猫にマタタビ、人にマリファナ?
ネコにマタタビを与えることは倫理的によくないことなのだろうか。

マタタビの酩酊効果
ネコ科の動物はいくつかの植物に強く反応することで知られている。そのもっとも顕著な例がマタタビ(Actinidia polygama)。原因はマタタビに含まれる「マタタビラクトン」と総称される発揮性の臭気物質だ。マタタビミバエという寄生虫がマタタビの実に産卵することで形成される虫こぶの実に特に多く含まれる。
固体差はあるものの、マタタビの匂いを嗅いだり舐めたりしたネコはそのほとんどが恍惚となる。足もとがおぼつかなくなって「マタタビダンス」を踊ったり、ゴロリと床に寝転んで背中をしきりにこすったり、体をくねらせたり、よだれを垂らしたり、しきりに甘ったるい声で鳴いてみたり、時にはケンカっ早くなったり…、というような酩酊状態が長くて15分ほど続く。

西洋版マタタビ「キャットニップ」
マタタビ以外にもネコ科の動物に恍惚感を与える植物としてイヌハッカ(Nepeta cataria)がある。英語ではキャットニップ、キャットミントなどとして知られ、マタタビに似てネコの気分を著しく変化させる。その効果を狙って、アメリカでは多くのネコ用オモチャの中には粉末状に乾燥させたイヌハッカが仕込まれているそうだ。

精油やスプレータイプのものなど、より凝縮されて効果が強いものも市販されているが、気になるのは中毒性や副作用だ。
マタタビやイヌハッカがネコに与える影響があまりにも強くあたかもドラッグのようなので、しばしば中毒に陥る・猫の中枢神経を麻痺させるなどとまことしやかに噂されてはいるものの、化学的な根拠は今のところ見つかっていないようだ。
動物倫理学の観点
しかし、たとえネコの体や精神に害はないとしても、ペットにマタタビやイヌハッカを与えてふらつく姿を笑ったり動画を撮影して楽しむのは倫理的にいかがなものか?
こう問題提起しているのは動物メディア学が専門である米オレゴン大学のマースキン教授(Debra Merskin)だ。
唯識者の見解は分かれているようだ。一方で動物にも人間とおなじ倫理的配慮をするべきだと主張する学者もいれば、他方で動物は人間のような合理性、自主性や思考を持ち合わせていないため配慮の必要はないと断言する学者もいるという。
動物や動物のイメージを扱うメディアを研究しているマースキン教授にとって、ネコにマタタビを与えるという行為は単にいいか悪いかの二面性を問うだけでなく、人間の権力について改めて考えさせられる事例なのだそうだ。

ネコやイヌなどの動物は広告・テレビ・映画など幅広い媒体に登場しているが、人間性を象徴するマスコットとして扱われているに過ぎないとマースキン教授は指摘している。たとえば、オオカミは人間を襲い害を与える動物として一方的に捉えられがちで、動物としての主体性は無視されていることが多い。
同じことがネコとマタタビにも言えるのではないだろうか。大事なのはペットに対する行動すべてに責任をもつこと、そしてペットには家族同様の倫理的配慮を与えてあげること――とマースキン教授は結んでいる。たとえ、ネコがマタタビに酔っぱらって楽しそうしているように見えても。
山田 ちとら
*Discovery認定コントリビューター
日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。どっちかというと犬派。 https://chitrayamada.com/