世界一謎が似合う男レオナルド・ダ・ヴィンチ 500億円で落札された『サルヴァトール・ムンディ』も謎に包まれる

 

およそ1年前、歴史上最高額で落札された『サルヴァトール・ムンディ(救世主)』。レオナルド・ダ・ヴィンチの作品と伝えられているこの作品の落札額はなんと、4億5千万ドル(およそ500億円)。

真贋論争も絶えないこの作品はしかし、その後まったく公に姿を見せていない。

本来であれば、2018年9月に「ルーヴル・アブダビ」で公開予定であった。世界で最も注目される美術品の行方が、ようとして知れないという事態になっているのだ。

 

2017年12月7日のツイートを最後に痕跡を絶つ

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2017年11月15日、ニューヨークで行われたクリスティーズのオークションで、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品と伝えられる『サルヴァトール・ムンディ』が落札された。開始から18分47秒、4億5031万ドルという史上最高の落札額は世界中のニュースになった。落札したのは、サウジアラビアの皇太子ムハンマド・ビン・サルマーンと伝えらえた。

その後、ルーヴル・アブダビがツイートした2017年12月7日の同作品の写真を最後に、『サルヴァトール・ムンディ』は忽然と痕跡を消してしまうのである。

『サルヴァトール・ムンディ』は、65センチ×45センチという小さな作品で、一説にはレオナルド・ダ・ヴィンチがイエスの姿に自らの自画像を描いたともささやかれている。ルーヴル美術館の海外館として鳴り物入りで開館した「ルーヴル・アブダビ」は、この作品の落札と時期をほぼ同じくしてオープンした。

そして、作品の新たな所有者となったムハンマド・ビル・サルマーンは、友好を目的にこの作品をエミレーツ航空に貸し出すとも発表したのである。『サルヴァトール・ムンディ』は、ルーヴル・アブダビにおいて2018年9月18日から公開予定とアナウンスされ、美術ファンはその時を待ち望んでいた。

 

9月3日に公開延期!の通告が

ところが、直前の9月3日になってルーヴル・アブダビは、作品公開の延期を発表。

その後、『サルヴァトール・ムンディ』の消息はまったく闇に包まれている。

あらゆる取材を拒否し、ルーヴル・アブダビは『サルヴァトール・ムンディ』については口を割らないのである。

来年2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチの500年忌である。パリのルーヴル美術館も、2019年10月24日から開催されるレオナルド展に『サルヴァトール・ムンディ』を展示する予定ともいわれていた。しかし、メールでの問い合わせもなしのつぶてだという。また、レオナルド・ダ・ヴィンチの研究者からの作品分析などの希望も、すべて却下されている。それでも、世界のメディアは零れ落ちる噂を拾い上げて『サルヴァトール・ムンディ』の足跡を追い続けている。

 

2018年5月半ばまでは確実にニューヨークにあった作品

オークションハウスのクリスティーズと作品の購入者は、手付金と6回にわたる分割払いで500億円を払ったことが分かっている。最後の支払いは、2018年5月14日付になっていた。その時点で、作品はまだニューヨークに保管されていたと思われる。

作品の修復を手掛けたことがある研究者は、クルミの木のパネルに描かれた『サルヴァトール・ムンディ』は非常に脆弱であること、噂によるとイタリアの修復グループが2018年5月に同作品の額を製作したと話している。この作業を終えて、作品はニューヨークを後にしたはずである。

しかし、いったいどこへ?

クリスティーズは、プライバシーの侵害を理由に行き先は明らかにしていない。「中東にあるはずです」と答えしか返ってこないのだそうだ。

また一説によれば、9月にはスイスのチューリッヒにあったとも伝えらえた。保険に関する案件であったというのがその噂である。

 

ルーヴル・アブダビの宣伝か、はたまた政治情勢の悪化か

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いずれにしても、『サルヴァトール・ムンディ』の購入者と強いつながりを持つルーヴル・アブダビが、公開延期の理由を明らかにしていないことが謎をますます深めているといって間違いない。

ミステリードラマの常連レオナルド・ダ・ヴィンチは、その作品までもがミステリーになる運命なのだろうか。

美術史家やレオナルドの研究者たちは、ルーヴル・アブダビを喧伝したいサウジアラビアの皇太子の戦略だとか、政治情勢の緊迫が公開延期の理由だとも噂しているようだ。『サルヴァトール・ムンディ』の真贋問題も一向に解決しない今、研究者も美術ファンも望むことはただひとつ、作品の公開に尽きるのであるが。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007