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生涯で7万件以上の悪魔を追い出したとされるアモルト神父…ローマ法王たちも公認する悪魔との戦い

1973年に公開された映画『エクソシスト』を皮切りに、悪魔祓いをテーマにした映画は『ザ・ライト』『エミリー・ローズ』『コンスタンティン』などなど枚挙にいとまがない。

実際に歴史の流れの中で悪魔祓いについて追っていくと、時代によって流行り廃りがある。近年、前法王ベネディクトゥス十六世は「悪魔」の存在に肯定的であったといわれており、現法王フランシスコもこの流れを踏襲している。このローマ法王庁から、公式の「悪魔祓い」専門家としてお墨付きをもらったうえ、ドキュメンタリー映画の主人公にまでなった神父がいる。その名は、ガブリエーレ・アモルト、通称「パードレ・アモルト」である。

 

聖職者と同様、ラテン語を解する悪魔

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暗黒の中世などと呼ばれて、悪魔が闊歩していそうなイメージがあるヨーロッパの中世であるが、実は中世には「悪魔祓い」はまったくお呼びではなかったという。

しかし、新約聖書の『ルカによる福音書』8章や『マルコによる福音書』5章には、イエス・キリスト自身が人々を悪霊から解放するシーンが登場する。そのため、キリスト教会の歴史の初期から、悪魔の存在は不可欠なものとして存在はしていた。ただし、教義上悪魔の定義がなされたのは、1215年のラテラノ公会議が最初である。歴史学者のナンシー・カシオラによれば、民衆に「奇跡」や「最後の審判」を教えるためには必要な定義であったということになる。

中世のこんな笑い話がある。

ある司祭のもとに、悪魔に取りつかれた農夫が連れてこられた。司祭は、農夫に取りついた悪魔と話をしようと、当時のエリートたちの公用語「ラテン語」で話しかけた。すると、無知で文盲の農夫の口からラテン語の答えが戻ってくる。司祭は、「これは悪魔に取りつかれたことに間違いない」と確信するのである。つまり、ラテン語を話す「悪魔」は、あくまで教養のあるエリート層が作り出したものであるというわけだ。ちなみに、ラテン語は現在もバチカン市国の公用語である(バチカン内のATMまでラテン語表記である)。

 

悪魔祓いを公認した近代の法王たち

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「悪魔」の存在は、かようにローマ法王たちの戦略の一端として使用されることも少なくなかった。たとえば、14世紀に起こった教会大分裂の時代には、悪魔祓いの儀式が横行していた記録がのこる。

カリスマ的な人気のあったヨハネ・パウルス二世、前代未聞の法王退位を行ったベネディクトゥス十六世は、キリスト教会内では「保守派」に属していた。そのため、「本来の神学的思考を促進する」ために、悪魔祓いについてはお墨付きを与えたというのが通説となっている。

 

「悪魔祓い」に使用されるお祈りに登場する聖人は、悪魔成敗の経験あり

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実際に、キリスト教会に伝わる「悪魔祓い」とはどのような行為なのであろうか。

1988年に、バチカン公会議の際にまとめられた悪魔祓いに関するキリスト教会の教科書『De exorcismis et supplicationibus quibusdam』は、直訳すると「悪魔祓いとそのための祈り」となる。1641年に編纂された書籍の改訂版である。

ここで登場する祈りは、悪魔を成敗した大天使ミカエル、ドラゴン退治で有名な聖人ゲオルギオス、精神を病む人人を守護する大天使ラファエルなどの名を冠した祈りが主流となっている。

そして、この儀式を行う聖職者の資質も、精神的にもスピリチュアル的にも常に均衡を保てることが第一条件となっている。

 

悪魔と対話する「パードレ・アモルト」

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国内外にその名を知られたパードレ・アモルトは、悪魔祓いの世界では最も高名な聖職者の一人であった。2016年に91歳で亡くなるまでに、追い払った悪魔の数は7万を超えるという逸話を持っている。世の中にはいったい、どれだけの人が悪魔に取りつかれているのかとそちらが気になる数字ではないか。

実際に、パードレ・アモルトから悪魔を取り祓ってもらった人によると、神父は「私は悪魔より醜男です。だから、悪魔が逃げていくのですよ」というジョークまで飛び出す人間的な人であったと語っている。

パードレ・アモルトは、早くから聖職界に入った人物ではあるものの、大学では法律学を学ぶなど狂信的なところはひとつもない人であった。神学者であったカンディド・アマンティーニから悪魔祓いについての薫陶を受け、1991年に国際エクソシスト協会(International Association of Exorcists)を設立。てんかんなどの病気を患っていないかを調査したうえで、様々な条件の下で悪魔祓いを行うことを目的とした協会は、2014年にローマのカトリック教会からも認可された。というのも、弱者から金銭をむしり取ることを目的とした「偽」の悪魔祓いが後を絶たないためで、カトリック教会のお墨付きのあるこの協会に属している人物ならば身元も確かというわけだ。

アモルト神父ののカリスマ的な威力は、『エクソシスト』の監督ウィリアム・フリードキンをもいたく感動させたようで、2017年に『悪魔とアモルト神父 現代のエクソシスト(The Devil and Father Amorth)』というドキュメンタリー映画を製作している。

パードレ・アモルトの死後、ドン・ヴィンチェンツォという後継者が跡を継いだ。

パードレ・アモルトの生前には、毎日600人の除霊希望者からの問い合わせがあったという。後継者のドン・ヴィンチェンツォは現在、一日30人の悪魔に取りつかれた人々の除霊を行っているという。

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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