の肉はビーフと、本来の動物の名前を使わない名付けが英語圏では使われている。

では虫の肉は、何と呼ぼうか。「むにく」「むしし」。いやいや、まだ引きずられている。虫という概念と虫の肉という概念は独立でいいのだ。擬人化もいいかもしれない。

さて、このコオロギはどのように「声がいい」のか。

巣穴を見つけたとき、そのムービーを撮ったので紹介しよう。翅を高速ですり合わせることで響く声は「歌い手」にしては一切息継ぎのないため少し奇妙に感じる。見事な大音量があたりに響き渡る。

その声に(私のような)腹をすかせた捕食者が引き寄せられたとしても、40cm以上の深さに掘られた巣穴から尻だけを出しているので、さっとその身を引かれてしまう。これは大変だ。

文献を調べ、バッタ目の昆虫専門家にも相談し、何度か市場で買ったオオコオロギの飼育にチャレンジしてみたが、このコオロギは、やはり集団生活にはなじまないようだ。餌を十分にやっても共食いが激しく、すぐに数頭まで減ってしまう。

市場にまとめて売られているのをみて、集団生活をする群れを一網打尽にするのかと勘違いしていたが、話を聞いてみるとどうやら一頭一頭を細いショベルで深く巣穴を掘り捕まえて、売りに来ているとのことだ。それくらい田舎には現金収入になるものが少ない。オオコオロギは採集すれば必ず売れる、現金収入の優秀な担い手なのである。

Credit: 佐伯真二郎

最後に、「声のいい歌い手」のシトラス炒めのレシピを紹介しよう。

オオコオロギ 100g

コブミカンの葉 好きなだけ

レモングラス  適量

玉ねぎ     1個

パプリカ   彩を良くしたい時入れる

にんにく   ひとかけ

炒め油    大さじ5たっぷりと

 

コオロギは消化管にフンが残っていることがあるので、尻の先端の2節ぐらいをつまみ、ぐいっと引き出すとよい。消化管と一緒にフンがなくなり、雑味が減る。味の染み込みもよくなるようだ。コオロギの後ろ足にはトゲがあるので、ひざ下から取り除いておく。モモがおいしいので足の付け根でとってはいけない。

Credit: 佐伯真二郎

コブミカンの葉は焦げてしまうとその風味が失われるので、最初に低温でじっくり揚げる。鮮やかさが保たれたまま、カリカリとチップス状になったら頃合いだ。

コオロギを玉ねぎ、にんにく、レモングラス、パクチーなどの他の香味野菜と一緒に多めの油でしっかり炒め、強めの塩胡椒で仕上げるとおつまみに最適な「声のいい歌手」の出来上がり。

Credit: 佐伯真二郎

コブミカンの葉は他の昆虫とも相性が抜群で、このように市場で売られていた料理済みの昆虫を買った時にも、「葉っぱ入れる?」と聞かれた。別で揚げられた葉は右側の円筒の容器に入っており、買う時に好きなだけ入れてくれる。

コブミカンの葉と一緒に食べたり、交互に食べたりすることで口の中がさっぱりし、いくらでも揚げ物が食べられるのだ。

Credit: 佐伯真二郎

ラオス人スタッフに教わりながら最初に作ったコオロギ炒めは、焦げ焦げであった。木炭の火力にも慣れておらず、コブミカンの葉とコオロギとをいっしょに炒めてしまい、葉が焦げて色も悪く、香りも抜け、苦味が出てしまった。なんとも声の悪い歌い手ができてしまったのだ。

みなさんも未来の昆虫食にそなえて、おいしいコブミカンチップスが作れるよう、準備しておくといいだろう。

さて、先の鳴き声を聞かせてくれたコオロギ、毎日通ってその様子を見に行こうと思った翌日、掘り出されてしまった。そこは近くの工場の従業員が見つけて食べてしまったそうだ。かなしい。

ラオスでは昆虫の観察と食欲がしばしばぶつかる。世界の未来もそうなるだろう、と予言しておこう。

 

佐伯真二郎 蟲ソムリエ・NPO法人食用昆虫科学研究会理事長

大学院で研究した昆虫学を応用して美味しい昆虫を探索、料理、オススメする蟲ソムリエ活動がライフワーク。昆虫食先進国であるラオスで子供の栄養が足りていない問題を知り、NGOの栄養支援プロジェクトに2017年から参加して長期滞在中。ラオス人に昆虫料理を教わりつつ、養殖技術を開発改良し村人に広めている。昆虫を茹でて味を記録しており日本での味見と合計して565パターン、356種に。味の昆虫図鑑を作りたい。