アリエナクナイ科学ノ教科書:第11回 フィクション? それとも実現可能? 特殊武器の可能性 前編

アニメや漫画といったフィクションには現実には存在しない武器が多く描かれます。
魔法を操るマジックワンドなどはとりあえず魔法なので置いといて、さも実現しそうで、存在しないものとしては、四方八方に広がり触れたものを切断するワイヤー、ゾンビも楽々真っ二つチェーンソウソード、細くて異常にしなやかなウェハーレイピア、自由自在に動きまわる蛇腹剣、はたまた触れるだけで相手を仕留める毒手・・・そんな摩訶不思議な兵器・・・・存在しないって?
実際のところどうなのでしょうか? 検証していきましょう。

●必殺の糸! 切断系ワイヤー

まずはフィクション武器筆頭とも思えるワイヤー武器です。
特に代表的な名前が付いていない上に、性状も物質も作品によってマチマチで、とりあえず触れれば切れる糸みたいな感じで描かれていることが多いアレです。必殺仕事人的なつるし上げてベンってやるアレもワイヤー系武器になりますが、今回は切断できるワイヤーに話を絞っておきます。

作品によっては、釣り糸のようなもの、金属製ワイヤーにダイヤモンドを定着させたものだったり、生物由来のもの、カーボンナノチューブだったり、素材も様々です。

そもそも、実際にワイヤーが人体を切断することは可能なのでしょうか?

結論から言うと実際の労災事故などでワイヤー事故による切断例はかなりあり、特にクレーンロープの破断事故で、跳ね回ったワイヤーが現場作業員を切断したといった事例はあり、また釣りなどで大型魚用の糸に絡まり、それがスクリューなどに巻き込まれた結果指などが飛んだ例、もっと身近な例では縄跳びを首にかけたままエレベーターに・・・・話がグロくなりすぎるのでやめておきましょう。

また純粋にモノを切断するために改良された切断用ワイヤーというものがあり、ワイヤーソウと呼ばれており、写真のものはそのワイヤーソウを携帯式に作者が改造したモノです。人力で手首くらいの木であれば数分でギコギコ切断可能なワイヤー状のノコギリです。

いずれにせよ人間の体をワイヤー的なもので切断するのは、羊羹を糸で切るようなものなので、物理的には可能です。
そしてワイヤーの強度(切断荷重)はこれが有機物であるナイロンやフルオロカーボンなどで見てみると、最も細い0.1号(直径0.053mm)では200g以下ですが、50号(直径1.17mm)では70kg近く、ステンレス製の編み込みワイヤーの場合直径1mmで80kg近くあり、2mmもあれば300kgを超えます。故に現代のハイテク素材であれば1本で3mm以下で十分人一人つり上げることは可能です。

でも人間が人力で人を切断する引っ張る力を出すことができないじゃん・・・というのはごもっとも。ただしこれも、ワイヤー同士をうまく絡めて滑車として機能するようにすればチェーンブロックのごとく、人力で何百キロもの重さを牽引することも可能ですから、理論的には革手袋程度の防護で自分の手先一つで相手を拘束したり切断したりすることは可能です。

ただし、それだけの複雑なアクションやワイヤー同士が干渉したところが共ズレして破断するわ、そもそも飛ばす方法がおもりで飛ばすくらいしか無いわ、ワイヤーを固定しているところの張力限界はワイヤーの強度より遙かに低いためそこから破壊が起こるなど、問題点しかないので、実際に武器として運用するのはほぼほぼ難しいといえます。

ただ未来素材として考えるとクモの糸を合成し理想的に編むことができれば鉄鋼の4倍、伸縮性はナイロンを上回り、耐熱性も300度を超えるスパイダー繊維が人工的に合成可能になっており、そうした超素材で極細のものを暗殺などに使う例は今後出てくるかもしれません。
こうしたワイヤーの境地というのであれば、現在軌道エレベーターなどにも使えるのではないかと言われているカーボンナノチューブなどです。
カーボンナノチューブは炭素原子で六角形の編み目でチューブ状に連なったもので、鋼鉄の200倍近い(カーボンナノチューブの結合の仕方などによって微妙に強度は変わるといわれている)性能が出るので、目に見えないような細さで100キロ近くに耐えうるワイヤーとなると、人力で骨は無理でも致命傷をあたえる斬撃を加えることは可能になるでしょう。

またそうした糸で編んだ布はさらに高い防刃性、防弾性、も備えるため、映画「キングスマン」や漫画「ブラックラグーン」に出てくる銃弾を受け止める傘なんてものもそのうち実現可能になるかもしれません。

●触れるモノに死を与える 毒手

つぎは武器・・・と言って良いのかわかりませんが、手自体は手ですが、そこに毒が仕込まれている。しかもその毒は使用者自体に染みこんでいるというもの。

漫画「グラップラー刃牙」では柳龍光という死刑囚が毒をまとった手、毒手を使いこなします。最近では、ビデオゲーム「ストリートファイター5」ではF.A.N.G.(ファン)という毒手使いが登場します。

この毒手の由来は、もともと多くの暗殺術に起源を持つ武道の中で、隠し持った毒針や暗器などで相手を毒殺したり、また人体の急所に一撃を食らわせることで、あたかも毒にやられたように致命傷を与えられることがアイデアの元となっているようで、それが多くのフィクション作品の中で、実際に手に毒を染みこませて、相手に送り込む・・・といったものになったようです。

絵的には面白いのですが、日常生活に困りそうですね(笑)

そもそも人間に対して毒になるものを自分に染みこませて、自分は無害で相手にだけその毒性を発揮するなんて、そもそもが無理筋な気がしますが可能なのでしょうか?

結論から言うと実は可能です。

例えば、一定の毒に対して免疫のような抵抗性を獲得することは意外なことに生物は得意で、ゴキブリに毒エサが効かないものが出てくる・・・といった話は聞いたことがあるでしょう。ピレスロイド系の殺虫剤は人間にとってはほぼ無害でも昆虫には致命的な猛毒です。そんなものを平気で食べても大丈夫なのは、昆虫という種が、常に数でDNAをシャッフルし続け、多様性を持たせることで、確率的に抵抗力のあるカブが生き残るように常に進化するという点にあります。
ちなみにこの抵抗性、耐性ゴキブリといわれますが、蓋を開けると複雑で、単純に毒エサの味自体が嫌いなだけで食べないから生き残ってるだけ、毒エサの毒自体を危険な味として認識して食べないよう味覚センサーが進化、その中でも食べても平気という超エリート耐性ゴキも存在するわけです。

ゴキブリは死んで死んで、増えて増えて、その数の暴力で人間の英知を超えてくるわけですが、単一の人間が一部の毒に抵抗力を持つことは可能なのでしょうか。

これも可能で、極端な例はカプサイシンなどで、もともと動物に食べられないように、痛み物質としてカプサイシンを植物(トウガラシ)が生み出したものですが、人間はそれを「刺激があっておいしい」と食べているわけです。
さらには、ふぐ毒や毒蛇といったものに、日頃から微量に触れていることで抵抗力を持つことが知られており、あきらかに致死量の毒を両名が食べ、片側だけが生きているということは十分にあり得ます。

また、猛毒ガスで知られる神経剤サリンの発明者でも知られる、ゲルハルト・シュラーダー(Gerhard Schrader)博士は、もともと有機リン系の殺虫剤の研究途中でタブンを発見し、そのデモンストレーション中にバタバタと見学者が倒れたことから、その毒性が陸軍の目にとまったとされています。
目の前で一番毒を被爆していたはずの博士がピンピンしており、見学者が倒れるということは、そうした神経ガスにさえ、人間はある程度「慣れ」、抵抗力を持ってしまうようです。

これを毒手実現に当てはめていくと、物理的に人間のタンパク質を溶かしてしまうような毒物は物理的に難しいですが、神経毒などのソフトウェア的な毒であれば、常日頃からの被爆によって免疫システムを構築し、他者にだけ毒性を有する毒を手の角質層に染みこませ運用するということは不可能ではなさそうです。

現代の科学ですでに実現可能そうなものとしては、フグのナトリウムチャネルの遺伝子を人間に遺伝子ドーピングすることでふぐ毒に抵抗性を持たせることは不可能ではなくなりつつあります。
フグの毒として知られるテトロドトキシンは、筋肉の興奮(収縮)に使われるナトリウムイオンの入り口であるナトリウムチャネルを微量で選択的に阻害することで、情報伝達を阻害し、その結果心臓や呼吸などの生命維持に必要な神経活動を麻痺させて命を奪う毒ですが、フグ自体はこの毒を体外から食べ物などから微量に集めており、フグには超高濃度でない限り無毒です。

これはフグの筋肉のナトリウムチャネル自体がテトロドトキシンがはまり込む構造をしていないからで、故に猛毒のはずのテトロドトキシンに抵抗性を持つわけです。この遺伝子を人間に導入する・・・なんてSFかよと思いそうですが、アメリカではそうした組み替え遺伝子の導入が民間でも扱えるレベルで簡易になっており、バイオハッカーなどと呼ばれる遺伝子組み換えをアートなどに使っている例もあるので、もはや野良の科学者が自分で猛毒抵抗性を手に入れることは不可能ではないかもしれません。

とはいえ、そんなことをするより、銃で撃った方が早いし鉄パイプで殴った方が強いので、故に毒手を会得する人はいないわけですが・・・・(笑)

そういうわけで、特殊武器解説編。次回にも続きます。

 

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

https://www.cl20.jp/portal/

タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/