チョコっと知りたいバレンタイン事情…アメリカでも浸透したバレンタインチョコと、第4のチョコ「ルビーチョコレート」

あなたは果たしてチョコレートを食べたくならずにこの記事を読めるだろうか?!

バレンタインデーを控え、街にはチョコレートがいっぱいだ。ただでさえ寒い季節にはホットチョコレートという甘い誘惑もあるというのに。

宝石のように美しいチョコレートを一目見ただけで、プレゼントしたい人も、もらえるかもしれない人も思わずテンションが上がってしまうだろう。

本稿では、海外でゴディバがバレンタインチョコ販売に力を入れるなど、日本以外でも文化として浸透しつつあるバレンタインチョコの現状やその歴史、新たに誕生した第4のチョコ「ルビーチョコ」など、2019年に抑えておきたい魅惑のチョコレート情報をお届けする。

 

「神々の食物」と呼ばれたスーパーフード

近年スーパーフードとしても注目を集めているチョコレート。特にカカオの含有量が70%以上を占めるハイカカオチョコレートは健康・美容効果が高く、日本でもハイカカオチョコレート専門店がこのところ相次いでオープンしている。

チョコレートに含まれる「カカオポリフェノール」には動脈硬化を予防し、骨粗鬆症や肌のたるみを防ぎ、毛髪の質を改善するなどのアンチエイジング効果が認められている。免疫過剰や細胞からのヒスタミン放出を抑制するため、花粉症の症状を軽くするとも。

また、「トリプトファン」は脳内のセロトニンを増やして楽しい活動を増進させ、「ギャバ」がストレス軽減の役目を果たす。

たった19種の植物しか持っていないといわれるアルカロイド「テオブロミン」もチョコレートの原材料となるカカオ豆に含まれており、精神をリラックスさせて集中力と記憶力を高める働きをするそうだ。

Credit: rawpixel / Unsplash

チョコレート原産の地・メソアメリカに栄えたマヤ文明と後のアステカ帝国の人々は、かつてカカオ豆を不老長寿の薬として飲んでいた。アステカの猛君モンテスマ2世は一日50杯もチョコレートドリンクを飲んだと言われているほどだ。

メソアメリカにスペイン軍が侵略した後に現地入りした植物学者のリカール・フォン・リンネが、今まで見たこともない不思議な姿をしたカカオの木に「Theobroma cacao」、すなわち「神々の食べ物カカオ」という学名をつけたのはよもや不思議ではない。

「飲んでいた」と書いたが、そう、もともとチョコレートはその2000年の歴史の長きに渡って食べ物ではなく飲み物だったのだ。

 

世にも不思議なカカオの木

理由は気候。カカオ豆に含まれるカカオバターは人肌よりも少し低い温度(約34度)で溶けてしまうので、熱帯地域では液状のチョコレートを飲むのが理にかなっていた。

だからこそ、チョコレートには口に入れたとたんにとろけるあの極上の食感が備わっている。

ほかにもカカオの木には不思議な特徴がたくさんある。まず、カカオは枝ではなく幹に実が直接くっついている「茎生花」の一種だ。

Credit: dghchocolatier / Pixabay

「カカオポッド」と呼ばれる実の中には甘くてさわやかな酸味の効いた果肉が詰まっている。この果肉、じつはフルーツの王様と名高いドリアンやジャックフルーツとよく似ていてとても美味しいそうだ。

Credit: Pablo Merchán Montes / Unsplash

甘い果肉の中には「カカオ豆」と呼ばれる30~40粒のアーモンド大の種子が入っている。この種子を果肉もろとも収穫して発酵・乾燥・焙煎させることで初めてチョコレートの独特の風味が得られるのだが、非常に繊細なプロセスでひとつでも狂うと味が損なわれてしまう。

たとえば発芽していない豆から作られたチョコレートにはあの独特のコクと風味が備わらないらしい。発酵の仕方や酵母の種類によっても味が変わってくる。極めつけは、カカオの木自体が非常に繊細でストレスに弱いため、北緯20度と南緯20度の間の「カカオベルト」と呼ばれる限られた地域でしか栽培できないそうだ。

 

カカオ豆生産者の顔が見える「ビーン・トゥ・バー」

Credit: dghchocolatier / Pixabay

そんな気難しい植物をなんとか手なずける知恵を培ってきたカカオ生産者たちの気苦労は計り知れない。しかし、今までチョコレートの流通は圧倒的にカカオ豆の買い手が有利なように働いてきた。

その格差を公正しようと、今アメリカを中心とした「ビーン・トゥ・バー(bean to bar)」が盛んになってきている。簡単に言えばカカオ豆からチョコレートに加工するまでのすべての製造工程をひとつの工房が行うことで、より生産者に寄り添うフェアトレードも進んできている。

さらに踏み込んで「ツリー・トゥ・バー(tree to bar)」を実施するチョコレート工房も。カカオの木を育成するところから関わり、生産者の顔が見える取り組みとなっている。

 

80年ぶりに「第4のチョコレート」誕生

Credit: Barry Callebaut Group

2017年9月に中国・上海にて鮮烈な世界デビューを果たした「ルビーチョコレート」。上の画像からもお分かりいただけるように、添加物や着色料を使っていないのに愛らしいピンク色をしたまったく新しいチョコレートだ。

日本でも発売され始めたルビーチョコレートのクーベルチュール(前方中央)。 Credit: C. Yamada

ラズベリーを思わせるフルーティーな酸味が特徴で、苦みが一切ない。イチゴ味のチョコレート(左奥)と色こそは似ているものの、すっきりとした味わいと絹のような舌触りは格別だ。

Credit: Barry Callebaut Group

チョコレートはほかに3種類しか認められておらず、これまではダーク、ミルク、そしてホワイトチョコレートのみだった。アメリカのハーシーチョコレート社が苦心の末に開発したホワイトチョコレートが認定されたのは80年前のこと。

そして今回はスイスのバリ―・カレボー社が13年もかけて天然のルビーカカオ豆から自然なピンク色と独特のフレーバーを抽出することに成功し、バレンタイン商戦の期待の星となっている。

日本では2018年9月から市場に出始めたルビーチョコレートが初めて迎えるバレンタインデー。今年の注目の的だ。

 

アメリカのバレンタインデーに異変が?

アメリカでビーン・トゥ・バーを実施するチョコレート工房はこの10年で瞬く間に増え、アメリカ人のチョコレートに対する意識を塗りかえている。

以前は大量生産され、どちらかといえばカカオ含有量もクオリティーも低めのチョコレートが人気だったのが、最近ではチョコレートを芸術の域に高めたレベルの高い商品が求められるようになってきている。

その影響はバレンタインデーにも及んでいるようだ。

Credit: Evan-Amos / Wikimedia Commons

日本のバレンタインデーはチョコレートととは切っても切れない関係だが、アメリカではそうでもない。恋人(どちらかというと男性から女性)にアクセサリーなど高価なギフトに深紅のバラと箱詰めのチョコレートを添えてプレゼントし、ロマンティックディナーに招待するのが王道で、日本のクリスマスイブにも近いものがあった。ハート型の箱に入ったチョコレートは愛の贈り物として定番だが、あってもなくてもよいし、どちらかというとジャンクフードに近いクオリティーだった。

アメリカの子どもたちは学校でバレンタインカードと一緒に「valentine grams」と呼ばれるなんとも不味いお菓子を男女関係なく交換し合う。手作りチョコを渡しながら、いざ愛の告白…!なんていう胸キュンな展開はほぼないと言っていいだろう。

ところが、アメリカでもバレンタインデーに高価なチョコレートを贈る文化が浸透してきているようだ。もともとバレンタインデーにハート型の箱に詰めたチョコレートを贈る習慣は20世紀に入って間もなくラッセル・ストーバー社が考案した。おかげでチョコレートは飛ぶように売れ、競合社も後に続いたため習慣化した。

Credit: Food Photographer | Jennifer Pallian / Unsplash

最近ではゴディバチョコレートなど、ハイエンドなチョコレートメーカーがこぞってバレンタインデーに向けて商品を開発しているようだ。「Sweets for your sweet(愛する人には甘いものを)」という慣用句のとおり、女性がいつもチョコレートを贈られる立場にいる点が日本とは異なるが。

ちなみに日本でバレンタインチョコを贈る習慣は1936年に始まったそうだ。ロシア革命後神戸に逃れてきたモロゾフ一家の長男、ワレンティン・フョードロビッチ・モロゾフ氏とその妻、オリガが「あなたのバレンタイン(愛する人)にチョコレートを贈りましょう」というキャッチコピーを考案して英字新聞に広告を掲載したのがきっかけだったとされている。しかし、その後なぜか「女性だけが贈る」と誤訳されて今に至るとか…。

アメリカでも再発見されているチョコレートの魅力。カカオ生産者を含め、チョコレートに関わるすべての人々が幸せになれる日も近いか。

 

山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。今年はルビーチョコレートで何年ぶりかの手作りチョコに挑戦! https://chitrayamada.com/