杵つきもちの美味しさに隠された科学的秘密

日本のお正月に欠かせない餅。

スーパーで手に入れる餅より、手作りのお餅の方が美味しく食べ応えがあると感じたことはないだろうか?

なんと、その理由は科学的に調べられていたのだ。

 

餅の味覚が異なる科学的理由

餅は、もち米・水・塩のシンプルな3種類の素材からつくられる。

餅を作る機械は、古典的な杵と臼のようにつくスタンプ式とパン製造機械のように羽がまわるミキサー式の2種類に大別される。

餅の物理学的性質を調べた研究によると、実は見た目が同じ餅であっても、ミキサー式とスタンプ式では餅の微細な構造が異なり、その構造の違いが食感や加熱した際の形状差につながっているというのだ。

 

顕微鏡による餅の微小構造の観察

研究者らはスタンプ式で作られた餅とミキサー式で作られた餅を、通常の顕微鏡及び電子顕微鏡(DNA等nmサイズの細かな物質まで見ることのできる顕微鏡)を用いて観察した。

すると、スタンプ式の餅はミキサー式の餅と比較し、もち米の粒が残っており、また残っている粒のサイズも大小まばらであることが明らかとなった。

一方、ミキサー式の餅は粒がほとんど残っておらず、残っている粒も小さく、ペースト状の割合が大きいことがわかった。さらに、ミキサー式では多くの気泡が含まれていたという。

 

構造による味覚への影響

では実際にスタンプ式とミキサー式の餅ではどのような違いが生じるのか?

・硬くなるまでの時間の違い

スタンプ式とミキサー式の餅を比較すると、常温ではミキサー式の餅の方が早く硬くなるという。

実際に、活性化エネルギーという物質の状態が変化する際に必要なエネルギーを求めたところ、ミキサー式の餅の方が、硬い状態から柔らかくなる状態に必要な活性化エネルギーが大きかったそうだ。

これは、ミキサー式の餅の方がより硬いため、柔らかくなる際に必要な最初のエネルギーが大きいためであると推測されている。

・お鍋でのとろけ易さの違い

スタンプ式とミキサー式の餅を比較すると、ミキサー式の餅の方が加熱した際にとろけ形状が維持されにくいという。

これは餅の構造が、粒が残る形状であるかペースト状かの違いによると推測されている。

では何度以上で餅の形状はなくなりやすくなるのだろうか?

永島らの研究によると、餅は60℃以上で柔らかくなり、この温度が続くと形状を維持することが難しくなってくるという。

沸騰直前の鍋の湯温は90℃近いと思われることから、熱々の鍋にミキサー式の餅を入れると表面から溶け出し、中心が柔らかくなることには溶けてしまう。

研究結果を踏まえると、鍋に餅を入れる際には餅を常温にし、沸騰直前ではなく70℃程度の鍋になるべく短時間入れることが形状維持には良いと思われる。

Credit : Creative Commons

 

餅の味覚はその微細な構造に影響されることが分かった。

杵つき餅が美味しいのは、餅の構造だけでなく、手作りという背景があるからではないだろうか。

お餅に込められた手間暇と思いを感じつつ、正月の余韻を味わいたいものである。

池田あやか

*Discovery認定コントリビューター

大学では薬学を専攻。科学の面白さを伝えようと、見て楽しい・触って楽しい科学イベントやサイエンスライターをしている。最近のお気に入りはモルフォ蝶の羽の構造色を利用したピアス。