那覇・国際通りの“リバーシャーク” 『オオメジロザメ』

那覇。沖縄県の県庁所在地であり、南西諸島最大の都市でもある。生物の宝庫である沖縄においてもっとも人が多い反面、自然には乏しい環境であると言える。だがしかし、やはりここにもモンスターは出現する。

▲那覇市街地を流れる河川。沖縄県下でも屈指の一等地だが…。

『オオメジロザメ』。イタチザメやホホジロザメと並んで『三大人食いザメ』に数えられる大型のサメである。人食いザメが!那覇に!それだけでもB級映画さながらの大事件だが、驚くにはまだ早い。那覇のオオメジロザメはなんと海ではなく川に出没するのだ。

海の生き物であるサメが、どうして川へ?

そもそも海の生物が真水に入ると、どんどん体内に水分が入り込み、ついには体液が薄められてふやけ死んでしまうはずだ。
ところがオオメジロザメは周りの水の塩分濃度に合わせて体液の濃度を適正に調節する能力を持つ(これを『浸透圧調節』と呼ぶ)。そのため汽水~淡水域であっても生活することが可能なのだ。サケやウナギ、スズキやボラなど海と川を往き来する魚と同じ理屈である。

▲海と川を回遊する魚は浸透圧調節能力に優れている。例えば本州ではサケやウグイ、那覇の川ではオオウナギなどもそれに該当する。

オオメジロザメは熱帯性のサメで、特にまだ幼い小型個体ほど頻繁に河川へ入り込むことが知られている。その理由については諸説あるが、餌となる魚を捕りやすいという点も一つの要因だろう。
南国の河川は栄養が豊富で小魚や甲殻類が多数生息するが、その反面海は貧栄養で生物の密度が小さいのだ(北国ではこの条件が逆転する)。そのためサメ以外にもコチ、ヒラアジ、フエダイなどといった海の魚たちが餌を求めてわざわざ川へ遡上するのである。

▲沖縄ではサメ以外にも「えっ!これ海水魚でしょ!?」と驚いてしまうような魚たちが河川へ遡上してくる。写真はゴマフエダイ。

ところでそうした“お上りさん”たちは得てして沖縄本島でもより自然の豊かな北部の河川に多く見られる。森からもたらされるおびただしい落下昆虫を基にした豊かな生態系が築かれているためである。

だがオオメジロザメには例外だ。彼らはむしろ那覇市を中心とした本島南部の人口密集地域にばかり現れるのだ。北部の川では不思議と遡上がほとんど見られない。

これはおそらく河川の長さおよび水深と川幅に起因するものだろう。北部の手つかずな河川はその多くが細く短く曲がりくねっており、河口は狭く極端に浅い。これではサメが暮らすことはおろか、侵入することすら叶わない。

▲沖縄本島北部の多くの河川は那覇のそれとは対照的に下流域や河口ですら浅く、細く、短い。河口に土砂が堆積して完全に海との繋がりが断絶している川も珍しくない。

一方で那覇には比較的長大な川がいくつか見られる上、それらはすべて治水や航行のために川幅を広く護岸、深く浚渫している。那覇の河川は住民が多いからこそ、サメが入り込みやすい環境になったと言えるだろう。

僕はこのサメの奇妙な生態に惹かれ、観光客がギャラリーを作る中で度々も彼らを釣り上げては観察を行った。

ただし捕獲されるサメのほとんどは全長60cm程度から、大きくても1mちょっとの若い個体であった。

▲国際通りのど真ん中、モノレールの駅前でも。
▲現地ではティラピアやオオウナギなどと同じく子どもたちの遊び相手にもなっている。これが釣れればさぞ学校ではヒーローだろう。

しかし一度だけ、1mほどのオオメジロザメが潜水艦のように巨大な魚影に追い立てられているのを目撃したことがあった。あれは、追う側もまた間違いなくサメだった。なぜなら水面にあの背ビレが覗いていのだから。

南米のニカラグア湖やアマゾン川、東南アジアのメークロン川などでは全長2mを超える大型個体が捕獲された例もあるという。川幅と水深さえ十分であれば、そうした大物も入り込む可能性はあるということだ。

もしかすると那覇の川にも人知れず本当の『人食い』サイズが潜んでいるのかもしれない…。そう考えると恐怖よりもロマンを感じてしまうのは僕だけだろうか。

平坂寛

*Discovery認定コントリビューター

生物ライター。五感で生物を知り、広く人々へ伝えることがポリシー。「情熱大陸」などテレビ番組への出演や水族館の展示監修などもつとめる。著書に「喰ったらヤバいいきもの」(主婦と生活社)
「外来魚のレシピ: 捕って、さばいて、食ってみた」「深海魚のレシピ: 釣って、拾って、食ってみた」(ともに地人書館)がある。
ブログ:平坂寛のフィールドノート

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