恋に身を焦がす男にはトカゲを、魔除けにはサソリを…ヨーロッパに伝わる動物の縁起

 

「サソリ」や「トカゲ」と聞いて、「素敵!」と思う人は少ないのではないだろうか。個人の嗜好でこうした動物が好きな人も多いだろうが、一般的なイメージはネガティヴなほうに属すであろう。

日本では、「縁起が良い」さまざまな動物が着物の柄になったり置物になったりする。これはヨーロッパも同様である。なぜこの動物が?と思うものが、意外にも人々に愛されていた歴史があることが珍しくない。

「サソリ」と「トカゲ」にも、時代によってさまざまなとらえ方があった。しかし、「論理学」のシンボルであったという不思議な共通点があるのである。

 

「悪」の象徴、サソリ

Credit : Wikimedia Commons

とはいえ、毒があるサソリは悪者のマークとして登場するほうがメジャーである。最もよく知られているのは、キリスト教絵画の中で十字架に架けられるイエスの周りにいるローマ兵を表す「サソリ」だ。イエスはローマ帝国への反逆罪で処刑されたのだから、キリスト教者にとってはローマ兵は「悪」そのものだ。また、荒野で修業をする聖人たちを誘惑するシーンでも、サソリが誘惑者代表として登場する。

サソリを見た鑑賞者は、すぐに「悪」と結びつけることができたのだから、サソリが持つ毒の効能は大きかったのだろう。

古代ローマ時代の博物学者プリニウスは、「サソリの毒に刺されたら、ワインにサソリを焼いた灰を混ぜて飲むと解毒作用がある」と書いている。「毒を以て毒を制す」を地で行っている。

また、ラファエロが書いた女性の肖像画に、サソリの形の宝飾品を身につけている作品がある。これは、厄除けの一種ではというのが定説になっている。とはいえ、サソリの宝飾品を身につけている女性は、独特の雰囲気を醸し出していることはまちがいない。

 

「愛の歓び」を知らないトカゲ?

Credit : Wikimedia Commons

いっぽう、「トカゲ」はヨーロッパではときとして「サラマンダー」という空想上の動物と同一視されることが多い。サラマンダーは、あのぬめぬめとした表皮が冷たさを想起させるのか、炎の中で生きる動物とされてきた。地獄の炎にも負けないほど強く冷たい、というのがウリである。また、愛の歓びとは最も遠い存在とされてきたという特異性があった。

実はヨーロッパの王侯貴族には「トカゲ」ファンが多く、フランス王やイタリア貴族が個人的な紋章にトカゲを使用している。

ある貴族は、正妻ではない女性への恋に身を焼き、「彼(トカゲ)にかけているもの(愛)が、私を苦しめる」というモットーとともに、個人の紋章にトカゲを用いた。恋に身を焦がしていた公爵は、火中でも生きることができるトカゲに憧れたのだろうか。この貴族が建てた瀟洒な「テ宮殿(Palazzo Te)」には、館内のあちらこちらにトカゲの姿が描かれている。上部の絵はその一つ、トカゲと化した公爵が、恋する女性とともに描かれている。

静物画においては、トカゲは「蠅」などともに「悪」のシンボルとして描かれることがある一方、聖人たちの足元にぽつんと描かれていたりする。この愛嬌が、貴紳たちにも愛された理由かもしれない。

 

論理学には「詭弁」も必須!

Credit : Wikimedia Commons

宗教画の中では悪役を担うことが多かったサソリやトカゲは、なぜか「自由七科」のアレゴリーとなると、優美な女性が手にしていることが多いから不思議である。自由七科とは、日本ではリベラルアーツという名のほうが知られている。ヨーロッパの学問の基礎となったリベラルアーツの中でも、特に重要とされているのが「文法学」「修辞学」そして「論理学」の3科であった。

論理とは、正論ばかり論じていても相手に伝わりにくい。時には、「毒」を利用した「詭弁」が技術として必要だからというのが理由である。一種の「ずる賢さ」を表すために、サソリやトカゲ、そして蛇も「論理学」のアレゴリーとして描かれるのである。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007