憑りついて生気を奪い取る…恐ろしくも美しい幽霊の花

「幽霊の花」を子どもの頃に見たことがある。

季節は秋。ススキ野原でかくれんぼをしていた午後、ススキの根元にしゃがみこんだ拍子にピンク色のものが視界に飛びこんできた。あたり一面ススキの褪せた茶褐色に覆われている中で、そのピンク色のものだけは異様な艶めかしさを放っていた。

顔をベールで覆った女性が横向きにうつむいている…そんな印象の花。近づいてみるとその女性の顔の部分にあたる花びらは水分の粒子を含んでキラキラと光っていた。

あまりにきれいなのでその細い茎を手折ろうとしてハッとした。花をつけた茎が地面から直接スッと伸びていて、葉がない。枝もない。これは普通の植物ではない――。なにか犯してはならない禁忌があるように感じ、その場を離れた。

Credit: Apple77226 / Wikimedia Commons

 

幽霊の花

自宅に戻って愛用の植物図鑑で調べてみると、寄生植物の「ナンバンギセル(Aeginetia indica)」だとわかった。和名はその煙管のようなかたちに由来する。どおりで葉も葉緑素も持ち合わせていないわけで、自分で光合成を行わずススキの仲間に寄生してそれらの根から糖分を盗み取って生きている。生き残るための奇策だ。

英語では「 forest ghost flower(森林に咲く幽霊の花)」などと呼ばれるそうだ。背の高い草木に埋もれてひっそりとたたずむ姿は幽霊と言い得て妙。 中国・台湾・インドシナ・マレーシア・インドで自生し 、日本では北海道から沖縄まで分布していた…はずだった。

のちに知ったことだが、ナンバンギセルはいまや日本の都道府県のレッドデータブックに記載されるほど数が減っているそうだ。宿主であるススキ自体が減少してきていることが大きな原因だろう。

Credit: C. Yamada

ナンバンギセルのほかにもヤッコウソウ、ツチトリモチなどの寄生植物がいまや絶滅の危機に瀕している。他の植物に頼って生きていく道を選んだ寄生植物たちが、いかに環境の変化に影響されやすいかを物語っている。

 

新しい植物ホルモンの発見

美しいだけで人には何の役にも立たなそうなナンバンギセルだが、じつはここ最近になって貴重な発見が相次いだ。

筑波実験植物園のウェブサイトによれば、ナンバンギセルの発芽習性の研究から「ストリゴラクトン」という全く新しい植物ホルモンが発見されたそうだ。ナンバンギセルを含む根寄生雑草の種子の発芽を誘導するほか、広く植物の枝分かれを抑える働きを持っていることがわかった。

2012年にはDWARF14(D14)というストリゴラクトンの受容体タンパク質が明らかになり、さらに2013年には東京大学の浅見教授率いる研究チームが世界に先駆けてD14がストリゴラクトンを受容・認識するメカニズムを解明した。

東京大学のプレスリリースによれば、ストリゴラクトンの働きを利用すれば、将来イネなどの作物の枝分かれを制御することで収穫量やバイオマスを増加できるかもしれないそうだ。また、地中海沿岸やアフリカ大陸を中心に世界の多くの地域において作物に甚大な被害を及ぼしているストライガと呼ばれる根寄生雑草の防除法の確立につながる可能性もある。ナンバンギセルの秘密が未来の農業のかたちを変えつつある。

 

5億年分の知恵

地球上に陸生植物が現れて5憶年が経つといわれている。現生人類が誕生してからおよそ50万年しか経っていないのを考えれば、とてつもなく長いあいだ植物は自分たちの命をつないできたことになる。

よりよい環境を求めて移動できる動物と違って、植物は与えられた環境に適応するしかサバイバルする術はない。地球上のあらゆる植物は、5億年をかけて巧妙に生き延びる術を確立してきたからこそ生きながらえている。サバイバルの大先輩ともいえる植物たちに人間が学ぶことはまだまだたくさんありそうだ。

 

Credit: Nadiatalent / Wikimedia Commons, CC3.0

 

山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。小さい頃は自称「植物はかせ」だった。 https://chitrayamada.com/