自然の「音」が知らせる世界のかたち…動植物に大きな影響を与える環境音

野鳥たちの「夜明けのコーラス」を聴いたことはあるだろうか。

動物社会学・行動生態学が専門の石塚徹氏によれば、正しくは「夜明け前のコーラス」。日の出時刻の40分ほど前から鳥たちが歌い始め、やがては山や草原を包み込む壮大なシンフォニーへと展開するそうだ(『歌う鳥のキモチ』より)。

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小鳥のさえずり、森のざわめき。自然の音に耳を傾けると、ときに視覚よりも多彩な情報を得ることができる。視界に入っていないものの存在が明らかになり、遠くの様子を知ることができたり危険を未然に察知できたりする。

音を使って情報収集しているのは人間や動物だけではないと考えているのはアリゾナ州立大学のペイン准教授(Garth Paine)だ。植物も特定の周波数を使って水源を探ったり仲間に危険を知らせたりしているそうだ。

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ペイン准教授は音を使って環境への意識を高める活動をしている。

夜明けか夕暮れ時に録音機材を設置してから、地面に寝転んで何時間でも自然の音に聞き入る。すると夜明け前と後とで空気の密度が変わったり、その動物たちの行動パターンに変化が生じたり、それらすべてのことが密接に関わり合っている様子を感じられるそうだ。

そんな長年のフィールドワークを通して、環境劣化を音で聞き分けることを学んだという。

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水、大気、大地、そして生きるものすべては絶えず振動している。人はつい視覚にばかり頼りがちだが、この自然の振動に耳を傾けることで環境をより深く知ることができる。

冷たい空気のように高密度の環境では、音は遠くまで伝わる。秋に落葉すると音の反響が変わる。このような音の特徴を定量化していくと、あらかた環境の劣化の度合いを音で知ることができるという。

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植生に乏しい都市環境では音を吸収する葉や幹が少ないため反響がひどい。まるでがらんどうの洞窟の奥で会話をしているがごとく、音が硬い壁や床に反響するたびにノイズが増えて会話が難しくなってしまう。

このような環境では小鳥たちの愛のさえずりも意中の相手に届かないし、肉食動物は獲物を察知できなくなる。音の環境の悪化は動植物のサバイバルに直接影響してくるのだ。

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人間もノイズに囲まれていると血圧と心拍数が上がって体に負担を感じるという。音という新しい観点から都市計画や環境保護をかんがえるペイン准教授の研究が目指すところは、野生の動植物にも人間にもやさしい環境づくりだ。

試しにちょっと立ち止まって、意識を集中しながら周りの音を聴いてみよう。音の種類の多さ、音質の豊かさにびっくりするかもしれない。このような「アクティブリスニング」を通じて、私たちひとりひとりがより密接に環境と繋がることができる。

 

山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。一度熱海で水平線から昇る太陽を眺めつつ聴いた鳥たちのコーラスが忘れられない。 https://chitrayamada.com/