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ルーヴル美術館内で作品を模写するのは2年待ち!「模写」のエリートたちとは?

大作や傑作を所有する高名な美術館内では、作品の前にイーゼルを立てて模写をする画家たちの姿を目にする。

世界で最も有名なルーヴル美術館内で模写を行うことは、実は非常にハードルが高い。そこで模写された作品は、どのように扱われているのであろうか。

 

それを「偽造者」と呼ぶなかれ

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芸術家として名を成した人々は、若き時代に先達たちの傑作を模写しテクニックを習得してきた。ミケランジェロはジョットを、ルーベンスはティツィアーノを、ベラスケスはラファエロを、マネはベラスケスを、ピカソはアングルを、といった具合に天才が天才の作品を模写し、技術をモノにし、自らのスタイルを確立したのである。

特に、美術学校が存在しなかった時代には、芸術を志す若者にとって偉大な作品を模写することはなににも勝る「師」であったと語るのは、2年ほど前までフランスにおける「模写」の大家と呼ばれたミシェル・シャンピオン氏である。

彼によれば、「模写」という生業は、長い歴史を誇る高尚な職業であるという。唯一、オリジナルの画家の署名を写すことだけは厳禁であった。これは、今も変わらないルールである

 

写真の登場によって衰退した「模写」という職業 しかし希望者は引きも切らず

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シャンピオン氏によれば、写真やコンピュータによる技術の普及によって「模写」という職業に従事する人々は激減したという。しかし、21世紀になった現在も、この職業は粘り強く残っている。

ルーヴル美術館内には、「模写事務所(Bureau des Copistes)」という部門が存在する。模写事務所には毎年、数えきれないほどの「模写希望者」の応募がある。しかし、ルーヴル美術館内で模写を許可されるのは、1年間に250人に制限されている。そして、フランスの国立高等美術学校「エコール・デ・ボザール」の生徒に、優先的に許可が与えられるという慣例がある。

こうした厳しい条件を課されてもなお、、ロシア、アメリカ、日本など世界各地からの「模写希望者」は、2年待ちのリストに名を連ねて順番を待っているのである。

 

フランス革命の時代に始まった模写の許可

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模写事務所所長のイザベル・ヴィルヴィル氏によれば、フランス王家や貴族、聖職者から没収された美術品が公開され、さらにそれらを芸術家養成という目的で模写されることが許されたのは、フランス革命の時代、1793年であったという。

エルミタージュをはじめとする世界各地の美術館とは異なり、ルーヴル美術館内で模写が許された人は無料入館が保証されている。ルーヴル美術館内の各部門では、希望者の中から10人前後を選択する。許可を許された人々は、通常3か月間、希望の作品の前で模写することができるというのが基本的な規則となっている。

 

万人監視の中で要求される集中力

こうして、ようやく作品の模写を許可された人々であるが、一般の鑑賞者の注目を浴びながら作品と向き合い、細部を観察し作品を完成するためには、非常に強い精神力を要求されるといわれている。とくに、人気の傑作ともなれば、作品に鑑賞者が群がるのだから3か月という期限の中で模写を完成することは楽ではない。

模写を行う人はそのため、美術館の外でも対象とする芸術家の伝記などを読み、芸術家の精神状態に近いところまで接近しようと努めるのである。

 

一時的に禁止されている『モナリザ』の模写

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こうして完成した「模写」作品は、ルーヴル美術館の模写事務所にすべて記録が残る。オリジナルの画家のサインを写すことが禁じられているほか、原寸大で制作することも禁止されている。

模写されることが多いのは、ボッティチェッリ、ドガ、レンブラント、デューラー、ルーベンスなどなど。最も多く模写されるのは、19世紀のロマン主義の画家ドラクロワだという。

ルーヴル美術館といえば、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』が有名であるが、この作品についてはつねに偽造の問題がついて回るため、ルーヴル美術館では一時的に『モナリザ』の模写は禁止している。

かつては、こうして模写された作品は、それを製作した人が販売することが多かった。しかし現在は、模写した作品を販売して生活の資にする人よりも、手元に残しておく人のほうが多いそうだ。職業というよりも、ディレッタントとしての「模写」が多勢を占めてきたというわけだ。

しかし、この質の高い「模写」に目をつけているのは中国の市場だという。細部にいたるまで本物そっくりの「模写」作品を、格安で販売する動きが中国で高まっている。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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