バイオテクノロジーで蚊を絶滅させる?安全と倫理の狭間で揺れる感染症予防の最前線

温暖な冬から一転冷え込む日が続く。それでも例年と比較し、気温は高く雪は少なく、温暖化の影響を感じさせられる。

自然災害だけでなく、懸念されるのが生態系の変化や感染症の流行である。

2016年にアフリカ地域を中心に大流行したジカ熱、国内でも流行したテング熱等のウイルスやマラリアの原因であるマラリア原虫は、我々の生活にもっと身近な害虫である蚊によって、人々に広がっていく。

温暖化による生息地域の拡大だけでなく、近年の蚊は、殺虫剤に対する抵抗性を獲得しており、さらなる蚊による感染症の世界的拡散が懸念されている。

対応可能な手段はないのだろうか?

注目されているのがバイオテクノロジーの活用だ。

現在、世界では感染症を媒介する蚊の遺伝子に注目した研究が盛んに行われている。

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遺伝子操作による蚊の子孫撲滅

通常、蚊の遺伝子は50%程の確率で遺伝していく。

即ち、通常の遺伝子変異では50%の確率で子孫に引き継がれない可能性がある。

それを打破するのが遺伝子を高頻度で子孫に引き継ぐことができる遺伝子ドライブという技術である。

この遺伝子ドライブという仕組みを用いて、メスの繁殖力を低下した蚊を通常の蚊の群に放つことで、蚊の群れの繁殖力を低下させ、感染症を制御する取り組みは、既に2016年や2017年にも報告されている。

しかしながら、過去の研究では、遺伝子の変異が世代を越える毎に引き継がれなくなるため、野外での蚊の駆除には無効とされてきた。

今回、Andreaらはマラリアを運ぶガンビアハマダラカの性別を決める遺伝子をターゲットとし、改良された遺伝子ドライブを作成した。

この特殊な遺伝子ドライブは、遺伝子が引き継がれなくなるという致命的な課題をクリアし、素早く蚊の群に広まるだけではなく、世代を超えて変異が引き継がれて、変異によるメスの繁殖力の低下を引き起こし続けることが示された。

これにより、野外での蚊の撲滅に有用であることが期待されている。

しかしながら、遺伝子ドライブには倫理的課題も残されている。

半永久的に人工的に作成された遺伝子が、自然界で引き起こす生態系への影響は計り知れない。

また、遺伝子操作自体への正当性を問う声もある。

では遺伝子操作以外に、蚊を撲滅させる手段はないのだろうか?

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遺伝子解析による新たな有用な薬剤の開発、対策への期待        

遺伝子を改変するのではなく、蚊の遺伝子を厳密に解析し、蚊の生態系を暴くことで、新たな予防策を考えようとする取り組みもなされている。

通常の殺虫剤は、人間を含め蚊以外にも悪影響を及ぼす可能性がある。

そのため蚊の遺伝子を解明し、蚊に特異的に作用する殺虫剤を作り出すことが望まれる。

また、近年殺虫剤に抵抗性を持つ蚊が誕生しており、殺虫剤が効かないメカニズムを遺伝子レベルで解明することで、抵抗性を回避する手法を探索することができる。

今回ターゲットとなったのはネッタイシマカである。ネッタイシマカのメスは、毎年4億人以上の人に、デング、黄熱、ジカ等の危険なウイルス病原体を感染させているという。

遺伝情報の探索は、DNA断片の情報を集め、パズルピースの様にDNAを正確につなぎ合わせるという手段を用いて実施されている。

ネッタイシマカの遺伝情報は非常に長く、従来の技術では解析が困難であり、どこに殺虫剤が効いているのか、なぜ効かなくなるのか、といったメカニズムを遺伝子レベルで検証することは困難であった。

そのジレンマを打破し作成されたのが、Matthewsらによって作成された今回のネッタイシマカの遺伝情報である。

この遺伝情報により、蚊が人や産卵場所を探す際に情報を感知する仕組みや、殺虫剤抵抗性に関わる遺伝子、性別を決める遺伝子周囲の情報の詳細が明らかとなった。

またこの情報は、Webで公開(go.nature.com/2dc6kxp) されており、多施設での研究が可能である。

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日々進化するバイオテクノロジーの世界。

命を脅かす疾患を媒介するこの生物の防除促進が期待される。

池田あやか

*Discovery認定コントリビューター

大学では薬学を専攻。科学の面白さを伝えようと、見て楽しい・触って楽しい科学イベントやサイエンスライターをしている。最近のお気に入りはモルフォ蝶の羽の構造色を利用したピアス。