知らざれる植物学:植物とアリのあま~い関係とは?

植物は受動的な存在にみえるが、じつはしたたかと言っていいぐらいに計算高く能動的だ。

いったん根を下ろしてしまったら動けないからこそ、あの手この手でまわりの生物を利用して自らの生存確率を高めている。毒を持つ植物、虫を喰らう植物、ほかの植物や動物に寄生する植物など、その生存方法はいろいろだ。なかには特定の生物と共生関係を結んだ植物もいる。

「アリ植物」はその名のとおりアリと共生関係を結ぶよう進化した。アリにとってのメリットは植物が分泌する蜜を食べさせてもらったり、葉や茎に棲み処を提供してもらえること。そして植物はそれらの見返りとしてアリにほかの有害な動物から守ってもらったり、種子を分散してもらったりする。

Credit: Field Museum

アフリカに自生するアカシアの一種と共生するアリは、なんとアカシアの葉を食べにくるキリンやゾウまで撃退してしまうそうだ。

そして驚くことに、このような共生関係はかつて恐竜たちが栄えた中生代から始まっていたという。

 

植物が先か、アリが先か?

中生代から始まったとされるアリと植物共生関係。しかしその関係を物語る化石はあまりに少なかった。

この共生関係はアリと植物のどちらが最初にしかけたのだろうか?科学者を悩ませていたこの問題を紐解いたのはゲノム配列だった。

アメリカのフィールド美術館が1,700種のアリと10,000種の植物のゲノムを解析し、いつアリが植物に依存するようになったか、また逆にいつ植物がアリへのサービスを提供開始したかを調べた。すると、まずはアリが植物のまわりをうろつきはじめ、そのことに気づいた植物がアリとの共生関係を結ぶために蜜や棲み処を提供し始めたことがわかったそうだ。

調査に加わったネルセン氏(Matt Nelsen)によれば、まずアリたちは木に登ってエサを探すようになったそうだ。その後、植物そのものを食すようになり、さらにその後木の上に棲みつくようになった。植物のほうは、その関係をより強固なものにするために蜜を作り出してアリに与え、さらに空洞の棘や茎などにアリを住まわせることで共生関係を確固たるものにしたと考えられるそうだ。

 

植物のワナ

ところが奇妙なことに、アリは植物から蜜をもらって棲み処を提供されても格段と生存率を高めた形跡はないそうだ。植物と共生の道を選ばなかったほかのアリとさほど変わらない種の繁栄を辿っているという。

「共生」とは言われているものの、このアリと植物の関係を凌駕しているのは植物のほうかもしれない。

その根拠として、アカシアの蜜に隠された大きな秘密がある。BBCによれば、蜜にはほかの植物の蜜を分解する酵素を破壊する成分が含まれているそうだ。ようするに、一度アカシアの蜜を口にしたアリはほかの植物の蜜を分解できなくなり、アカシアの蜜に依存せざるを得なくなってしまうのだ。

もうひとつ、植物の巧妙な細工がある。アカシアの花にはアリを退ける匂い成分が含まれている。花には通常虫をおびき寄せて受粉させるための甘い蜜や栄養たっぷりの花粉が用意されているのだが、この大切な花粉をアリに食べられてしまっては植物の害になるからだ。

植物とアリ――どちらがよりしたたかなのか。軍配は植物に上がっているように思えてならない。

 

山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。今一番大事にしている観葉植物はジュエルオーキッド。 https://chitrayamada.com/