Credit : Kelly Hopping via EurekAlert!

金よりも高価、でもグロテスクな「冬虫夏草」が温暖化の影響で激減

冬虫夏草(とうちゅうかそう)という媚薬がある。

RPGに出てくるお助けアイテムみたいな名前だが、甘くみてはいけない。冬虫夏草の正体はガ・アリ・セミなどの虫を生きたまま蝕むキノコ菌の総称だ。主に幼虫に寄生し、内側からじわじわとその生命力を奪っていく。

やがて幼虫の体を食い尽くした冬虫夏草は、最後に皮を食い破って地上に菌糸をのばし、胞子を飛ばして新たな宿主を探す。自然界を生き延びるためには手段を選ばない、狡猾でたくましいキノコの姿だ。

Credit: Rafti Institute via Wikimedia Commons

世界中で1,000種以上の様々なグロテスクな姿をした冬虫夏草が確認されているが、なかでも一番知名度が高く、グラム単位で金の3倍も値が張る冬虫夏草の代表格が上の写真で見られるシネンシストウチュウカソウ(Ophiocordyceps sinensis)だ。

シネンシストウチュウカソウはチベット高原のみに分布し、海抜3,000~4,000メートルの高山地帯で暮らすオオコウモリガ(Hepialus armoricanus Oberthur)の幼虫に寄生する。本来ならオオコウモリガは地面で産卵し、孵化した幼虫は地中にもぐり4年の歳月をかけて大きくなる…はずである。

ところがこのオオコウモリガの幼虫が土にもぐる前にシネンシストウチュウカソウに寄生されてしまうと、ゆっくりと養分を吸い取られ続けることになる。そして4年目の春のおとずれと共にとうとうトウチュウカソウに体を食い破られ、死んでしまう。

冬は虫の姿で過ごし、夏には草になると考えられたことから「冬虫夏草」とチベット語で名づけられたそうだ。

Credit: Kelly Hopping via Stanford University News

なぜ金よりも高いのか

シネンシストウチュウカソウは優れた漢方薬としてチベットや中国で古くから重宝されてきた。強壮効果・抗がん作用・腎臓強化作用・抗炎症作用・アンチエイジング効果など、その効能は幅広い。

それらの効能を裏付けるかのように、シネンシストウチュウカソウからは細胞のガン化を抑制するコルジセピンや、腎臓血管拡張剤として使われるマンニトールなどの薬効成分が検出されている。

エキゾチックな名前とグロテスクな姿相まって、1990年代からは欧米でも「ヒマラヤのバイアグラ」や「ヒマラヤゴールド」として知られるようになった。たとえば、EurekAlert!によれば、ラスベガスではシネンシストウチュウカソウが7グラムほどしか入っていない一杯の粥が688USドルという仰天プライスで提供されているそうだ。

 

持続不可能に

いまや110億USドルとまで言われる巨大な国際市場に成長したシネンシストウチュウカソウだが、あまりに受容が急成長したために供給が持続不可能になりつつあるそうだ。

摂り過ぎたために個数が減少していると同時に、密猟者が草原を荒らしてオオコウモリガの生息環境を悪化させてしまっている。さらに追い打ちをかけているのが地球温暖化の影響だという。

 

温暖化が致命的?

米スタンフォード大学の研究者が調べたところ、シネンシストウチュウカソウはチベット高原の永久凍土が確認できる場所でもっとも繁殖していることがわかった。ところがチベット高原一帯の気温は年々上昇しつつあり、1979年に比べて4℃も高くなっているそうだ。

このまぎれもない地球温暖化の影響がヒマラヤの永久凍土を上へ上へと押し上げている。オオコウモリガと、オオコウモリガを養う植生が永久凍土と共に存続しないかぎりは、シネンシストウチュウカソウの未来もない。

 

山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。チベット高原にほど近いネパールの高山地帯で暮らした経験を持つが、トウチュウカソウを実際見たことはない。 https://chitrayamada.com/

RELATED POST