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古代ヨーロッパで使われていた脱毛症の治療薬、千年前の歯垢がヒントに

幸か不幸か、歯の衛生管理をいちじるしく怠った中世ヨーロッパ人の亡骸が当時の暮らしぶりを如実に物語っているそうだ。

スペインのバレアレス諸島にある共同墓地から見つかった遺骨は21~30歳ぐらいとみられる男性のもので、9世紀頃に生きたと考えられる。彼の歯には石灰化したプラーク(歯垢)がたくさんこびりついていた。

これだけでは「汚い」で終わってしまうのだが、その歯垢を分析して当時の食生活を調べた研究者がいた。

イギリスのヨーク大学に所属する考古学者のフィオリン博士(Dr. Elena Fiorin)は歯垢から麦・ライ麦などから由来するでんぷん質のほかにも、チャセンシダ(Asplenium trichomanes)という植物の胞子を発見。おそらく薬として煎じて飲まれたものと推測している。

岩かげなどに生えるチャセンシダ。世界中の暖帯に広く分布しており、日本でも全国で見られる。 Credit: Juan Bibiloni / Wikimedia Commons

ヨーロッパでは1世紀頃からチャセンシダが薬用に使われていた。当時の文献には、チャセンシダの生、または乾燥した葉を煎じ、時にオレンジの花やはちみつで味をつけて飲んでいた記録が残されているという。

鼻炎・脱毛症・フケ・腎臓結石に有効とされたほか、女性の月経をスムーズに進めるはたらきもあるそうだ。人類は2千年も前から脱毛症やフケに悩まされてきたということにもなる。

チャセンシダの葉の裏にびっしりとついている胞子。 Credit: Petr Filippov / Wikimedia Commons

残念ながら、今回発見された男性の遺骨からは鼻炎・脱毛症・フケ・腎臓結石のうちどの症状に悩まされていたかを知る手がかりはない。

しかし今まで文献でしか確認できなかったチャセンシダの医学的使用が、実際使われていたことを物語る重要な証拠になった。フィオリン博士は今後も同様の調査を続けてほかの薬草が使われていたかどうかも検証するそうだ。人類の歴史上植物がどのように使用されてきたかを知る手がかりとなる。

少々歯が汚くても、それはそれで人類に貢献できるのかもしれない。

 

山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。

小学生の頃、山で採ってきた「セリ」を母に頼んでお味噌汁に入れてもらったところ、「ドクゼリ」が混入していたことが判明…。家族が1/2の確率で食あたりに悩まされるハメに。植物の持つパワーは侮れないと思い知った体験だった。 https://chitrayamada.com/

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