骨董と人の欲望の歴史…なぜミケランジェロまでもが贋作制作に手を出したのか

「骨董」とは、不思議な魔力を持つようだ。

それを欲する人にとっては万金積んでも入手したいものだが、興味がない人にとっては過去の遺物にすぎない。骨董の真偽をめぐるエピソードは、日本でもよく話題になる。

骨董の売買の歴史を見ると、それに携わっていた人は自身も芸術家であるというケースが多かった。過去の美術への「愛」と、世俗的な「金銭欲」を、矛盾することなく有していた人たちである。そして彼らは時に、略奪や偽物づくりにも躊躇しなかったという。

覇者ローマ人の屈折したギリシア文化への思い

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考古学者のラヌッチョ・ビアンキ・バンディネッリは、ローマ人のギリシア文化への思いをこう語っている。

「共和制ローマでは、ギリシア文化の美を認めることをためらう風潮があった。質実剛健をモットーとしていたローマ人にとっては、ギリシア文化は堕落の象徴のように扱われていた。ところが、支配下に置いたギリシアの文化を、当時のローマの職人たちは模倣さえもできなかった。物理的に支配下に置いたギリシアの精神的優位性に、ローマの人々は忸怩たる思いを抱いていたはずだ」。

しかし、ローマ人の中にも美に敏感な人は少なくなかった。ギリシアの芸術品を購入し、邸宅内に飾るようになったのはローマ人である。こうして、芸術品のコレクターが生まれ、それを商売にする人たちも登場したのである。

 

ミケランジェロも一役買った「偽物」制作

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ルネサンスとは古代の文化の復興を指す現象である。この時代、古代ギリシアやローマ時代の芸術品は、欧州の王侯貴族によって買いあさられることになる。

かのミケランジェロも、キャリアの初期にはメディチ家の一員と組んで古代彫刻の偽物を作ったという記録がある。ミケランジェロが制作した『キューピッド像』を、狡知に長けたそして金欠のメディチ家の貴族が、土中に埋めて古色をつけたのだ。しかし、これを購入したローマ法王の親族は、このからくりを見抜いてしまう。見抜きながらも、ミケランジェロの作品の見事さに感嘆しさらに『バッカス』の注文をしたというのだから、天才のエピソードは愉しい。

 

自らも芸術家であるインテリが始祖「骨董商」

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いわゆる「アンティーク」の売買の始祖と言われているのが、自身も建築家、金細工師、文学者、貨幣学に造詣が深かったといわれるヤコポ・ストラーダというイタリア人である。16世紀初頭に生まれた彼は、古代の美術品の目利きとして有名であり、自ら選択し評価を下し売る相手を見極めるという独特の勘に恵まれていた。また、骨董を扱うためには商才だけでは十分ではなく、教養もなくてはならないという骨董商のハシリでもあった。ストラーダは、バイエルン王相手に骨董を売りさばき大もうけをしている。ティツィアーノが描いたヤコポ・ストラーダの肖像はだから、古代の彫刻を手にして毛皮やアクセサリーをジャラジャラと身につけた噴飯ものの姿で描かれている。

当時、ヨーロッパの王や貴族たちは古代の遺物をあさるように購入していたから、偽物をつかまされないためにもこうした人物の登場は必須であったのかもしれない。

また、古代の芸術品のコレクションを狙って、王や肯定はスパイさえも各地に派遣している。独身の元スウェーデン女王クリスティナのコレクションを狙っていたスペイン王フェリペ五世も、外交官にコレクションの行方を探らせている。

その他、画家、彫刻家、修復家など、芸術に携わる職業の人々も、副業として王侯貴族の骨董の売買に携わっていた例は非常に多い。仲介をしているうちに、本人もその魅力に魅入られてコレクターになってしまうというのが常ではあったが。

 

18世紀には英国で骨董の収集が大流行

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17世紀から18世紀、裕福なイタリア人たちがヨーロッパを旅行する「グランド・ツアー」が大流行をする。滞在地として大人気であったイタリアでは、こうした英国人が古代の美術品を買いあさるようになった。イタリアのローマでは、同胞相手にツアーガイドを兼ねて骨董を売る英国人の姿であふれるようになった。

数に限りがある古美術は、需要の増加に伴って当然価格が上昇する。そこに目をつけた詐欺や贋作が、市場を荒らすようになった。18世紀のロココの画家ジャン・シメオン・シャルダンは、サルの姿をした骨董商の姿を描きその職業の人々を批判したのである。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007