アリエナクナイ科学ノ教科書:第5回 霊能者の話術

— ここはとあるミステリアスな美人霊能者のタロット館
そこにやってきた貴方は、噂を頼りに藁をもつかむつもりでやってきた。

「貴方は、仕事に不満がありますね?」
「ふーん。なるほど、人間関係ですか」
「嫌な上司に困らされているのですね・・・・」

「どうしてそんなことが・・・・」

安いドラマにありがちな展開で恐縮なのですが、本講のテーマは錯覚。錯覚といっても目の錯覚から、気のせいのレベルまでいろいろ。まず最初は「読心術」からです。
これのどこが錯覚なのかって? 読心術こそ錯覚を利用した話術の1つだからです。

●霊能力を暴く

霊能力で人の人生が見える? 残念ながら人類にはそんな能力はありません。もし、そんなものが分かるなら、霊能者は真っ先に、世界中のスーパーセレブの心を透視し、そこから株式投資して億万長者になっているはずです、依頼主からセコい金額をとったりしていません。

では、人間にそうした超能力が無いにもかかわらずあるように見えるのはどうしてなのでしょうか?

これはホットリーディング、コールドリーディングと呼ばれる、占いのためのテクニックです。

相手からあらかじめ情報を集め当てていくように見せるのがホットリーディング。言い換えればヤラセに近い内容ですが、後のコールドリーディングと合わせることで絶大な「霊能力」感を出すことができます。

コールドリーディングは、投げかけた質問や、仕草などを克明に観察し、鍛えた洞察力で当てに行くパターンです。人間、無くて七癖、例えば、言いにくい話をするときや、嘘の告白をするとき、言いたくてたまらないことを言うとき、手足の仕草や顔の表情というのは時にダイナミックに、時には繊細に変わります。

そこを読み取って、例えば、上司の話をしだしたとたん、鼻の横に嫌悪の皺を一瞬だすーー無意識の嫌悪の表情をしたときに、会話を遮るように「貴方が嫌いなのはその上司のことですね」とたたみかけると、人は無意識の表情など知覚できないので、心を見透かされたように感じるわけです。
また褒めたり、けなしたり、相手の感情を揺さぶることで、そこから溢れ出た情報をつなぎ合わせていく・・・まさに敏腕捜査官顔負けの技術といえます。

ーーまず先に断っておきますが、これらの技術自体は悪ではありません。

こうした技術を霊能力と唄って、わけわからん壺を売りつけたり、お墓を新調させたりといった、商売と結びつける行為は詐欺といって、基本的に犯罪です。

ですが、適切なお金をもらい、その上で「占いです」と行った上で、人の悩みを聞き、その悩みを超自然的な雰囲気で癒やし、その人が納得する理由付けを与え、迷いに対してアドバイスを送ることが、大半の「正しい占い師」です。例えば手相や人相というのも、その人が不幸な顔、眉間にシワがしっかりでていれば悲しみの多い人生であると「読める」わけで、「笑顔のしわ」がある人は仕事は順調だが、踏ん切りがつかないことがある・・・と「読める」それが占いなのです。

しかし正しい占い師も、時に盲信されることが続くと、占い師も人間であり、欲や権力に負けて、正常な判断ができなくなり、テレビに出ては「しかし地獄行く」みたいに人を脅かすようになったりして、インチキ霊能者顔負けのどぎつい商売に手を染めることもあるわけです。

そういうわけで、ここで紹介していく技術も、人間の行動学に根ざしたものであり、歴とした科学の1つ。人間の行動というもの、心理の作られ方を紐解けば、ミステリーの登場人物の洞察力アップにも役立つこと請け合いです!

「ものはいいよう」

この煙に巻くようなレトリックこそが、コールドリーディングの基本となります。
コールドリーディングは、相手の気持ちと感情を読み、さらに言葉を巧みに操り相手から「信頼される」ということを最重要課題としています。

占いの館が、ガラスとステンレスでできた無機質なAppleの新社屋みたいな近未来な建物ではなく、役所の相談窓口のように呼び出し番号を持って待つようなこともなく、薄明かりの中、ミステリアスな人間が雰囲気をだして厳かに相談を受けるのも、雰囲気によって信頼を得るためです。雰囲気でまず相手をよわせる必要があるわけです。そんなに誰にも通用するわけない・・という貴方。そういう人はそもそも利用しません。

●8割の確率で当てに行き、外れたことを悟らせない

コールドリーディングは基本的に相手からいかに情報を聞き出すかが重要です。そして外しても言い方をふわっと変えるだけで有耶無耶に・・・。

例えば、事前に車を持っているという情報があったとして、
「あなたの中に 白っぽい車のイメージが見えます」

なんてことを言います。基本的に原色の車に乗っている人は珍しく、無難に黒か白の車が大半です。白っぽいといえば、グレーも含まれますし、ある程度の年齢なら過去に乗ってきた車の中に白っぽい車があった確立は相当に高いといえます。
また、相談者の悩みの種の人物が乗っている車が白っぽい可能性も入れると、かなりの確立で当たります。

ここで「それは妻の浮気相手の車のことですね、白のセダンに乗っています」みたいな話を引き出すことができれば最高なわけです。

仮にかすりもしなかった場合は、「あなたの中にみえたということは、貴方が普段よく見ている光景に・・・」などと言えば、「お向かいのXXさんが 白っぽいかわいい車に乗っています」みたいな情報になり、そこから何も無ければ別に掘り下げる必要もないわけです。いわゆるただの「雑談」として流すことができるわけです。

同様に事故なども「水にまつわる良くない記憶がありますね」みたいな当て方も常套句としてあります。水難事故、水道破裂、コーヒーをこぼした、あらゆる過去の事例がいくらでも該当するので、無い人はいません。「そんなん誰でもあるんじゃないですか」なんて野暮な質問をさせないために、雰囲気を出しているともいえます。

逆にそもそも相談に来ているのに乗ってこない方がおかしいわけで、そこにしつこく猜疑心を挟んでくる人は「邪気がひどくて何もみえない」と追い返せばいいだけですし、悪質な詐欺師だとしたら「騙しにくい相手」ということで、カモ候補から外してさっさと追い払うだけ・・・というだけです。

推理小説では「カマかけ」にあたるわけですが、コールドリーディングにおいての「カマ」は相当ゆるゆるのもので、しかも「かけた」ということを悟られないという部分がキモなわけです。

●人格を相手好みに変容させる

厳かな雰囲気で始まる占い、ないしは霊能力。
この最初の雰囲気作りで大事なのは、「キャラ」を相手に悟らせないという非常に重要な仕掛けがあります。それは推理モノでも実際に使われている、相手にあわせたキャラクター作りという作業を行う話術にあります。

基本的に人間は同族に対して多少なりとも嫌悪感を持ちます。例えば、同性で職業も同じ人で、好みまでドンピシャで一緒ならいいですが、自分の嫌な部分までソックリな人物がいて、その人に大きな悩みを告白するでしょうか? たぶん、自分から遠いタイプの人に相談するはずです。

これを単純化してやっていたのが、刑事コロンボで、間抜けなうだつの上がらない中年を演じて、相手に油断をさせて墓穴を掘らせていくスタイル。それがコロンボ式。
最初から「彼は超敏腕凄腕刑事のXXだ、どんな容疑も見逃さない」みたいな紹介をされたら、無関係な人まで警戒して取り得る情報が見えなくなります。

コールドリーディングにおいては、相手の望む人格を、話し方からくみ取って、それを自己投影していくことで、「こんな人に逢いたかったんだ!!」と相手に思わせるということがテクニックの1つとして紹介されています。これも最初に話をした「信用を得る」という部分に密接に関係しており、後のホットリーディングと合わさることで、超能力かと思われるとんでもない話術となるわけです。

● ホットリーディング やらせの霊能力

以前、深夜番組かなにかで、芸能人が凄い怖い思いをしたという話がありました。

話によると、最近不幸続きだったんである番組である霊能者に家を霊視してもらった・・・という。

霊視の結果、トイレに扉のようなものが見える・・・と聞き、トイレにそんな扉なんてあるかいな・・・・と家に帰り探したら、小さなパネルのドア(おそらく水回りの管理用パネル)があり、開けたらなんと、長い長い女の人の髪の毛がゾバアアアアアアアアッって出てきた・・・という。

ゾワっとしました? ・・・ちょっとした怖い話ですね。

で、これはすごいオチがありまして。自分もたまにテレビに呼ばれ、テレビ局や番組制作会社にお邪魔して、そのときに役者さんよりADさんや制作部の人と、よく話をします。

話の中でちょうど霊能力の番組の話をしていたら、そのADさんが友達がこの前ヤラセの仕込みをやったという話をしていたので、詳しく!! と話を聞いたところなかなか興味深い話がでてきまして。

ーーある芸人さんは酔い潰れて家に送るのがよくあることらしく、そのときに、プロデューサーから頼まれて、家に送り届けるついでに長い女性の髪の毛をビニール袋に入れて仕掛けにいったんですよ・・・というもの。

たまたま知っている話とたまたま聞いた話が合致したので、なるほどガッテンだったわけですが、このように、明確で手の込んだ仕込みをするのはむしろ面白い部類ですが、90年代のテレビ黄金期の霊能力番組の関係者の暴露本などでも、配達員の人物にお金を渡し、玄関先の間取りを記憶してもらう(写真をとってきてもらう)、トイレを借りるフリをして家の中をざっと見てもらう・・・といった「下調べ」を出演者の芸能人の自宅にやって、それを霊能者(自称)に伝え、先のコールドリーディングと併せて、「霊視」をしていたことは暴露本などに書かれています。

初対面の霊能者が「貴方の家のドア、いつもチェーンをしてて、珍しい・・・赤いドアだ・・・」と目をつぶり、雰囲気をだしながら「右手に階段がありますね、電話もみえます」・・・なんて言い当てられたら「これは本物」って思うかもしれませんね。

●ネットストーカーと霊能力

現在のIT化社会だと、この霊視はより一層簡単なものになりました。

もはや霊視なんてセコいことはせず、アメリカでは直接誘拐や窃盗犯の最も愛用するツールがあります。犯罪者が利用するネットサービス、ダークウェブなどでしょうか?

なんのことはない、SNSです。特にTwitterにFacebookなどのWEBからオープンアクセスに近いSNSは個人情報の漏洩元となりがちです。

特にfacebookは家族構成などを基本的にオープンにするよう推奨しており、実名登録を原則基本としています。

実際にあったアメリカの事件では、町でみかけたちょっとお金持ちそうな家族がいたら、ちょっとついて行ってクレジットカード決済をしたあと、なにげなく捨てたレシートを拾いそこから、カード会社に嘘の問い合わせをして名前を聞き出し、その名前で検索して、ページを開くという恐ろしい話も。

年配の利用者がはセキュリティ意識の低い人が多いのもあいまって、大半の人がそのまま無防備に個人情報を晒しています。そして多くの人がそれを個人情報だと認識していません。

リビングでの楽しそうな写真からは、家の広さ、後ろの映る家具からは収入が、多くの情報が透けて見えます。友達にしか公開していないからといっても安心できません、大学や職場などを共通に設定して、フレンド申請を送ったら、同郷の友と勘違いしてくれるかもしれません。

こうしてクリックだけで集められた情報の中には、より危険性の高いものがあり、例えば毎週どこどこの公園で子供と遊びにいくのが日課なの・・・なんて話から子供が誘拐されて身代金を請求される。そうした事件が頻発しています。

または、誕生日の日付や子供の名前などから、WEBサービスのパスワードを当てられたりとか、そうした被害も起きています。

また、SNSのサービスによっては、写真の中のexifデータの中にはGPS情報が書き込まれてますから、そこから即座に自宅がばれるなんてことがあります。
流石に最近の大手SNSではそうした問題がないように位置情報を削除したり、exif情報自体を勝手に削除してくれる・・・・のですが、SNSの中にはそうした個人情報をビッグデータとして習得し、追跡広告などに使うためキープしているところも少なくありません。

しかしそうしたものではなく何気なくアップした画像、例えば写真に写ったレシート1枚からコンビニを特定し、そこから家の中での自撮りからカーテンの柄・・という少ない情報から家が特定されることもあります。アイドルなどのストーカー事件の犯人はとんでもない時間と労力をかけて調べていたりすることがあります。

急速なデジタル化の波の中で、デジタルを悪用した悪霊に出会わないよう、個人情報の取り扱いには、より注意して生きる・・・思いのほか息苦しい世界は、もうすぐそこまで来ている気がします。

くられ

*Discovery認定コントリビューター

サイエンスライター、Youtuber、大学講師第など幅広く活躍。「アリエナクナイ科学ノ教科書」(ソシム)日本SF大会主催 49回 星雲賞ノンフィクションを受賞。近著は化学の生化学の入門を楽しいキャラで学べる「毒物ずかん」(化学同人)、アリエナイ理科ノ大事典(三才ブックス)薬理凶室名義 などがある。現在週刊少年ジャンプ連載中の「Dr.STONE」では科学監修を務める。

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