「バカンス」の起源は古代ローマにあり…休暇の上手な使い方

とにかく働かないというイメージが定着している南欧の国々。

しかし、もともとバカンスの起源は古代ローマ時代にあった。当時の社会は、現代よりもよほど機能していることが多かったのだから、バカンスの使い方が古代ローマ人はうまかったのであろう。

長期の休暇を、古代ローマ人は能動的に過ごした記録が数多く残る。実際には、どんなバカンスを過ごしていたのであろうか。

仕事と休暇の境界がはっきりしていた古代ローマ

古代ローマ人は、仕事(negotium)と休暇(otium)の境界にはっきり線を引く民族であった。休暇ともなると、町の喧騒から離れて山や海の別荘で気ままに過ごす時間を大切にしていたのである。現代も、イタリアでは「別荘」と呼ぶのがはばかられるようなささやかなセカンドハウスを海や山に持っている人が多いのは、この名残なのである。

古代ローマ時代の富裕層やエリートたちは、休暇中にはよく旅行もしている。近いところでは、現代のナポリに近いヴェスビオ火山近郊、遠方ともなるとオリエントまで足を延ばし、歴史的建造物を見学した。

しかし、バカンスといえばこれだろう。古代ローマから現代のイタリア人に綿々と伝えられるもの、それが海への愛だ。風光明媚な海の町には、古代ローマ時代の貴族の別荘の遺跡が往時の面影を伝えてくれるのである。

新しいものを知りたいという強い欲求

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法を重んじた古代ローマ人は、職務にあるときはおそらくその遂行に全霊を傾けたのだろう。その反動か、特にエリート層は休暇ともなると旅行に精を出したようだ。3世紀に書かれた『レウキッペとクリトフォン』などの冒険物語は、現代のレバノンにあった都市テュロスやトルコのエフェソスが舞台になっている。1世紀の博物学者プリニウスも、エジプトやギリシア、小アジアが同胞に人気だと書き残している。

普段とは異なる習慣を持つ人々や町、自然に対して、ローマ人は好奇心が強かった。マドリッド大学歴史学部教授のホルヘ・ガルシア・サンチェスによれば、古代ローマの人々は特に「川」を神格化するのが好きで、休暇にはチグリス川やナイル川などの大河を訪れるのが人気コースであった。

ローマ皇帝たちも愛した「ギリシア」とその文化

共和政時代には、ギリシア文化愛好者は軟弱ものとされたようだが、それでもギリシアを愛したローマ人は枚挙にいとまがない。

ギリシア神話やホメロスの叙事詩に登場する地名も人気であったが、特にローマのエリート層がこぞって訪れたのがトロイアである。「トロイの木馬」で有名なトロイアは、伝説ではローマ建国の祖といわれているアエネイスゆかりの地である。そのため、ユリウス・カエサルをはじめ、ハドリアヌス、カラカッラ、ディオクレティアヌス、コンスタンティヌスもトロイアを訪れている。こうした風潮は、軍役で属州に駐在するローマ兵にも及んだ。

古代ローマ人の一番人気は「エジプト」!

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古代ローマ人の旅行先として一番人気を誇ったのは、なんといってもエジプトであった。ローマ人からすると異色な宗教儀式や絵文字は、この上もない魅力であったようだ。また、古代ギリシアの大哲学者プラトンがエジプトを遍歴したことから、彼に倣ってローマ時代の哲学者のあいだでも「エジプト詣で」が流行している。

ギザのピラミッドや王家の谷を訪れるのは、現代の旅行者と変わりがない。古代ローマ人たちはその見学先に、自分の名前や訪れた日、ちょっとした詩を壁に刻んでいたというのだからこのあたりも現代人と同じである。

余談ながら、五賢帝の一人ハドリアヌスはエジプトの地で最愛の寵童アンティノーを水難事故で失っている。アンティノーは死後、ハドリアヌス帝によって神格化されたためにファラオ姿の彫刻まで残る。

歌って踊って泳いで食べる!ナポリ湾でのバカンス

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ポンペイの遺跡は世界中でよく知られているが、ナポリ湾周辺には広大な規模の古代ローマの貴族たちの邸宅跡でも有名である。首都ローマからそれほど遠くないナポリ湾岸は別荘地として人気が高く、紀元前1世紀ごろから富裕層対象に不動産を売りさばく強者の企業家も存在した。また、雄弁家のキケロはその著作の中で、ナポリ湾での休暇について「歌って踊ってのどんちゃん騒ぎの後は、小舟で周遊する」と楽しげに記述している。

世界遺産にも認定されているエルコラーノには、ユリウス・カエサルの舅が所有していたといわれる「パピルス荘」は、広大な庭園にとどまらず図書館まで完備していたことが分かっている。その他、ローマ人が愛した劇場、色鮮やかなフレスコ画、ギリシア文化から影響を受けた彫刻、これらがローマ人たちのバカンスを彩っていたのである。

肉体にも精神にも休息を与え、英気を養う。これが、古代のエリートたちのバカンスであった。時間に追われ、文明の機器に囲まれた2000年後に生きる我々には、到底まねのできない贅沢なのかもしれない。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007