幽霊を作ってしまえ!17世紀から始まった「幽霊製造」の歴史

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」とは、実体はたいしたことがないのに怖い怖いと思って見ると幽霊に見えてしまう人間の心理をいいえて妙である。「怖いもの見たさ」とはまさに幽霊のためにあるような言葉で、出るはずがないとどこかでわかっていながら見たくてたまらない。

そうした人々の思いにこたえるために、人間は「幽霊を製造する機械」を発明してきた。18世紀から19世紀のヨーロッパで大流行したこのしかけは、「ファンタスマゴリア」と呼ばれている。

幽霊を作り出す科学者たち

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幻灯機(マジック・ランタン)と呼ばれる機械を使用した幽霊のショー「ファンタスマゴリア」が大流行したのは、18世紀からである。

その歴史をさかのぼると、イエズス会の司祭であったドイツ人の学者アタナシウス・キルヒャーによってはじめて幻灯機が作られたのは、17世紀半ばであった。壁や布に物体を投影できるキルヒャーの幻灯機は、ランタンの内部に凹凸のついた鏡とろうそくが設置されていた。ガラスに描かれた絵が、これによって投影できる仕組みになっている。

幻灯機は、キルヒャーより少し前に、光が波であることを発見したオランダの科学者クリスティアーン・ホイヘンスによって発明されていたという説もある。いずれにしても、17世紀半ばに発明された当時は、それほどおどろおどろしい仕掛けはなかったようだ。

それが、視覚効果を狙って幽霊やお化けを登場させ、ショービジネスにまで発展していくのは18世紀に入ってからのことである。

 

幽霊ショーの大流行

ヨーロッパで大流行する幽霊ショーとしては、18世紀後半にドイツのライプツィヒでヨハン・ゲオルク・シュレープファーという男が、自らが経営するカフェの客を喜ばせるために幻灯機を使用していたことがわかっている。彼は、カフェ内に「交霊」を行うサロンを設けて幻灯機で客を沸かせていた。10年以上も続いたこのショーは、因縁めいたことにヨハン・ゲオルクが1774年に自殺したことで途絶えた。

フランスでは、1770年にヴェルサイユの貴族たちの無聊を慰めるために、興行師のフランソワ・ドミニク・セラファンが影絵を使ったマジックを行った記録が残る。幻灯機を使用して幽霊や骸骨を出現させ、煙まで効果的に使ったというからプロである。

 

「これは本物の幽霊ではありません」とショー後に説明を求められたロベール

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フランスではさらに1797年、ベルギーの物理学者で発明家であったエティエンヌ・ガスパール・ロベールが、パリにおいて「ファンタスマゴリア」と名打ったショーを発表し、大評判となった。

こうした背景には、時代も味方していた。革命後のフランスは、啓蒙主義からロマン主義に移行しつつあり、大衆は幻想的なものに惹かれやすい傾向にあったからである。

ロベールは、パリのヴァンドーム広場近くにある荒廃した地下聖堂を借り受け、ここでさらに効果的に幻灯機を使ってより壮大な幽霊ショーを行った。荒廃した地下聖堂の装飾や空気はこのショーにはうってつけで、6年もの間ロベールはショーを興行し続けている。効果音まで導入したこのショー、パリ市民たちは恐れおののいてついには「ギロチンにかけられたルイ十六世がよみがえった」という噂までたったという。

あまりに真に迫っていたこのショーには、ついには警察が介入する事態になった。ロベールは、登場した幽霊が偽物であり幻灯機によって作り出されたものであることを、公衆の面前で説明する羽目になったという言い伝えまである。

 

イギリスで誕生したエンターテイメントとしての「ホラー」

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ファンタスマゴリアの流行は、19世紀に入るとアメリカやイギリスにも飛び火する。

1801年にロンドンのライシアム劇場に登場したポール・フィリドールは、フランスの先達たちとは違い、はっきりとファンタスマゴリアが「エンターテイメント」であることをうたっていた。産業革命で沸くイギリスで、新たな技術を用いた「産業」として幽霊がテーマとなったのが興味深い。観客はもはや、幽霊の登場は技術力の結実としてしか見ていない。それでも、幽霊を登場させてどきどきさせてくれ!と言っているのである。

これが、20世紀に入ってからのホラー映画の原点であったことはまちがいない。

 

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007