アリエナクナイ科学ノ教科書:第9回 宿主をゾンビ化!?フィクションのための分かる寄生生物学

数多くのゾンビを主題にした作品は数ありますが、昔は呪術によるゾンビも、現代は、何らかの感染症によって、ゾンビと化している・・・というスタイルが、ゲーム「バイオハザード(英語タイトル:RESIDENT EVIL)」以降、すごく増えました。最初はウイルスが原因でゾンビ化していると思いきや、真菌(カビやキノコ)、節足動物までいろいろな寄生虫が原因でゾンビ化してるみたいな設定がいろいろ増えました。

しかしそうした作品からザックリと表面だけ設定を同じにしても、寄生虫や感染症を知らずに使うのと、知ってて使うのでは大きく「説得力」が異なります。当然深く説明すると本1冊になってしまうのですが、そこに至るまでのザックリとした知識をまずは付けておきましょう!

●寄生虫の種類

細菌やウイルスといったものも広義の意味では生き物に寄生し増殖するという意味では寄生性の生き物です。ただ、ウイルスはそもそも自己複製できないプログラムなので生物と物質の間の存在ですし、細菌も寄生というより小さすぎて感染というイメージが強いでしょう。

疫学的にはいずれも病原体の寄生と考え、病原体自体を大きく2つのグループにわけています。

・病原性微生物
ウイルス、細菌、リケッチア、スピロヘータ、真菌類

いわゆる小さいモノが大半で、感染症と呼ぶ。

・寄生虫
原虫、吸虫、条虫、線虫 等

原虫以外はでかいモノが多いのが特徴で、サナダムシやメジナムシなど人間の体内で堂々と何メートルにも成長するものまで派手なものが多いです。

原虫というのは、人間にも住むことができる自然界にもいる微生物のイメージで、代表的なのがネグレリア・フォーリー(Naegleria fowleri)という暖かい地方のため池などに普通にいるアメーバで、普段は細菌などを食べて暮らしている・・・が、これが人間の鼻粘膜などから入り込むと脳に入り込み、脳と餌の細菌の区別もつかないため、食べ放題増殖し放題となり、また細胞の作りが我々人間と同じ真核生物なので、このアメーバだけに際だって効く薬というものが乏しく、極めて副作用の重大な危険な治療を行わないといけない。
それ以外にもリューシマニアやマラリア、シャーガス病の原因のトリパノソーマなんかの基本的に治療が難しく、やっかいな病気に多い。こいつらも小さいけど寄生虫扱いなので、なんとか原虫寄生虫症と呼ぶことが多い。

この辺も面白い話はいっぱいあるのだが、とりあえず派手な寄生虫というイメージの生き物について話を絞っていきたいので割愛します。

●派手な寄生虫

さて、派手な寄生生物というと、まずは吸虫、条虫、といったウネウネ系の寄生生物で、人間や動物の体内に侵入すると、臓器の中で成長してわりと目視可能なサイズ、それどころか卒倒しそうなサイズにまで成長するモノもけっこういます。

吸虫は肺や肝臓の中で大きなモノだと500円玉くらいのサイズに成長してあれこれ悪さをします

この吸虫の中でもとびきり凶悪なものがかつて日本におり、日本住血吸虫という名前で知られています。その名前の通り血液中の中に住む極小の吸虫で、セルカリアという幼体の状態(約0.3mm)のときに泥の中に潜んでおり皮膚を食い破って体内に入ってくるというとんでもない寄生虫で日本の限られたエリアだけで見られる風土病だった。
この寄生虫が人間に寄生できる形態になるためにミヤイリガイという貝に一端寄生し、そこで人間や哺乳類に寄生できる体制を整える生態を発見した学者によって、ミヤイリガイ一掃作戦が行われ、撲滅に成功した寄生虫症で、この発見のドラマが日本のwikiの中でも屈指のドラマチックな読み物として知られている。
気になる人は「日本住血吸虫症」でwikiを検索してみると良い。

基本的に寄生虫は異物のくせにしれっと寄生するために免疫抑制物質やごまかす物質を放出していますが、たまにそれでもバレて免疫細胞に取り囲まれて殺されることもあり、自然治癒もします・・・が、人間は寄生虫症に弱いので、変なものを食べたり妙な場所にいって変な病気になったら病院で見てもらうのが最善です(笑)
とはいえ、この免疫をごまかす物質というのが、現在アレルギーを初めとする自己免疫疾患全般のブレイクスルーになるのではないかと研究もされており、クローン病、多発性硬化症、セリアック病などの難病から、花粉症にまで効果があるのではないかと研究されています。
まだまだ研究段階ですが、ブタ鞭虫という人間には長期間寄生できない小さい寄生虫をわざと感染させた例では、症状が緩和した・・・という報告もあるようです。

●最悪ないきもの

話を戻してとびきりイヤなヤツの話もしておきましょう。

おそらく人類が最も忌避する存在の昆虫、それがヒフバエでしょう。
皮膚や内臓に寄生するハエの一群で、アメリカではラセンウジバエといういわゆる獰猛な人食いハエが家畜や野生動物、人間も問わずに無差別に襲いまくり多大なる被害が出たため、不妊化させた虫を使い、絶滅させたという事例があります。ただ近年フロリダの一部でまた生き残っていたものが復活しており、非常に問題になっております。この辺の生き物はだいたいグロ耐性のない人が検索すると死ぬほど後悔するので、検索するのはおすすめしません(笑)

寄生する生き物は、大きなもので有名なのは冬虫夏草、その名の通り、冬の間は虫だったのに、夏になると草(キノコ)になるというもので、セミの幼虫に生えるセミタケや、数多くの昆虫に寄生するキノコが知られている。ラストオブアスというゲームでは、人間に生えるキノコが人をゾンビ化しています。古くはマタンゴという邦画ではキノコ人間が描かれました。

人間に生えるキノコなんて無いだろうと思うなかれ、キノコ人間にこそならないものの、世界中に分布する非常に強いキノコにスエヒロタケというものがあり、過去に30例ほど肺に菌糸が広がって肺炎を起こすことが確認されており、都市伝説では足の角質から子実体(キノコ)が生えたなんて話もあります(流石に嘘だと思いますが)。
基本的に多く見られるキノコですが、免疫が極端に低下してない限り感染することはないので、そんなに心配しなくても大丈夫です。

また寄生虫というと、ウネウネな下等生物というイメージが強いと思います。実際に、吸虫や線虫といった動物は扁形動物(有名なのはプラナリアとか、大型の肝蛭などはプラナリアっぽい形で肝臓の中に住み着く、サナダムシも扁平動物)線虫は線形動物といって、高等な生物とは言いがたい生き物なので、言い方は悪いですが、下等な生き物(進化をそれほどしていない古い生き物)が高等な生き物(進化を経て複雑化した生き物)に取り入ってるようにも思えますが、自然界ではそうとも言えません。

例えば、チョウという魚類に張り付く寄生虫で、ウオジラミとして金魚にも寄生することで知られている寄生虫は甲殻亜門、カニやエビと同じグループです。同様に、カイアシ類というミジンコなどのグループの中にも高度な寄生性のものがおり、アンカーワーム(日本ではイカリムシ)と英語で言われるように、槍が魚に刺さったように頭を魚に突き刺して寄生する派手なものがけっこういます。

また、カニやエビ、フナムシの仲間も、それぞれ貝の中、魚の体表や口の中などに寄生する種類がおり、その中でも、フクロムシと呼ばれるカニの寄生虫は、もはや節足動物の名前のもとになる節は見られない臓器の一部のような形をしておりヒトデの中に寄生するシダムシに至ってはもはやヒトデの臓器と区別がつかないレベルで形状が退化しており、血管の集まりのようにしか見えない(ヒトデに血管は無いが)。

●宿主をコントロールする

寄生虫といえば、宿主をコントロールするというのが有名ですね。
一番有名なのが、カマキリやコオロギの体内に住み、一定期間を経て入水自殺をさせて腹から出てきて、池の中で卵を産むハリガネムシでしょう。

コマユバチというチョウや蛾の幼虫に寄生する蜂が有名です。コマユバチはイモムシの体内で生命維持に必要な最低限の部分以外を食害し、体を食い破って最後出てくるのですが、自分に寄生していた蜂の子が眉になり成虫になるまで、身を挺して守るという徹底した利用っぷりが有名です。

またカタツムリにまず寄生し、そこからオタマジャクシに感染、さらに鳥を最終寄主とする複雑な寄生生活環を持つヒラムシは、寄生したオタマジャクシがカエルに変態するときにエラーを起こさせ、カエルの足を増やすという不気味な生体があります。足がふえたカエルは足がもつれてうまく逃げれないため、鳥の餌になりやすい・・・ということです。

●人間をコントロールする大型寄生虫は少ない

現在、人間をコントロールするような寄生虫は知られていません。
最初にすこし触れた、メジナムシという寄生虫は、ミジンコの体内にまずは潜み、それを飲んだ動物に感染します。皮膚の下で大きくなって卵を川に放出したい成虫は、皮膚を食い破って川に行きたいわけです。
しかし多くの動物は都合良く川に入ってくれません。そこで、火傷のような痛み物質を発生させます。特に足にそれをおこし、足全体を焼かれたような痛みになることが知られています。そして熱いため水につけると都合良く痛みがとれるという物質を分泌しています。
水の中で痛みに癒やされている間に皮膚を食い破って川に戻る・・・というわけです。

現在人間をコントロールする寄生虫・・・といってもこの程度です。脳を操って凶暴化させたり、腹を破ってでかいカニが飛び出してくるとかそういうことはありません(笑)

というのも、生物の進化のスピードより人間が文化を得るのが早かった・・・というだけで、もし人間がこれから数万年という年月を自然とともに歩めば人間をターゲットにした大型寄生虫なども出現するかもしれません。その前に余裕で自滅して滅んでしまいそうですが・・・・。

 

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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タイトルイラスト:夢路キリコ http://www.yumejikiriko.com/