グラディエーターから法王までも!古代から男子を魅了したサッカーやテニスの原形

国によっては、オリンピックより盛り上がるサッカーのワールドカップ。

近年の英国の研究によると、サッカーの勝ち負けが人々の心にもたらす喜びと落胆の落差は、人生における喜怒哀楽の最たるものという結果まで出ている。

だからこそ、というべきか。球技は、古代から男子たちの心を虜にしてきた。紀元前の時代から、球技は荒っぽいのが伝統的で怪我人が絶えなかったという。

皇帝からグラディエーター、法王まで、あらゆる男子を魅惑しつづけた球技には、長い歴史があるのだ。

 

 

ギリシアの喜劇詩人が記述した生き生きとした「球技」

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「パスが長すぎる!」

「ボールが高すぎる!」

「ボールを後ろに戻せ!」

 

現代の競技場にも響き渡りそうなこの掛け声は、紀元前4世紀にギリシアの劇作家であったアリストファネスが著作中に残したものである。

古代ギリシア時代には「エピスクロス」と呼ばれていたこの球技、厳格な肉体訓練で有名であった古代のスパルタでもよく行われていた。12人から14人が2チームに分かれて争い、チームワークを要するスポーツであったというからまさにサッカーの元祖といえる。当時は、手も使ってハンドボールのような要素もあったようだ。相手チームが、それぞれのチームの後方に引かれた白い線まで後退するまで攻めあった。

 

アウグストゥス帝もボール競技愛好者!

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古代ローマ時代には、「ハルパストゥム」という名の球技が存在が認められる。これは、古代ギリシアの流れをくむもので、ラテン語では「もぎ取る」「つかみ取る」という意がある。その名の通り、肉体と肉体がぶつかり合う激しいスポーツであった。ボールの大きさは、現代のサッカーボールよりも小さく固く、材料は麻や羊毛であった。

「パルパストゥム」は、ローマ帝国中の広場や通りで繰り広げられただけではなく、剣闘士やローマの兵士たちも訓練も兼ねて愛好した。

歴史家のスエトニウスは、次のように書いている。

ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスは、クレオパトラとアントニウス軍をアクティウムの海戦で破り帝国の権力を掌握した後、馬術や剣術の訓練に倦んで放棄してしまったという。あげく、「パスパルトゥム」をよく楽しんでいたのだそうだ。

史料が十分とは言えない「パスパルトゥム」はしかし、頑健とはいいがたかった美男のアウグストゥスにふさわしいスポーツであったのかどうか。2世紀のギリシア人作家アテナイオスによれば、パスパルトゥムは9人から30人で構成されるチームの激突であり、命にかかわるような怪我も日常茶飯事であったそうだ。人数やルールは、競技場の広さによってフレキシブルに変更されたというから、いかにも「寛容」をモットーにした古代ローマらしいではないか。

 

テニスの先祖も古代ギリシアに

一方、テニスは中世に生まれたといわれているが、中世の記述ではその起源はやはり古代ギリシアにあるとされている。

ローマ帝国時代初期の詩人オウィディウスの著作『恋の技法』には、三角形に位置する3人で遊ぶ球技についての著述があり、これがテニスの起源に関する最初の記録というのが通説となっている。

 

古代「医学の権威」も推奨した球技

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2世紀の医学者でのちの西洋医学に大きな影響を与えたガレノスは、球技を健康のために推奨した医師の一人である。

ガレノスによれば、球技は高齢者にも向くスポーツであり、特に冬期のウォーミングにはもってこい。また、女性も節度を持って球技を行えば怪我をすることもなく、健康には非常に良いと書いている。

この意見は、キリスト教の時代になっても変わらなかった。初期キリスト教時代の神学者アレクサンドリアのクレメンスが記した『訓導者』には、球技は教育のためにも大変有益とある。

広大なローマ帝国では、それぞれの地区で多少のルールの相違はあったにせよ、民族も宗教も超えた国境のないスポーツ、それが球技であったのだろう。

当時の球技の面影は、現代までフィレンツェに残る「カルチョ・ストリコ・フィオレンティーノ」に伝わる。サッカーとラグビーとプロレスを一緒くたにしたような歴史あるスポーツの見学者には、若き時代のレオーネ10世、クレメンス7世、ウルバヌス8世といった聖職者の姿があったという。

現法王フランシスコもサッカー好きで知られているが、これも伝統にのっとった事象なのかもしれない。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007