広い広いインターネットの庭には、フェイク・ニュースならぬフェイク・アドバイスもごろごろ転がっている。よほど気をつけて根っこを探っていかないと、どの情報が有用でどれがデマなのかを判別しにくいことも多い。
たとえばガーデニング。インターネットにはガーデニングに関するアドバイスが蔓延っている。そんな中でもよく見かけるのがコーヒーを抽出した後に残るコーヒーかすを庭に蒔くといいらしい、というものだ。
コーヒーの消費量は年々上昇しているだけに、ゴミとして出されるコーヒーかすの量も半端ない。捨ててしまうのはもったいない…というエコな風潮も相まって、ネットではコーヒーかすのさまざまな活用法が紹介されている。そしてガーデニングにもオススメされているようなのだが…。
ガーデニングの救世主?
試しに「spent coffee grounds, garden」で英語のサイトをググってみると、なんと43,700,000件のヒットがあった。最初に上がってきた50件に目を通してみると、そのうち44件はコーヒーかすをガーデニングの救世主かなにかのようにほめそやしている。
やっと荒熱が取れたぐらいのホヤホヤのコーヒーかすをフィルターもろとも堆肥に混ぜちゃえ!という大胆なアドバイスから、畑やプランターに直接蒔いてOK!と謳っているものまで、使い方はさまざまだ。
コーヒーかすの利点をまとめると、こういうことらしい。
- 植物の成長に欠かせない窒素を豊富に含んでいる
- 土に住む微生物に分解され有機肥料となる
- 土を酸性にする
- 土壌を改善し、水はけをよくする
- 雑草の育成を妨げる
- ネコ、リスなどの小動物を庭に寄せつけない
- ナメクジ、カタツムリなどの害虫を庭に寄せつけない
- 無料で手に入る
- 安全に扱える。

いいことばかりじゃない
残りの6件はコーヒーかすの使用に否定的、もしくは懐疑的だった。
コーヒーの淹れ方にもよるが、コーヒーかすのpHは酸性に傾いている場合が多いそうだ。だから酸性の土壌を好むアジサイ、ツツジ、シャクナゲ、ブルーベリーなどには向いているかもしれないが、一般的にオススメではないらしい。

もうひとつ、大量のコーヒーかすをそのまま庭の土に混ぜこんだ場合、分解されていく過程で土の中の窒素を使ってしまう。土に窒素を提供するどころか、逆に奪いかねないというのだ。

さらに説得力があったのはカフェインの存在だ。カフェインは人間をシャッキリさせる効果があるが、植物にとってはいわば「武器」。同じエリアに生えているほかの種類の植物の育成を妨げる効果を持つという。そもそもなぜコーヒーやカカオなどの植物がカフェインを作り出すように「収束進化」したのか?それはひとえに競争に打ち勝って、限りある土と水と光を確保するためだったのだ。
カフェインの矛先が向けられるのは植物だけではない。カフェインには抗菌作用があるほか、ミミズなどの土壌を改良してくれる有用な生物にまで害を及ぼすのだそうだ。

コーヒーかすの正しい使い方
ではコーヒーかすは使ってはいけないのか?総合的に判断すると、そうでもないようだ。
使い方次第、と諭しているのはロイヤルメルボルン工科大学に所属している研究者のTien Huynh氏。研究により、最低98日間は堆肥と一緒に寝かさないとコーヒーかすに含まれる毒素が抜けないことを突き止めた。
だからコーヒーかすをそのまま土に混ぜたり蒔いたりするのは逆効果。そのかわり、正しく処理したコーヒーかすなら安価な肥料になるうえにゴミを軽減できて、いいことづくめなのだそうだ。
コーヒーかすはガーデニングに使えるのか。答えはYES。ただ、いくら無料で手に入るからといって使いすぎたりそのまま使用するのはNGのようだ。インターネット上に転がる無料のアドバイス自体の扱い方もまた然りである。

山田 ちとら
*Discovery認定コントリビューター
日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。イチゴの苗に実がつきました。 https://chitrayamada.com/