恐竜の時代から生き延びてきたイチョウ、今は絶滅危惧種に!知ってそうで知らなかったイチョウの話

整然と立ちならぶイチョウ並木から黄金色の葉がはらはらと舞う季節。すっかり日本の風景に溶け込んでいるイチョウだが、じつは「野生絶滅危惧種」であることをご存知だろうか。

中国を原産地とし、いまや広くアジア・ヨーロッパ・北アメリカに分布しているイチョウ(Ginkgo biloba)だが、ほとんどは人の手によって植えられ育てられている栽培種だ。

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野生のイチョウは中国・浙江省にある天目山、そして中国・重慶市南川区内にある大婁(ダーロウ)山脈北部でわずかに確認されているのみ。国際自然保護連合(IUCN)レッド・リストには近い将来絶滅の危険性が高い〈絶滅危惧IB類〉に分類されている。

絶滅危惧種にはどことなく弱々しいイメージがつきまとうが、イチョウに関してはまったく当てはまらない。むしろ寿命は数千年にも及び、疫痢・火災や公害にも強く、現在地球上で生き続ける最古の木なのだ。

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生きた化石

イチョウは原始的な裸子植物で、葉のかたちも受精のしくみも独特だ。全盛期は中生代と言われ、特に熱帯の気候が安定していたジュラ紀に栄えたと考えられる。

その姿は今に至るまであまり変わっていないため「生きた化石」とも呼ばれる。かつてイチョウの葉や実はディプロドクスやアパトサウルスなどの草食恐竜にとって大事な食糧だったのかもしれない。

白亜紀末、およそ6,600万年前に恐竜たちを絶滅させた隕石・火山・冷却化のトリプルパンチにも、イチョウは耐えぬいた。その後中国で細々と生き延びていた木々の子孫を人間が栽培しはじめ、やがては朝鮮半島や日本にも広まった。

1712年にはドイツ人植物学者のエンゲルベルト・ケンペルが日本のイチョウについての研究を発表し、やがて日本からヨーロッパに一本の苗木が寄せられた。初めはオランダのユトレヒト市内にある植物園に植えられ、増殖された木がいまやヨーロッパ各地に広まって美しい並木道をつくっている。

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タフなサバイバー

なぜイチョウの木はとかく街路樹として重宝されるのか。それはひとえに公害に強いからだ。自動車の排気ガスなどにもへこたれないタフな生命力の持ち主であるほか、火にも強いため防火の役目も果たしている。

広島には原爆に耐え抜いた樹齢350年のイチョウが今も安楽寺の境内にどっしりと根を張っている。

生命力が強いので増やしやすいのも魅力だ。イチョウは挿し木でも増殖可能だし、種の発芽率も高い。スーパーで売られている食用の銀杏(殻付き、生)のものでも工夫すれば家庭で栽培できる。

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神に近い存在

樹齢千年を超えるイチョウの巨木も存在する。日本一と言われる青森県北金ヶ沢のイチョウの木は高さ31メートル、幹周約22メートルもあり、国の天然記念物に指定されている。

その長寿ゆえ、イチョウの葉や実は中国では古くから寿命が延びたり老化を遅らせる漢方薬として重宝されてきた。日本ではイチョウの木が神社の境内を守る木として多く栽培されているが、きっとその姿に神々しさが宿っているからこそだろう。

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ニオイ問題

ところで、現代においてイチョウの存続に影を落としかねない問題が広まってきている。あのニオイだ。

誰もが知っている、あの独特の……正直あまり上品ではないニオイ。イチョウが街路樹として植えられている市街地や住宅街では、悪臭に辟易した住民からイチョウの木を切り倒してほしいとの苦情が各地で相次いでいるようだ。

実がならない木だけ植えれば問題はないのだが、イチョウの木には雄株と雌株があり、芽生えの時に見分ける科学的な方法はいまだ確率されていない。

かつては秋になると公園や駅前の広場を訪れ、ビニール袋いっぱいにギンナンの実を拾っていく人々の姿があったのだが…。ニオイのする肉質の部分を取ってしまえば、中身は美味しくて栄養満点のギンナンが詰まっている。落ちた実を宝と思うかゴミと思うか、それは見る人次第だ。

ちなみに肉質部分には素手で触れるとかぶれるので注意が必要。またいくら美味しいからといってギンナンの実を食べ過ぎてしまうと中毒症状を起こしかねないので、ほどほどに。

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山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。銀杏の実の殻を割るにはペンチがベスト。 https://chitrayamada.com/